第一話 異世界の歩き方 入門編
1 何じゃこりゃ!?
「ん……うぅん……」
瞼越しに感じる陽射し、肌を撫でるそよ風、遠くに聞こえる小川のせせらぎ。
目を閉じていても感じる五感の刺激によって、俺の意識は覚醒を始めた。
「俺、転生したんだ……」
陽射しを遮るように翳した手を見れば、白くて細い綺麗な指先があった。できたてほやほやの転生体なためか、キズ一つ無い。
のっそりと身を起こせば――
「!?」
あり得ない荷重移動を感じ慌てて視点を落とし、
「何じゃこりゃ!?」
俺は我が目を疑い、絶叫してみせた。
そこにあったのは二つの膨らみ――所謂おっぱいが鎮座していたのだ。
「女になって――!! 声まで変わってる」
自分の発する声が普段よりも高く澄んだものへと変貌していたことに気が付いた。そっと触れる喉にはのど仏は存在せず、そのまま顎へと這わせた指先は無精ひげ一つ無い滑らかな肌の上を滑っていた。
恐る恐る胸を揉めば、
「あんっ……」
揉まれていると言う刺激に吐息がこぼれた。
ふにふにと、柔らかくも確かな張りと弾力をそれは秘めていた。
その頂点にはぷっくりとした、男のそれよりも大きなピンク色の突起物がある。
「どうして女に?」
胸の感触を確かめながら、地球の魂の座での出来事に思いを馳せれば、
「そう言えば、転生体をメイキングしていた時に何かを変えたって言っていたよな」
ロロさんの呟きが思いだされた。
「あれってもしかして……性別のことか!?」
そうとしか考えられなかった。
胸から腰へと手を移動すると確かなくびれがあり、その下には柔らかそうなおしりがあった。
なるべく考えないようにしつつもその手を前へと移動させれば――
「やっぱり無くなってる……」
長年親しんだ相棒が玉ごと綺麗さっぱりと消失していた。
「…………」
その後も身体を確認すると、完全に女のそれなのが解った。そして、
「髪は薄い翠色をしてるんだ」
腰まで届く長い髪は、地球人ではあり得ないパステルグリーンの色をしていた。
「しかし裸ってのも――おっ、服みっけ」
直ぐそばに、服と装備品らしきものが一式揃えられていた。
まずは白いパンツを手に取りすらりとした足を通す。
普段、トランクスばかり穿いているから、尻にぴったりと貼り付く下着は不思議な感じがした。
何より、股間のすっきり感が際立つ。
転生体とは言え、未使用のままお亡くなりになられた相棒に、思わず手を併せたくなる気分だ。
「次は――っと、付けないと不味いよな?」
パンツの次に手に取ったのは同じく白の――ブラジャーだった。
パンツ以上に照れと恥ずかしさと、何よりの背徳感があった。それでもノーブラで居続けるのは不味いよな。
って言うか、ブラジャーってあるんだ。
ファンタジーゲームな感じの世界らしいから、下着なんかも中世以前のレベルの代物しかないと思ったんだけど……
マジマジと確認すれば、縫製部分は規則正しく等間隔で縫われており、手縫いではなさそうだ。
ロロさんの言いぶりだと俺以外にも何人か転生させていたみたいだから、ミシンとかがあってもおかしくないのかも知れないな。
現状からズレていく推測を止め、それを身に付けようとまずは肩紐に両肩を通し胸へとカップをあてがう。
「――っと、結構難しいなこれ」
背中で止めるホックに難儀しながらも何とかそれを身に付けることに成功した。途中、長すぎ髪を巻き込んだりの失敗はしたけど。
「おぉー」
少し動いてみては、自然と感嘆の声がこぼれた。
ノーブラの時は少し動いただけで揺れた胸が収まったのだ。女が日頃ブラを付けている理由が解ったかも知れない。
そして何より、
「谷間って出来るんだな」
カップによって左右から支えられた胸の間には、小さいながらも谷間が存在していた。
不思議な気分だ。
自分の胸に双丘の膨らみと谷間があることに戸惑いしかない。
しかし、
「何カップぐらいなんだろ?」
そんな疑問が脳裏を過ぎった。
確か、ブラを付けて胸の谷間が出来るのはBカップ以上だと、ネットで見かけたことがある。それは以前、思春期特有の好奇心から得た知識だった。
もっとも、胸の谷間と言うと巨乳しか浮かばない。
でも、グラビアアイドル並の巨乳には見えないし、Cカップ辺りかなと当たりを付けることに。
その後は、伸縮性のある薄い生地で作られた黒のインナーウェアを着込み、白のアンダーウェアを纏う。ちなみに下半身はプリーツのスカートであり、ブラジャーを身に付けた時と同じくらいの背徳感が背筋を擽ってくれた。
かと言ってパンツだけで歩く方が恥ずかしいので穿くんだけど……プリーツの裾から見える太ももが眩しかった。
そして着替えてみて気が付いたんだけど、驚いたことにファスナーまで存在していた。
正直、リグラグの工業レベルが解らない。ロロさんの言葉が正しければ、地球と比べて文明レベルは低いはずなんだけどな。
まぁ、着替えるのには楽で良いけどさ。
ブーツのファスナーを閉めながら、そんなことを考えていた。
最後に、着込んだ服の上から皮鎧を身に付けて一通りの着替えが済んだ。
ちなみに武器もあって、湾曲した短め片刃のソードが二本にナイフが一本あった。
「ソードが二本って二刀流をしろってことか!?」
剣すら振ったことが無い俺に二刀流って、無茶ぶりもいいところだ。ただ、短いとは言え金属の塊で女の細腕で振るうには重すぎかなと思ったんだけど、実際握ってみれば軽く振りやすかった。
それぞれ、鞘から抜いた刀身には装飾として彫られた刻印が輝いていたんだけど、もしかしたら重量軽減の魔法でも仕込んであったかも知れない。
しかし正直、これらを持って戦う自分の姿が想像できない――って言うか、今の自分の姿を客観的に見ていないことに気が付いた。
「鎧の付け方とかはこれで合ってると思うけど、大丈夫なのかな?」
人前に出て指差されて笑われたりしたら、正直凹むぞ。
鏡でもないかと服と一緒に置かれていたズタ袋を漁れば、色々と出てきた。
そして何故か、日本語で書かれた冊子と一通の手紙。
『 異世界世界の歩き方 ~リグラグ編~ 』
冊子の表紙を見ては微妙な笑みを浮かべつつ、手紙へと目を向ける。
まずは、転生直前のゴタゴタに対するお詫びから始まり、一緒に用意されていた道具の取り扱い方法があった。
冊子に関しては現在地に周辺地図、通貨などの一般常識が挿絵付きで解説されていた。後は周辺に生息してる魔獣や植物の情報もある。
そんな冊子を横に置き、まずは道具を調べることに。
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