第41話 コトリとシンドウの戦い

 居間で繰り広げられているのは、シンドウとコトリのバトルだった。

 奇妙なことに、シンドウは誘拐ゆうかい事件を、順を追って詳しく説明していく。それにいらだったコトリが、ミカミへ「早くヒトモドキを殺して」と願っていた。

 この場にいる誰もが、シンドウの行為を理解できなかっただろう。


 シンドウは誘拐事件について自分の推理を淡々たんたんと続けた。

「ヒスイさんが行方不明になった後で、村長のカナルさんは僕に手紙を出しました。僕が事件の書かれた手紙を受け取ったとき、ちょうど、隣町のガイマイトにいましてね。そこで、村へ来る前に、僕はいくつかの可能性について考えてみたのです。

 例えば、悪党の魔法使いがいたとして、そいつが村の外からやってきたとします。その悪党がヒスイを殺したか、誘拐してしまった可能性などです。となれば、外部の犯行とみなして、事件当時、村の近くにいた魔法使いすべての足取あしどりをたどる必要があります。

 実はそれを調べる簡単な方法があるのです。町や村には、王国のおきてにより、人の出入りをチェックする関所せきしょがあったので、僕は魔法を使って――」

「そこはかいつまんで話しなさい」とミカミが口をはさんだ。「お前さんは推理で時間かせぎする気なのだろうが、そうは問屋とんやがおろさないよ。結論から言えばいいだろうに」

 シンドウはせきばらいをした。

「コホン。つまり、事前の調査の結果、僕は外部の魔法使いの犯行ではないと考えたのです。そして、僕はこの村へやってきました。残された可能性は村の中にいる内部犯でした。

 しかし、事件について、村長やコトリさんの話を聞いているうちに、おかしなことに気がついたのです」


 なんだろうか。


 私は事件のメモを読み返した。何も不自然な点は見当たらなかった。

 コトリの目の前でヒスイが消えた。コトリは帰宅して、父の村長にその事件を報告した。どこにもおかしなところはなかった。


「間宮君、メモを賢者に渡したまえ」とシンドウが言ったので、それに私は従った。

 日本語で書かれたメモのだったので、ミカミは翻訳メガネをかけて読んだ。「ほう、実にみょうだね」

「ええ、実に妙です。コトリさんの目前もくぜんで、一人の大人の女性が消えてしまったのです。だとすれば、当然、起きるべきことが起きていないのです」

 シンドウが謎めいたことを言ったので、僧侶のスガが思わず聞き返した。「当然起きるべきこと?それは何なのですか?シンドウさん」

「いいですか。人間がぱっと目の前で消えたのであれば、それは魔法使いか魔物のせいだと誰もが考えるでしょう?」

「そうですね」とスガがうなずく。「突如消えたならば、当然そう考えるでしょうね」

「だとしたら、なぜ、コトリさんは悲鳴を上げたり、騒がなかったのでしょうか?犯人である魔法使いか、あるいは、魔物が、自分もねらっているとは思わなかったのでしょうか?

 このおかしな点を説明するために、一つの可能性を僕は考えました。コトリさん、あなたが事実を言っていないのだという可能性をね」


 コトリの顔が次第しだいゆがんでいく。

 私は彼女の表情の変化に驚いた。

 コトリは、シンドウをこう非難ひなんした。

「ひどい!ひどすぎます!いくらなんでも、あんまりです。あれは作り話ではないのです。そうだわ。私、悲鳴を上げましてよ!」


 しかし、シンドウは次のように告げた。

「コトリさん。実はですね、この村へ来てからすぐに、僕はある実験をしたのです」

「実験?」とコトリがびくついて、身構える。

「そう、目撃者を探し出すための実験をね。僕は助手の間宮君に手伝ってもらって、誘拐現場で、彼に悲鳴を上げさせ、騒ぎを起こさせました(第1話、第2話参照)。

 すると、村人たちがたくさん出てきました。ところが、彼らに聞いても、ここ一年以上も、悲鳴を聞いたことがないというのです。魔法も見たことがないというのです。

 いいですか?コトリさん。もし、あなたが悲鳴を上げて騒いだというのであれば、現場の近くにいた村人たちが知らないというのはおかしいじゃありませんか。矛盾が生じます。

 目撃者はあなた以外、誰もいないのですよ。あなたは噓をついています。コトリさん」


 「さすがはシンドウ=サキ」と、ミカミがシンドウをほめた。

 これで、コトリとのバトルに、決着が着くはずだった。コトリが嘘をついているのは、誰の目から見ても明らかだったからだ。

 だが、これで終わらなかった。

 魔法が存在する世界では、ここからが本当の勝負だったのだ。

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