第20話 過去編 2次元しか愛せなくて何が悪い!(後)



※前編を見ていない方は前編からどうぞ




 ゆらの誕生日まで2週間をきった。それまでゆらとは都合が合わず、何日も会っていない日が続いていた。


「どうした? 高明。最近元気が無いが」

「親方……実は……」


 親方に彼女と会えていないことを話すと、普通の会社だったら怒られるとこだったが、この会社の人たちはものすごく優しく、仕事をいったん休憩してまで俺のことを慰めてくれた。


「大丈夫だって! 社会人と高校生じゃ時間ぐらい合わなくなるからな!」

「親方、俺まだ一応高校生っす」

「あれ? そうだっけ? まあ、小さいことは気にすんな!」


 この時、この会社の人たちの優しさは今でも忘れていない。




 仕事が終わり、ケータイを見てみるとゆらの友達からメールが来ていた。ちなみに、その友達はゆらの親友で俺も何度かあったことがあり、ゆらとのことをよく相談に乗ってもらっていた。


「……は?」


 そこに書いてあったのは、衝撃的なことで当時の俺では、すぐに反応することはできなかった。





『ゆらと別れたの?』





「なんだよ。これ……」


 その時、俺はやっとの事で冷静さを取り戻し、そのメールに返信することが出来た。


『別れてないけど、なんで?』


 心臓がうるさい。冷や汗が止まらない。目の前が歪む。体がだるい。目に見えて具合がどんどん悪くなっていく。あの時はキツかったなー。今の俺だったら絶対無理。死んじゃう。


『じゃあ、この写真の男って知ってる?』


 ゆらの友達から送られてきたメールには写真が送付されいて、そこにはゆらと、見知らぬ男が映っていた。いや、まさかですよね(笑)


「ウソだろ……」


 その時の俺は、ひどく落ち込んだもんだ。大好きな彼女がもしかしたら、浮気してるかもなんて考えただけで、もうおかしくなりそうだった。元からおかしい? 今シリアスな話してんだから、そーゆーのはいらん!




 ゆらの浮気疑惑浮上の次の日、さすがの俺でも、精神的に少々参ってしまい、仕事を休ませてもらった。悪かったな豆腐メンタルで。


「すみません。親方」

「気にすんな。ゆっくり休んで体調戻せよ?」

「はい。ありがとうございます」


 俺は会社に、「具合が悪い」とウソの連絡をして、仕事を休んだ。ずる休みじゃないよ? 多少は具合も悪かったはず。もう昔のことだからあんま覚えてないけど。


「はあ~、仕事休んじまったな」


 俺は、仕事を1回も休んだことが無かったのだけが取り柄だったのに、それを無くしてしまった。あれは萎えたなー。今の俺だったら仕事毎日行くとか考えられないけど。




 「返ってこないな……」


 浮気疑惑の日にゆらに、「話したいことがある」とメールを送ったのだが、次の日になっても返ってこなかった。


「なんでなんだよ……」


 豆腐メンタル+若干の束縛癖のある俺は、そんな些細なことでも気に病んだ。今は勃起ち○ぽレベルに鋼鉄のメンタルだけどな。


 テレレレレレレ♪


「ッ!!」


 ケータイの着信音が部屋に鳴り響き、慌ててディスプレイを見てみると待ち望んでいた人からのメールだった。


「ゆら……」


『誕生日の日でいい?』


「なっ!」


 俺はその時に、怒りと悲しみが込み上げていた。


「誕生日の日にフラなきゃいけないのかよ……」


 もし、ゆらが本当に浮気をしていたら俺はフラなきゃいけなくなる。俺が1番嫌いな女は浮気する女だ。それだけはどうしても許せない。今もそうだけど。


「……」


 俺は、「わかった」と返信をし、ふて寝をかました。




 次の日、気持ちを切り替えた俺は、仕事に行く準備をしていた。


「今日はしっかり働かないとな」


 正直、その時はまだ気持ち的にはキツかったが、さすがに自分の事で親方たちに迷惑をかけるわけにはいかないと思った。


「これも、無駄なことをしたな」


 腕に彫られた刺青を見て、心底後悔していた。むしろ今も後悔してるまである。


「さて、そろそろ行くかな」


 ヘルメットをかぶり、バイクのキーを持ち、仕事に向かう。




 仕事をし始めると、いい気分転換になり、少し気持ち的にも楽になっていった。


「高明、もう大丈夫なのか?」

「はい。すいません。迷惑かけてしまって」

「いや、それはいいんだが。……彼女は問題ないのか?」

「気づいていたんですか……」


 親方には隠し事はできないと確認できた瞬間だった。今思えば、あの仕事先をやめてしまったのは痛かったな。


「まあ、さすがにな」

「今のところは大丈夫です。あと、親方に頼みがあるんですけど」

「おお。なんだ?」

「12月24日の土曜日、有給をもらってもいいですか?」

「いいが、なにかあるのか?」


 一瞬言おうか迷ったが、親方に話しておこうと思ったのだ。


「彼女の誕生日なんです。そんで、その日にすべて決めてきます」

「……そうか。わかった」

「ありがとうございます」


 やはり、俺はいいとこで働かせてもらっていたのだと、今も思える。


「頑張れよ」

「はい」


 その後は、しっかりと仕事をこなし、来週の土曜にむけて気持ちを整えておいた。




 そして、すべてが決まる日。会うのは時間は18時。それまで、ゆらは用事があるらしく会えないらしい。俺は、事前にゆらの友達から証拠を集めてもらい、俺に随時伝えるようにしてもらっていた。今考えれば、ちょっとキモいな。俺。


