第39話 集合

 ミカミが書斎から出ていった。

 スガとシンドウと私は、部屋に残った。

 あと二時間。

 それで、二つの事件の決着をつけられるのだろうか。


 疲れのせいなのか、シンドウは机で居眠いねむりをしていた。

 よくもまあ、平気でぐうぐう寝られることだと、私はあきれ返っていた。

 スガが本棚ほんだなにびっしりと詰められた本を見て、こう言った。

「賢者ミカミ様は、大臣経験者ですので、法律の知識もおありです。ですから、裁判という形になったのも、うなずけます。

 けれど、どれだけ公正な裁判でも、我々がヒトモドキではないことを証明するのは困難ですよ。

 だからといって、魔法でミカミ様に勝負を挑むのも無謀です。ミカミさまの魔力は我々の力をはるかに超えていますから、魔法の勝負だと我々に勝ち目などないのです」


 この世界では、魔法使いは裁判を受けない。なぜなら、力の弱い一般人が、強い魔法使いを逮捕できないからだ。普通は、魔法使いで勝負をつけるようだ。

 だが、今回は違うらしい。

 賢者ミカミは、私たちを裁くと言っているのだ。

 スガは困っていた。「しかも、弱りました。シンドウさんは、手がかりすらつかめていないのに、なぜ、失踪しっそう事件の真相を語るなどと豪語ごうごしたのでしょうか?」

「俺は無理だと思う」と私は寝ている彼女を見ながら言った。「そもそも、事件の手がかりも見つからなかったんだぜ」

 スガが私の意見に賛成してくれた。

「確かに間宮さんの言うとおりです。ヒスイさんの行方は誰も見当がつかないのです。これは明らかに無謀です」とスガはきっぱりと断言だんげんした。


 シンドウの、あの言動げんどうは不自然だった。

 ヒスイとコトリの失踪事件の真実を語るだなんて!

 事件を推理するにしても、材料がないのだ。

 今、シンドウは、ヒスイがどこにいるのかも知らないはずだ。コトリが見つかった。ところが、彼女は私たちを敵視てきししている。そのため、真相を語ってくれそうにもない。


「ひょっとすると、シンドウさんは、ヒスイさんが見つからなかったので、投げやりになっているのでしょうか?」

 スガは首をひねった。

 彼の言うとおりだ。

 彼女の推理は、現時点では、でたらめのはずだ。推理を披露ひろうしても、はじをかくだけだ。

 暗い顔をしたスガがぼそりとつぶやく。「このままでは、シンドウさんの推理は百パーセントはずれます。

 さらに、我々三人がヒトモドキでないことを証明することも不可能なのです。このままだと、裁判は負けるでしょうね」


 二時間後、館の居間には、コトリと、その家族が集められた。コトリの父である村長と妻、さらに、弟のウルが訪れた。

 書斎へ賢者がやってきた。「さあ、時間だ。皆さんがお待ちかねだよ」

 私とスガの二人の足取あしどりは重たかった。

 しかし、シンドウだけは違っていた。今にもけ出しそうな勢いで、早足はやあしで歩いていった。

 私は彼女の後を追った。「おい、待てよ。シンドウ、勝算しょうさんはあるのか?」

 シンドウは後ろを振り向かず、前だけを向いていた。

「勝ち目はないね。間宮君。今から僕がやろうとしているのは、負けることが分かっている勝負なのだ」

「――なぜだ?」

「なぜだって?これが最後の機会だからだ」とシンドウが答えた。

「機会?」

「そうだ。彼女と対決できるのは、これが最後なのだ」


 わけがわからない。


 シンドウはあせっているのだ。そのため、冷静な判断ができなくなっているのだろう。そのように私は考えた。

「今からでも遅くないぜ。シンドウ。賢者にあやまったらどうだ?」と私は言ってみた。「許してくれるかもしれないぜ」

「僕は名誉やお金のためにやっているわけではない。君のためだ、間宮君」

「俺のため?」

 シンドウの言葉が、ますます、意味の通じないないものになっていく。


 なにもかも、シンドウの目的がはっきりとしないまま、私たちは居間へ着いた。

 ミカミも、村長の家族たちもいた。

 いっせいに皆の視線がシンドウに集まる。

 シンドウはつかつかと居間の中心へと歩み進んだ。まるで、死刑台に向かう死刑囚のようだ。彼女は初めから裁判に負けるつもりだと言った。

 もし、この裁判に負けたらどうなるのだろうか?ヒトモドキとみなされ、私たちはミカミに殺されるのだろうか?

 私は不安で胸がいっぱいになった。

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