第19話 過去編 2次元しか愛せなくて何が悪い!(前)



 そう、あれは高2の頃だった。俺、本山高明にはお付き合いをしていた彼女がいた。それが……。


「何考えてるの? 高明?」

「いや、なんでもないよ。ゆら」


 隣から俺の思考を遮ってきた女の子。そう。この子が俺の彼女。千草(ちぐさ)ゆらだ。見た目は、黒髪ショートで、イマドキの流行を先取りしてるようなイケイケのJKだ。身長は低く、顔は、少々キツめの所為、クールビューティ系だ。もう、そういうの大好き。なんか魅惑のエロさを感じた。


「なんか、目つきがやらしー」

「何言ってんだよ! 別にそんな目で見てないし!」

「えっ? それって私に魅力がないってこと……?」

「い、いや、そういうわけじゃなくて」

「ひどいよ……高明」

「ご、ごめん」


 そう、この子を少し性格に難があり、冗談を本気で捉えてしまう節がある。そこが少々傷である。


「じゃあ、私に魅力ある?」

「ああ。もちろんだ」

「嬉しい……」


 この頃の俺たちはまだ付き合って1か月も経っていない。だけど、もう何年も一緒にいる気がしていた。そんなことを思っていた。




「高明、今日はどこに行く?」


 この日は、ゆらとデートをする日だった。当時、俺は外仕事をやっていて、中々ゆらとデートできなかったのだが、この日は久々に休みが取れて、デートをしていた。


「ゆらの行きたいとこでいいよ」

「えー、それが1番困るんだけどー。男なら決めてよー」

「じゃあ、映画見にいかね?」

「なんか見たい映画でもあるの?」

「いや、特には……」

「えー、じゃあ、行く意味ないじゃん」


 当時の俺は、車もなく、原付の免許しか持っていなかったので、ゆらをどこか遠くに連れて行ってあげることができなかった。


「俺は別にゆらと入れるならどこでもいいんだけどな」


 これは俺の本音だった。ゆらのことは今まで付き合ってきた中でも、接しやすく、楽な気持ちでいられる彼女だった。そのため、絶対に失いたくなかったし、楽しませてあげたかった。


「高明……じゃあ、どこかカフェにでも入ろっか!」

「ああ!」


 この日も楽しいデートだった。だが、そのデートのせいで、俺とゆらの関係に少しずつひびが入っていった。




 デートの次の日。俺は、汗水はがして働いていた。もうすぐ、ゆらの誕生日で誕生日プレゼントを買うために金を貯め、翌年には俺も18になる。誕生日が4月のため誰よりも先に車の免許を取ることができることからも金を貯めていた。


「高明! 休憩だ!」

「わかりました!」


 その時に親方からの休憩の号令が入って、休憩中ずっとゆらのことを聞かれたのを覚えている。




 仕事が終わり、その日もゆらと少しの時間だが会う約束をしていた。彼女は、普通の全日制の高校に通っていて、部活にも入っていた。それと俺の仕事が終わり次第、落ち合う約束をしていた。


『仕事終わったけど、どこに行けばいい?』


 彼女にメールを送る。いつもなら、この時間には部活も終わっていて、すぐに返信が来るのだが、その日は中々返信が帰ってくることはなく、俺は次の日も仕事があるため彼女にもう1度メールを送り帰ることにした。





「おーい、ケータイ鳴ってるぞ~。ゆらちゃん」

「いや~、今はあたしだけを見てよー。ほら、イれて♡」

「ちっ、しょーがねーなー!」

「いやん!」





 こんなことが行われているなんて、その時の俺は、全く知らなかった。考えてもいなかったのだ。




 次の日、俺は仕事に行く前にもう1度ゆらにメールを送ってみた。


『昨日、なんかあったの?』


 すると、その日はすぐに返信が返ってきたのだ。


『昨日、風邪引いて寝込んでたんだ。ごめんね。連絡できないで』

『大丈夫だよ。しっかり風邪治してね』

『うん。ありがとう』


 その時の俺はそれを疑いもしなかった。純粋な心配心だけが俺の中にはあった。


 それから、次にゆらに会う時まで必至に働きお金を貯めて、やっとのことで、ゆらの誕生日プレゼント代と車の免許代を貯めることに成功した。次の目標は、車代だ。それに向けて俺はまた、汗水を流すのであった。


「あと、もうちょっとでゆらの誕生日だな」




 ゆらに会えなかった日から1週間が経ち、その日またゆらと仕事終わりに会う約束をしていた。その日はしっかりと会えると確認済みで、仕事中心を躍らせていた。


「なんだ、高明。今日はやけに機嫌がいいな」

「はい! 今日、久々に彼女に会えるんですよ!」

「ほおー! 青春してるね~。じゃあ、今日は頑張ってもらわないとな!」

「ほどほどにお願いしますね」


 その日の仕事は実に楽しかった。親方や先輩たちとしゃべりながら楽しく仕事ができたし、なんと、早上がりまでさせてもらった。そのおかげで、俺がやりたかったことができるようになった。


「さて、やりますかな」


 刺繍針と100均に売っている墨汁を使って俺は腕に「ゆら」の名前をドイツ語表記で入れたのだ。俺は1度でいいから刺青を入れたかった。よくある若気の至りってやつだった。


「できた……」


 少々不格好だが、初めてにしてはうまく言ったと思う。だが、それをやってもまだ時間だ余っていたので当初はそこまでのめり込んでいなかったが、好きだったアニメを見て時間を潰した。




「そろそろ時間か」


 約束の時間まで残り20分を切っていたので、俺はヘルメットとバイクのキーを持ち、外へ出て、ゆらとの待ち合わせの場所へ向かった。




「あっ! 高明!」

「ゆら! 久しぶり!」


 1週間ぶりに会うゆらを見たとき、あの時はすごくテンションが上がり、すぐさま彼女を両手いっぱいに抱きしめに行った。


「会いたかった。本当に」

「うん。私もだよ」

「高明、これからはずっと一緒だよ?」

「ああ。もう離さないからな」

「私も。離さないから」

「大好きだよ。ゆら」


 1週間会えなかったせいで、俺はその時は不安になっていた。そのせいで、こんな恥ずかしいセリフも平然と言えたのだろう。


「もう風邪は大丈夫なのか?」

「うん。もうすっかり」

「ごめんな。お見舞い行けなくて」

「ううん。高明も仕事忙しかったんでしょ? ならしょうがないよ」

「うん。じゃあ、今日はその分ゆらのために時間を使うよ」

「ありがとう。嬉しい」


 その時の言葉を俺は後日信じられなくなることを俺はまだ知らない。




 その後、俺たちは公園でめちゃくちゃイチャイチャしていた。なにをしていたか? そんなん秘密に決まってんだろ。恥ずかしいだろ。言わせんなバカ。




「もう時間だな……」


 あっという間に楽しい時間は過ぎ、ずぐに別れの時間が来た。俺は、その時の悲しみを今でも覚えている。


「大丈夫だよ。またすぐに会えるから」

「そうだな……次に会うのはゆらの誕生日の日かな」

「……そう……だね」


 今思えばあの時のゆらの間は俺と会えないことを悲しんでいるのではなかったとわかる。


「それじゃ、また連絡するよ」

「うん。バイバイ、高明」


そうして、俺たちはこの日を終わらせた。





後編へ続く。

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