第51話 Aの世界
館の
下の居間よりも
ぼうと青白い光が
小さなプラネタリウムのようだ。
「宇宙さ。いや、
ミカミの声が聞こえた。
彼女は、小さな手にトンカチを持って、宇宙へ振り下ろそうとしていた。
「いけません。賢者ミカミ=アマテラス。そこは僕の親友、間宮トオル君が帰るべき場所なのです」とシンドウがミカミの腕をつかんだ。
ミカミは悲しげな顔をしていた。そして、手に持っていたトンカチが床へ落ちた。
「あたしがこの多元宇宙をどうこうしようとあたしの勝手さ。あたしが造ったんだからね」
でたらめだ。
「小さきものよ、そこの魔法の
細長い
これが顕微鏡なのだろう。
私が顕微鏡のレンズをのぞくと、確かに、知っている風景が見えた。
ビル
「東京だ。東京のスカイツリーだ!」
シンドウはミカミの腕を離した。「事情を
「ほんの偶然さ。六十年前に、あたしゃ、村の池で黒い石を拾ったんだ。驚いたのなんのって。とんでもない魔力を秘めていたんだから。クリスタルですら、こうもいかないよ。
その石をあたしは赤い館へ持って帰った。屋根裏の部屋で、石に
ある日、古代の魔法を試すと、黒い石は、
散らばった石の
宇宙だよ。いくつもの宇宙ができていたのさ。
マッスル教国を滅ぼしたマール王国が、あたしを大臣として
宇宙時間で百億年以上がたったころかね。
ある日、ちっぽけな星で、魔法生物が生まれた。その生物が進化して、あたしたちと同じ姿のヒトが生まれた。あたしは『小さきもの』と名付けた。
そいつらをじっくり観察したくなったのさ。
そこで、『遅延』魔法で宇宙の時間を遅くした。
観察すると、小さきものは魔法が使えないのだと分かった。
そりゃそうさね。こんだけ小さければ、エーテルを
光もあたしたちの光とは違っていた。エーテルの波じゃないのさ。
あたしはこれらをもっと研究したくて、ついに、大臣をやめて、本格的に実験を始めた。
古代魔法の『巨大化』を使えたのがありがたかったよ。おかげで、地球上のヒトを呼び寄せて、話を聞くことができたのだから。ただ、あたしを邪神だの、宇宙人だの、好き勝手に言うやつが多くてさ。どうして、ヒトってやつは自分の
あたしは宇宙を造るきっかけを与えただけなんだよ。
ところが、この前、ついうっかりさ。
関係のない日本の少年を、魔法で巨大化させちまったんだから。もう年だね。
さらに、移動魔法の『引き寄せ』を使うつもりが、
ミカミの話が終わると、シンドウと私は、ミカミに帰り方を教えてもらった。
「巨大化魔法を解除すればいいさね。あとは元の場所に戻れるさ。今まで、この宇宙は時間停止の魔法をかけていたが、もう解除されたよ」
「なぜ、宇宙を破壊しようとするのですか?」とシンドウは尋ねた。「お話を
「お前さんに見つかったからね。シンドウ=サキ。無数の小さな魔物を持っているんだ。王国では、ご
「僕はだれにも告げ口をしませんよ」
「魔法使いの言っていることを信用するバカがどこにいるかね?」とミカミはあきれた様子だった。
「では、こうしましょう」
そう言って、シンドウは部屋の宇宙に縮小魔法をかけた。泡状の多元宇宙が小さくなっていき、手のひらに乗るまでになった。
私はぎゃあと悲鳴を上げた。
シンドウはそれを
「僕のポケットにこれを片付けておきます。僕に
「無茶をするねえ。まあ、いいさ。これでお前さんは共犯なのだからね」とミカミが腕を上げた。「死の森にいるガイアには、お前さんたちが通る間は、何も攻撃しないよう命令しておこう」
ガイアとは、森で私たちを襲ってきた土の魔物のことらしかった。
「ドリィめ。あのバカ娘が死の森へ行くもんだから、そのたびに、ガイアが活動を止めて、敵の魔物を素通りさせたのさ。おかげで、襲われた村はめちゃくちゃだよ」
「ガイアとは、あなたが造った魔物ですか?」
「まさか!」とミカミは否定した。「六十年前に森に
シンドウは私に言った。「さあ、元の場所へ帰るという、君との約束を果たしたぞ。間宮君、喜べ。君は
一歩ずつ、私は後ずさりしながら言った。「笑えるだろ。俺、魔法から作られた魔物なんだぜ」
彼女は、私を両手で抱きしめた。「君は僕の親友だ。君が魔物であろうとなかろうと、僕たちの友情は永遠だ」
「ああ、そうだ。俺たちはずっと友達だ」
私は涙があふれてきた。
「なぜ泣くのだ?」とシンドウが
こうして、少年は少女に別れを告げた。
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