第25話 過去編2 2次元しか愛せなくて何が悪い!2(前)



 あれは、俺が車の免許を取ったばかりの頃だった。ちょうど車も手に入ったと言うことで、近くにある神社でお祭りがあると聞き、俺は瑠と2人でその祭りに行っていた。それがすべての始まりであり、俺が3次元に失望した最大の理由だった。


「祭り来たのはいいんだけど、やっぱやることないのな」

「お祭りなんていつも退屈でつまんないじゃん」

「まあ、そうだけどさー」


 俺はまだその時、「アイツ」に会うことになるなんて思いもしなかった。


「あれ? 田中君と高明君じゃん!」

「おー! 久しぶりだな! 市川!」


 市川(いちかわ)麻衣(まい)。俺と瑠の中学の同級生の女子だ。中学時代それなりに絡んでいたのだが、高校に行ってからめっきり合わなくなっていたヤツだ。この子がキッカケとなり俺の地獄が始まる。


「ホント、久々だね! 元気にしてた?」

「ボクは元気だよ」

「俺も変わらずだな。そっちはどうなんだ?」

「ウチも相変わらずだなー。今日は2人できたの?」

「そう。瑠ぐらいしか暇な奴がいなかったんだよ」


 最初は他愛もない会話だった。その後が問題だった。


「そういえば、さっき慧きてたよ?」

「あー、来てたんだ。アイツ……」


 御上院慧。俺の1番好きだった元カノだ。(※詳しくは24話参照)


「あっ、じゃあもう1回慧呼ぶ?」

「いいね! 高明のためにも呼ぼうよ!」


 ここから俺の地獄が始まった。




「マジで呼んだの?」

「うん。マジ」


 市川がホントに慧を呼んだらしく、俺は正直嬉しかった。いくら別に女を作っても全然満たされず、ずっと慧のことばかり追いかけていた。ただ、彼女は、高校に行ってから俺よりもいい人が見つかったらしく、彼氏を作っていた。


「でも、あっち彼氏いるんじゃないの?」


 俺はその時に素朴な疑問をぶつけていた。その時に市川から帰ってきた言葉は俺が予想していない言葉だった。


「えっ? 1か月くらい前に別れたよ?」

「はっ!? マジ!?」


 それを聞いた瞬間、俺は思ってしまったのだ。「もう1度やり直せるんじゃないか」って。


「高明、これきたでしょ」

「そんなわけねえだろ! いくらあっちがフリーだからって……」

「いや、わかんないよ? もしかしたら、高明君もう1回いけるんじゃないの?」


 浮かれていた。完全にそうだった。今思えば、俺らしくなく、バカみたいに浮かれていた。表に出さないようにはしてたけど。


「あれ? タカくん?」

「慧……」


 俺と市川と瑠でアホな話をしていたら、俺の思考の大半を支配していた張本人。御上院慧がきていた。


「久しぶりだね。元気だった?」

「ああ。そっちは?」

「まあ、ぼちぼちだね」


 懐かしかった。慧の声を聴くのが、姿を見るのが、会話を交わすのが。俺はそれがシンプルに嬉しかった。


「じゃあ、ボク先に帰るねー」

「ウチも帰るわー。バイバーイ!」

「えっ、ちょ!? 瑠! 市川!」


 瑠はバイクで、市川は自転車に乗って帰ってしまった。


「どうする?」

「せっかく来たんだから、少し回らない?」

「俺は別にいいけど……お前はいいのか?」

「うん。私は別にいいよ」

「じゃあ、回るか」

「うん」


 俺たちはしばらく、2人で祭りを回っていた。ただ一緒にいてしゃべってるだけなのに楽しかった。一緒にいるだけで嬉しかった。俺らしく無い想いが駆け巡っていた。




「最近、何やってんの?」

「特に何もしてないよ。やってるとしたら、バイトぐらいじゃない?」

「そっか」


 こんな他愛もない会話がどうしても楽しく思えてしまう。やっぱりまだ、好きなのかと思ってしまう。いや、もしかしたら、また好きになってしまったんじゃないか。そんなことばかり考えていた。

「タカくんは? 何してるの?」

「俺は―、まあ、瑠とかとアホなことしてるよ」

「変わらないね。タカくんは。中学の頃から」

「まあ、そんなすぐ変わらないだろ」

「私は、みんなから変わったってよく言われるよ?」


 その時の慧の顔はどこか寂しげだった。きっと慧にもいろいろあったんだろう。その時俺はそんなことを思っていた。


「まあ、別に変わることはいいことだろ。悪いことじゃないから別にいいんじゃないか?」

「……ありがとう。タカくん」

「……ッ!!」


 あの時の俺は、不覚にもその笑顔に見惚れてしまった。そこ。チョロいと思ったやつ。素直に出てこい。ぶん殴ってやる。




「じゃあ、今日はありがとね」

「あ、あのさ!」


 しばらく、慧と祭りを回っていると結構いい時間になっており、ちゃんとした高校に通っている彼女にとってはもう帰らなきゃいけない時間だった。だが、俺はその時、醜い欲望を抑えきれずに、彼女を呼び止めてしまった。


「どうしたの?」

「そ、その……車の免許取ったんだ。それで、その」

「へー! もうとったんだ!」

「ああ。それで今日、車で来てるんだけど、送って行こうか?」

「え! いいの!」

「ああ」

「じゃあ、お願いしようかな」


 その時の俺の心は躍っていた。断られる覚悟で言ってたから正直、OKされるとは思わなかった。もう歓喜歓喜はっはっはっはっは!


「ちょっと待ってて。車とってくるから」

「いいよ。一緒にそこまでいくよ」


 これまた予想外。まさかのついてくる感じ! これきたんじゃね? たかちゃん大勝利フラグじゃね?


「わかった。じゃあ、行こうか」

「うん」


 そんな感じに浮かれていた。今思えばバカだよな。すーぐ勘違いしちゃう。なんだよ。チョロインなんてレベルじゃないくらい惚れやすいやん、俺。まあ、この話は完全黒歴史だけどな。


「ホントに免許取ったんだー」

「当たり前だろ」


 大した話もせずに車に乗り込み、慧の家へと向かい、しっかり送り届けた。なにもいやらしい事はしてないからね? ホントだよ?


「じゃあ、またな」

「あのさ、明日また会えないかな?」

「え?」

「無理ならいいんだけど……」

「いや、大丈夫だよ! じゃあ、また連絡してよ」

「うん。わかった。じゃあ、またね」


 そう言い、俺たちは今日のところは解散した。これのせいで俺は3次元の女を信じられなくなるとも知らずに。



 後編へ続く。

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