第7話 Day in the life

人を待つのは嫌いではない。

好きな人を、と頭にはつくけれど。

昨晩は楽しみで仕方なくて、なかなか寝付けず。

今日は待ち合わせの時間よりも早く着いてしまった。

何かを楽しみに待つのは久しぶり。

新しくした腕時計で時間を気にしていると、

「待ったか?」

待ち人が来た。

「ううん、今さっき来たところ」

そう返事すると彼は笑った。

「何か変だった?」

「やってみたかったんだ、このやり取り」

「僕もやってみたかった。ドラマとかアニメみたいで」

彼と同じように僕も笑う。

「さて、ドラマならどういう展開がいい?」

「ハッピーエンドがいいね」

僕が答えると彼は、意表を突かれた、という顔をした。

「何か変なことを言ったかな」

「別に。ただ、俺は、今日のこの後の予定を聞きたかっただけで」

「こっちを向いてよ」

「照れてるんだ、言わせるな。そして、見せない」

僕が回り込もうとすると、彼はくるりと向きを変えてしまう。

「むぅ、見せてくれたっていいじゃないか」

「そうもいかない」

「僕のことはからかったりするのに?」

小さく、唸ったのが聞こえた。

じーっと視線を向けていると、いきなり走りだした。

「あ、逃げるな」

「急がないと時間がなくなるだろう」

追いかけながら、

「閉館時間まで余裕はあるじゃないか」

「大水槽の餌やりみたいと思わないか?」

「見たい」

「なら、急ごう」

でも、走るのをやめて、ややはやいぐらいの速さで歩き出した。

「そんなに急いでないじゃない」

「せっかくのおしゃれを台無しにしてほしくないんだよ」

頬をかきながら彼はそういってくれた。

さっき、見られなかった照れた顔が見られたのでよしとしよう。

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