第43話 真犯人

 僧侶のスガがかみをかきむしった。

 それから、彼はこう叫んだ。

「なんてことをしたのです!シンドウ=サキ!聖なる石を使うなんて、言語道断ごんごどうだんです!」

 確かに、彼の言っていることは正しかった。

 シンドウの持っている聖なる石が白い光をはなち、少しずつ黒ずんでいく。このままでは、石は魔物のヒトモドキになるだろう。


 しかし、シンドウは彼の言葉を無視して、光り輝く石を頭上にかかげる。

「さあ、聖なる石よ。その力を示したまえ。賢者ミカミの魔力を封印せよ」

 そうシンドウが言うと、石から放たれた白い閃光せんこうがミカミの体をつらぬく。

 ミカミは「おや、魔法が使えなくなったねえ」と他人事のように平然と言った。

 

 シンドウはウルに頼んだ。

「さあ、早く。ウルさん。ドリィさんは、賢者に言われたのですよ。あなたと結婚するべきではないと。ガイマイトへ住むべきだと。今、あなたがドリィさんを迎えに行かなければ、彼女とあなたは一生、後悔することになります」

 それを聞いたウルがたけびを上げた。

 床がふるえた。

 うおおと叫んだ彼は、がむしゃらに居間のトビラへ突進とっしんした。

 トビラが壊された。

 きゃあとアリアとコトリの二人が悲鳴を上げた。

 ミカミは「若さがうらやましねえ」とつぶやいた。


 続けて、私はウルの後を追ったが、三階へのぼる階段のところで彼を見失った。二階など他の場所も探したが、とうとう、ドリィは見つからなかった。

 しかたなく、私はシンドウたちがいる居間へ戻った。


 シンドウをはじめ、全員が居間にそろっていた。

 けれど、先ほど飛び出したウルの姿はなかった。まだ、ドリィを見つけられないらしい。

 ウルとドリィを待っている間、シンドウは私たちへ説明した。

「今回の誘拐事件は実に単純なものでした。僕たちはコトリにだまされていた。ところが、彼女もだまされていたのです。このことが、単純なはずの事件を複雑なものに変えたのです」

「ちょっと、まってください。シンドウさん。娘は誰にだまされたというのですか?」とカナルが質問する。

「真犯人です。事件の黒幕くろまくです」とシンドウは言った。

「それはいったい誰なのですか?」

 シンドウが答えようとすると、ちょうど、ウルが居間へ帰ってきた。ウルは私たちの前で、神妙しんみょう面持おももちで、ぺこりと深くお辞儀じぎをして、こう告げた。

「ドリィを呼んできたぜ。ついでながら、彼女にプロポーズもした。だから、ドリィは俺の婚約者だ」

「そんな、まさか!ウル。お前、ドリィと結婚するのか」

 村長夫婦が信じられない様子で聞き返した。だが、ウルは「もう決めたんだ」と強く主張した。

 壊れたトビラに、人の気配がした。

 ドリィがやってきたのだ。

 それに気づいたシンドウは、かつてトビラだった入口へ近づいた。

「それでは、皆さんに、ご紹介します。賢者ミカミの親戚しんせきにして、ウルの未来の花嫁にして、かつ、ヒスイ誘拐事件の真犯人であるヒスイさんです」

 入り口には、ドリィがくちびるをきゅっと結んで立っていた。

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