星がつたえる、星を見る
卯月
星がつたえる、星を見る――筑波研究学園都市
「やって来ました茨城県つくば市、つくばセンター!」
2007年ゴールデンウィーク。秋葉原からつくばエクスプレスで四十五分、終点つくば駅。地下にある改札階から、いとこの
「いやー、TXができて便利だ便利だ」
と十和ちゃん。つくばエクスプレスのことを、略してTXと呼ぶらしい。
「TX開業前にも、一度来たことあるんだけどさ。そのときはJR
「……しゃふと?」
突然、話が見えなくなった。
「漫画の『機動警察パトレイバー』で、シャフトって会社の研究所が土浦にあるんだよ」
十和ちゃん理論では土浦=シャフト、
つくば市では、土日祝日にサイエンスツアーバスという循環バスが走っている。その一日乗車券を買うと、いろいろな研究機関の展示施設を見学して回ることができるのだ。路線図と時刻表を見ながら、十和ちゃんに尋ねる。
「ねぇ、十和ちゃんが『絶対見せたい』って言ってたの、
十和ちゃんは、天文学をやっている大学院生なのだ。
「そこも後で行くよ。でも最初は、国土地理院!」
ツアーバスのチラシを読むと、国土地理院には「地図と測量の科学館」があるらしい。でも、何でコレをわたしに見せたいのかな、と思いつつ、来たバスに乗る。
そして国土地理院前でバスを降り、敷地内に入ると十和ちゃんは、科学館とは全然違う方向を指さす。
「見よ! アレが、直径三十二メートルのパラボラアンテナだ!」
「え? えええっ!?」
科学館とは少し離れたところに、白いパラボラアンテナがまっすぐ上を向いて立っている。何あれ、大きい!
「長野県まで行くと、国立天文台
驚いているわたしを眺めつつ、うんうん頷いている十和ちゃん。
「あれが三十二メートルってことは、野辺山や臼田はもっと大きいんだね……」
「臼田は六十四メートルで直径が倍だから、面積は四倍。凄くデカいよ」
アンテナのほうへ歩きながら、十和ちゃんが説明してくれる。
「筑波は測地用だから、動きがめちゃくちゃ速いんだ。野辺山や臼田のアンテナの駆動速度を見慣れてると、気持ち悪いくらいブンブン首を振る」
「そくち?」
「地面を測ること。アンテナにも〈星がつたえる大地の動き〉って書いてあるんだけどさ」
サッパリ意味がわからない。
「んーとね、よその銀河ってさ、地球から見て、ものすごく遠くにあるから、いつ観測しても動かないと思っていいんだよね。でも何回も観測して、動かないはずの銀河が動いたように見えたら、それは銀河じゃなくて足元の地面のほうが動いてる。……で、わかる?」
わかったような、わからないような。
「まぁとにかく、国土地理院だから地面の動きを測るのが仕事で、天文観測用アンテナじゃないんだよ。ただ空き時間には、日本全国の大学が持ってるアンテナと一緒に天文観測もしてる。最近は、すぐ近所の筑波大学が、新しい観測装置載せて頑張ってるらしい」
「へぇー」
それから、地図と測量の科学館へ入ってみる。意外に楽しい(地理院さんゴメンなさい)。地図記号当てクイズが難しい……昔、社会で習ったはずなのに、忘れてる……。
ツアーバスに乗って、次は、つくばエキスポセンターに向かう。昔、つくばで科学万博が開催されたときのパビリオンだった建物で、今は科学館。プラネタリウムもあるし、3Dシアターでは4次元デジタル宇宙ビューワー「Mitaka」を上映していた。
「Mitaka」というのは国立天文台の人達が中心になって開発した、空間3次元+時間1次元を見ることができる立体映像(?)らしい。天文台の本拠地、東京都の
さらにツアーバスに乗って、本日最後の目的地、JAXA筑波宇宙センター。宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団の三つが合併してJAXAになる前は、宇宙開発事業団だったところ。ここで宇宙飛行士が訓練したり、人工衛星を追跡したりするのだそうだ。展示スペースには、過去に打ち上げてきた人工衛星がズラリと並んでいて、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の実物大モデルもある。
夕方のサイエンスツアーバスに間に合うギリギリまで見学して、退館。星と宇宙三昧の一日で、とても楽しかった。バスを待ちながら、十和ちゃんがボソッと呟く。
「本当は、つくばで見たい場所がもう一つあるんだけど、ツアーバスじゃ無理だしなぁ」
「どこ?」
わたしが訊くと、十和ちゃんはニヤッと笑った。
「『星を見る少女』って都市伝説、知ってる? 深夜に、アパートの窓辺で毎晩星を見ている美少女がいるんだって。その女子に惚れた男子が意を決して部屋を訪ねたら、実は――っていう怪談。昔来たときは知らなかったんだけど、舞台が筑波大学の学生宿舎らしいんだ。普通の路線バスだったら行けると思うんだよね」
「……か、怪談はやめよう怪談は。もう遅くなるし」
滅多につくばに来ないのに惜しいなぁ、と残念がる十和ちゃんを引っ張って、わたしたちは大人しく帰途についた。
注:国土地理院筑波32mアンテナは、平成28年(2016年)末に役割を終えて、翌3月末までに解体撤去される予定です。
星がつたえる、星を見る 卯月 @auduki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます