第26話 過去編2 2次元しか愛せなくて何が悪い!2(後)



※前篇を見てない方は前篇からどうぞ。



 昨日、慧と約束をしてから連絡が来て、12時に慧の家に俺が迎えに行くことになった。


「さすがにちょっと早く起きすぎたな……」


 現在時刻10時30分。うん早すぎる。ちょっと楽しみがあると、中々寝れなくてそのくせ、早く起きちゃうんだよねー。小学生かよって思ったやつ。あとで、覚えてろよ?


「アニメでも見て暇潰すか」


 最近、アニメも見れてなかったしな。丁度いいや。




「っと、そろそろ時間か」


 どうしてもアニメを見てると時間が経つのが早く感じるんだよな。この気持ちわかるよね?


『準備できたけど、向かっていいか?』


 慧に連絡すると、すぐに返ってきた。


『大丈夫だよ』

「よっし。じゃあ、行くかな」


 俺は車のキーをとると、ご自慢のチェイサーに向かった。思えばこの頃からチェイサーのこと好きだったんだな。




 慧の家に着くと、家の前に慧が出てきていて、俺の車を見てこっちへ小走りで走ってきた。なにそれかわいい。


「お待たせ」

「大丈夫。で、どっか行きたいとこでもあるのか?」

「ちょっとね」


 俺は慧に道案内してもらいながら目的地へ向かった。


「タカくん、車買うお金なんてあったんだね」

「まあ、つい最近までずっと働いてたからな」


 俺は、ゆらと別れてから仕事に力が入らなくなり、仕事を辞めた。それからはただのぷー太郎生活。学校にはたまに行ってるけど。


「そうなんだ。まさか免許代も自分で出したの?」

「まあな」


 慧はそのことに関してすごいと言ってくれた。そこで俺はまた舞い上がってしまった。ホント俺チョロいな。


「慧も免許取るのか?」

「うん。まあ、まだ先だけどね」

「そうだろうな」


 ただ目的地に向かっているだけなのに、この時間が楽しかった。




「ここって」

「ちょっと来てみたかったんだ」


 慧に道案内してもらって着いたのは、春になると桜がきれいと有名な花見スポットだった。


「今、桜なんて咲いてないぞ?」

「いいの。ちょっと来てみたかっただけだから。今日はここで少しのんびりしようよ」

「まあ、いいけど」


 それから俺らはそこで、今まであって老いなかった時間のことをいっぱい話した。俺が慧と別れてから付き合ってきた彼女のこと。慧が俺と別れてから付き合った彼氏の事。学校生活の事。今まで会ってなかった時間を取り戻すかのように。


「はー、久しぶりにこんなに話したよ! スッキリしたー!」

「学校の友達とかとは話さないのか?」

「学校では猫被ってるからさ。私。そうじゃなきゃ、浮いちゃうんだよね」

「めんどくさそうな学校だな」


 俺はその時心底そう思った。相手の顔色を窺わなきゃいけないなんてめんどくさすぎる。


「だから今日、こうやってタカくんと話せてすっごいスッキリした」

「そっか。ならよかったよ」

「うん。ありがとうね」


 シンプルに嬉しかった。慧が俺を頼ってくれる。それが心地よかった。


「まあ、俺だったらいつでも暇だから、いつでも話してくれ」

「ホント! じゃあ、明日も会ってくれる?」

「おう! まかせろ!」




 俺はそれから毎日慧の呼び出しに応じた。アイツの学校にまで迎えにいったし、慧が俺んちに泊まったこともあった。


『今日はどこに行く?』

『プールに行きたいな』


 慧のその一言によりプールに行くことになった。実はお互いに下に1人兄弟がいる。俺は4つ下の弟。慧は3つ下の妹。それぞれの兄弟を連れて俺の車で近くにあるプール施設へ足を運ぶことにした。


「じゃあ、シャワーのとこで待ち合わせな」

「うん。じゃあ、またあとで」


 俺たちと慧たちはそれぞれ水着に着替えるため更衣室へと向かった。


「お兄ちゃん、また御上院先輩と付き合い始めたの?」


 これが弟の本山裕也(もとやまゆうや)。今は中学2年生で、俺のかわいい弟だ。ブラコンじゃないからな?


「いや、まだ付き合ってないけど?」

「でも、一緒にプールきてんじゃん。これで付き合ってないの?」

「ああ」

「おかしくない?」


 まあ、裕也の言っていることもわかる。ここ数か月の間、俺と慧はいつも一緒にいた。それなのに、俺たちは付き合っていない。そろそろコクっても大丈夫かや?


「大丈夫だよ。お兄ちゃんなら行けるって」

「なんで、俺の考えてることがわかるんだよ……」

「兄弟だからね」


 あっ、納得だわ。いや、納得しちゃうのかよ俺。




「御上院先輩たち遅いね」

「まあ、女の子は準備に時間がかかるんだろ」

「それどこから手に入れた知識?」

「エロゲー」

「ホントにお兄ちゃんって残念だよね」


 弟よ。実の兄を残念呼ばわりですか。そーですか。でも、エロゲーの知識だって結構役に立つことだってあるんだよ?


「おまたせ」


 そこにいたのは、女神だった。いや、俺から見てね?


「いや、大丈夫だけど。お前、そんなビキニ着るのか」

「そうだよ? 驚いた?」

「まあ」


 いや、実際俺の目は慧の胸にくぎ付けだった。コイツこんな胸デカかったっけ?


「それで。どう? 水着は」

「まあ、いいんじゃねーの?」

「うっわ、なにそれー」

「別にいいだろ」


 なにこれ。どっかのアニメで見たことあるシチュエーションだぞ。まさか現実で出来ることになるなんて。


「お兄ちゃんたち、ホントに付き合ってないのかよ」

「まったくね」


 今呆れたのが、慧の妹、御上院(ごじょういん)櫻(さくら)。裕也の1個上で、現在中学3年生。てか、呆れないで下さいよ……


「で、最初どこ行く?」

「まずは、流れるプールでしょ!」

「裕也くんの言う通りよ。流れるプールだわ」


 年下―ズは流れるプールに行きたいらしい。まあ、最初だったら無難か。


「りょーかい。それじゃ、流れるプール行くか」

「そうしようか」




「冷たっ!」


 プール特有の夏なのに水に入ると冷たいといういつもの奴を感じる。これがあると、夏になったって感じるよなー。


「あー、生き返るなー」

「タカくん。親父っぽいよ」

「いいんだよ。これぐらい許してくれ」

「付き合っちゃってよ。早く」

「あたしもそう思う」


 俺だって付き合いたいよ。だから……今日行く! あっ、射精の事じゃないよ?


「てか、俺ってプール入れたのな。刺青入ってんのに」

「そういえば、そうだね。それなんて書いてあるの?」

「それは言いたくないから黙秘させてもらう」


 慧と別れてた時の元カノの名前なんて言ったら、まだ引きずってると思われちゃうからな。


「えー、教えてよー」

「死んでも嫌だ」

「じゃあ、こうだ!」


 そう言って、慧は俺に水をかけてきた。


「ぶっは! お前! やったなー!」

「きゃー! このー!」


 俺らは、歳も考えずに公衆の面前で、バカップルぶりを出していた。のちに俺の黒歴史となることも知らずに。


「「なんであんたら付き合ってないんだよ!」」


 年下―ズよ。お前らさっきからそれしか言ってないぞ。




 それから俺らは、4時間ほどずっと遊んでおり、帰る時には日も落ちていた。


「2人とも寝ちゃったね」

「まあ、あれだけ遊べば疲れちゃうだろ」

「私はそんなに疲れてないよ?」

「お前は浮き輪でぷかぷか浮いてただけだろ」

「そんなことないもん!」


 もんって。あなた何歳ですか。ちょっとあざとすぎませんか?


「はいはい」

「あー! テキトーに流したー!」


 こんなやり取りが俺は心底心地よかった。この後俺は、告白する。正直、今の感じなら行けると確信を持っていた。


「慧、この後話があるんだけどいいか?」

「うん。大丈夫だよ」

「サンキュ。じゃあ、最初に裕也送るわ」


 俺は、まず自分の家に向かい裕也を降ろし、次に慧の家に向かった。




「高明。今日はありがとう」

「相変わらず、俺の事は呼び捨てなのな。櫻」

「まあ、いいじゃん。それじゃ、またね」

「ああ。またな」


 櫻を降ろし、とうとう運命の時がやってきた。




「ここでいいか」


 俺は、一旦場所を移動し、この前来た桜がきれいな場所へ来た。ここで俺は告白する。


「で、どうしたの? 急に話なんて」

「ああ」


 胸が痛い、こんな感覚は久しぶりだ。この告白特有の胸が痛くなり、張り裂けそうな感じ。何度体験しても慣れないもんだな。


「実は……」


 俺は踏み出す。新たな1歩を。


「慧の事が……」


 心臓の鼓動が先ほどよりも早くなる。今にもはちきれそうだ。


「好きだ。好きなんだ。俺ともう1度付き合ってほしい」


 言った! 言ってやったぞ! あとは、返事を待つだけだ! その時の俺は、OKをもらえると確信していた。だが……





「ごめんなさい。私、他に好きな人がいるの……」





「なんで……」


 一瞬で今までの高鳴りが収まり、頭から一気に冷水をかけられたような感覚に陥った。


「今までのことはなんだったんだよ!」

「私はタカくんのことは友達と思って、今まで接してきたよ」

「そんな……」

「だから、ごめんね」


 こうして、俺の新しい恋は終わった。確実に好意を抱いてくれていると思った相手にフラれる。これが、今の俺、本山高明を作りだした。3次元の女を信じることができず、2次元しか愛せなくなった。これが俺の過去、今の俺のすべてだった。




「あの時はキツかったなー」

「そりゃ、僕もお兄ちゃんがフラれるなんて思いもしなかったからね」


 今、俺は弟の裕也と俺の部屋で、昔の意ことを話していた。


「まあ、今の俺には嫁がいるからどーでもいいけどな!」

「ホントお兄ちゃん、御上院先輩にフラれてから残念になったよね。まあ、そっちの方が生き生きしてるけど」

「だろ! これが本当の俺だ!」


 今の俺は、こんな感じの過去があってできている。過去ばかり俺も見てらんないんでね。


「お兄ちゃんもそろそろ進路のこと考えなよ?」

「あー、わかってるって」

「ホントにわかってんのかー?」


 進路のことは、まあ、またぼちぼち考えるとするよ。我が弟よ。


「んじゃ、俺はちょっくらたーちゃんと瑠のとこに行ってくるわ」

「うん。いってらー」

「おうよ!」



過去編2 終

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