愛はココカラ

sanpo=二上圓

第1話

 夕焼けに染まる急斜面。コンクリの階段。君の手を引いて、僕はひたすら登って行く。

「ねえ? 一体、何?」

「いいから――」

 登りきった高台の上で、咳払いをして話し始めた。

「ねえ、知ってる? 戦前の兵庫県、神戸は世界一の真珠の輸出港だった!」

「ふうん? それで?」

「じゃ、もひとつ。次はもう少し新しい話。80年代、バブルの頃。とある青年が無事就職して引っ越しをした。その手伝いに来ていた|ガールフレンドに告げた。『結婚してください。これが指輪です!』」

 再び咳払い。

「実は、差し出した指輪は取り付けが終わって余ったカーテンリングだったんだけどさ。勿論、数年後には本物のダイヤに変わってた」

「だから、何が言いたいの?」

「それ、僕の親父の話なんだ。でさ、僕も……今はお金ないけど、でも、必ず、ホンモノの宝石に変えるから! 今は代替品で我慢してくれ!」

 さあ、行くぞ! 深呼吸――

「僕と一緒に人生を歩んでほしい! 君しかいない! お願いっ! この通り!」

「それで……その代替品は何? どこにあるの?」

 待ってました! その反応。僕は指さす。遥かにきらめく珠玉の連なりを。

「あれさ!」

 既に日は暮れて夜空の果てにキラキラ輝いている――

「どうよ? さあ! ティアラにもネックレスにも、君の好みのままに!」


 明石海峡大橋は全長3,911m、神戸市と淡路島を結ぶ世界最長の吊り橋だ。

 別名パール・ブリッジと言う。


 この愛称は定着しなかったが。

 でも、夜の闇に煌めく光の粒はかつて世界中に散らばった美しい真珠そのもの。

 

 ――と、ここで締めようと思ったんだけど。

 振り返って僕は息を飲んだ。今、イチバン美しいのは……

 君の頬を伝う一滴。


「受けて立ちます」

「え? 」

 

 いや、それは果たし状の返事。プロポーズは 『お受けします』だよね?

 

 ま、いいか。

 僕たちの愛はココカラ。



  2016’ 秋 IN 兵庫 明石海峡大橋の見える丘より。


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愛はココカラ sanpo=二上圓 @sanpo55

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