第4話 Radio Radio
ドクター三つ目の診察は会話中心だ。
身体に異常が現れない限りは、それでいいのだとか。
何か変化や問題が起きていないのか、そういう確認が終われば、あとは雑談の時間になる。
通院を繰り返していくうちにそれが普通になっていた。
「そろそろ、安定期に入った、ということでしょう」
「安定期、ですか」
不安定になったりするのかな。
「心の変化にあわせて身体が変化する。変化したての時はやはり、変化しやすいのです。羽化直後の生物は身体がかたまっていないのと一緒です」
子供のころ、蝶が羽化するのを観察しようと思って小さな箱に入れた。
そう、羽が伸び切らずいびつな形になってしまった。
「特にこの変化をすると動揺するものです。動揺から元に戻ったり、さらに変わってしまったりする」
ドクター三つ目は額をなでた。
第三の目をこする、といったほうがいいかな。
「その時期を乗り越えて安定した。それが今のあなたの状態だと思われます」
「しばらくはこの姿でいられるんですね」
「その姿で生きていく。老いもあるでしょう」
「おじいさんになると思っていたので、予定外の展開です」
「人生、予想外はつきものですよ。この目だってそうでしたから」
ドクター三つ目は笑う。
「でも、嫌ではなかった、んですよね」
「いろいろなものが見たい、と願っていました。目を増やすのはやや、安直のようにも思いますが、いろいろ見えたのは事実です」
「何か、特殊な力があるとか?」
「普通の、人間の目ですよ」
そういって、ドクター三つ目は再び笑った。
「人間、意外と慣れるものです。場合によっては本人よりもまわりが先に慣れたりします」
ドクター三つ目のいうようにまわりも慣れるのがはやい。
僕自身も驚くはやさで、この身体の生活に慣れている。
自分が望んでこの姿を選んだようでもあるし、それなら腹を決めてしまおうか、とも思う。
腹を決める、というと、大げさだから、この身体での生活を楽しもう、としようか。
「よっ」
「待った?」
行きつけの喫茶店で彼が待っていた。
「病院はどうだった?」
「特に何もなし、だって」
「そうか。それはよかった」
「安定期に入ったかも、とは言ってたよ」
「つまりは、その姿のまま、と」
「うん」
テーブルの上にあるメニューを広げながら会話を続ける。
「でも、がっかりはしていないんだ」
「ほぅ」
「近いうちに、戸籍の性別も変えちゃおうかなって」
「それは、思い切りがよすぎないか?」
「ううん、変更は簡単だっていうから」
うなりながら彼は腕を組んだ。
「でも、そういうなら、そうなんだな」
「何か引っかかる?」
いいや、と彼は首をゆっくりと横に振った。
「なんにしたって俺は、一緒にいるからな」
「なんだよ、それ」
「たとえ、君が世界中の敵になろうとも、俺だけは味方だ」
「演技っぽい。リテイク」
「俺は、いつだって本気だ」
そう言って彼は笑う。
見ていると、落ち着くようなほっとするようなそんな笑顔。
その笑顔に僕は惹かれて、この姿で一緒にいたいと思ったんだ、と改めて思った。
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