「これ、もう確定じゃん」


 送ってもらった証拠をすべて見直したが、浮気不可避だった。男と2人で歩いている写真。手を繋いでいる写真。挙句の果てには、俺とゆらがいつも会っている場所で2人でキスまでしていた。


「俺があんまり構ってやれなかったのがいけないのかな……」


 もし、ゆらが正直に話してくれたら1回は許してあげよう。とその時の俺は、そんな甘い考えを持っていた。




 約束の時間の10分前。俺は、少し早めに来てゆらを待っていた。


「……フーっ」


 タバコの煙を吐き、ニコチンが体に染み渡っていくのが分かる。それが今の俺には唯一の癒しだった。


「ゴクッゴクッ」


 缶コーヒーを喉に流し込み、またタバコを吸う。至福のときだ。


「高明」


 至福の時を楽しんでると久しく聞いていなかった懐かしい声が聞こえてきた。


「ゆら……」

「久しぶり、元気だった?」


 白々しく、何事もなかったように俺に問いかけてくる。


「ああ。元気だったよ。それと誕生日おめでとう」

「ありがとう」


 俺に笑顔を向けてくる。俺はその笑顔が偽りだと知っているのに。俺じゃなく、他の男に本当の笑顔を向けてるくせに。


「それで、話ってなに?」

「なんか、思い当たる節無い?」

「……」


 ゆらは考えているようだった。白々しい。実に嘘くさくて、少し焦っているのが目に見えてわかる。隠すならもうちょっと上手く隠してほしかった。


「ごめん、何のことかわからないよ」

「……じゃあ、これ何?」


 俺は、ゆらと知らない男が2人で出かけている写真を見せる


「それは、ただの男友達だよ。別に彼とは何にもないよ?」


 はい。ダウト。有罪判決だな。そう確信した瞬間だった。


「じゃあ、これは?」


 手を繋いでいる写真と、キスをしている写真を両方見せた。


「そ、それは……」

「浮気……してるだろ?」


 俺はついにその言葉を言い放った。


「……」

「無言は肯定と捉えるな」


 ゆらは何も言わず、ただ下向いて黙っているだけだった。


「理由、聞いてもいいか?」

「……寂しかった。高明、ずっと仕事ばっかで中々会えなくて、そんな時に彼が慰めてくれて、それで……」

「俺が、構ってやれなかったせいか……」

「そうだよ! 高明が全部悪いんだよ! だから、私は悪くない!」


 逆ギレし始めたゆらは、自分が上に立ったとでも思ったのだろう。急に威勢がよくなった。


「そっか……ごめんな……」

「そうだよ。わかればいいんだよ」


 何言ってんだ。クソ女。昔もそして今でもそう思う。


「じゃあ、これで仲直りだ……」

「いや、終わりだ」


 ゆらの言葉を遮り、すべてを終わらせようとした。


「な、なんで? 今、謝ってくれたじゃん。なんで……」

「俺さ、浮気する女が1番嫌いなんだよ。相手を裏切るようなマネをするようなクソ野郎が1番嫌いだ」

「なんでそんなこと言うの……」

「確かに、仕事であまり構ってやれなかったのは悪かったと思う。だけどな、それはすべてお前のためだった」

「え?」


 俺はすべての気持ちをゆらに伝えて、サヨナラすると決めた。


「誕生日にさ、旅行にでも行こうと思ってお金貯めてたんだよ。それで、来年には車の免許取って車かって、一緒にどこか行こうとも考えてて、一生懸命働いてたんだ」

「……」

「だけど、それがいけなかったんだな。ゆらの気持ちを考えられなかった俺がすべて悪かった」

「だから、今日で……終わりだ」


 すべて伝えてやった。これで何も反応しなかったら本当に終わりだ。


「……」

「……じゃあな」


 俺は、バイクのエンジンをかけ、ゆらを残しその場を去った。




 途中、コンビニにより酒3本とタバコを買い、星空がよく見える展望台へ行き、1人で酒を飲みながら、タバコを吸った。


「意外とキツいもんだな……」


 キツかったが、自然とその時の俺は、涙は出なかった。




「さて、帰るかな」


 酒をすべて飲み終わり、家へ帰ろうとする。


「うっぷ……オロロロロロロ」


 その時、俺は酒が弱いのを忘れて、すべてリバースしてしまった。てへ☆




「そんなこともあったなー」


 昔のことを思い出していた俺は、感慨にふけっていた。


「その後に、アニメ見てからハマっていったんだよなー」


 フラれて、その後に帰ってみたアニメのヒロインが可愛く、それから少しずつアニメにハマっていった。まあ、この事件だけじゃないけど。まあ、それはまた別の機会にだな。


「すっしー、遊びに来たぞー」

「高明~、いる?」


 またうるさい2人組が来たな。


「はいはい、今から行きますよー」



過去編 完

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