第27話 魔物の正体

 数時間後、私とシンドウは、魔物の追撃ついげきからのがれて、死の森に入った。

「もう追ってこないようだね」と後ろを振り向いたシンドウが言う。「ありがとう、間宮君。さて、ウルのいる洞窟へ向かおう」


 うう……。


 私はうめいた。

 体中がケガだらけだ。

 魔物の鋭い爪や牙にひっかかれた傷が痛んだ。

「シンドウ。一つ、聞きたいことがあるんだが……」

「なんだい、間宮君?」とシンドウが聞き返す。

「どうして、もっと、いろんな魔法を使わないんだ?例えば、縮小魔法を使えば、もっと楽に倒せるだろ」

 シンドウは「そうか、なるほどね」と小声でささやいた。


 そうか、なるほどね――じゃない。


 なにしろ、私の生命が危機にさらされたのだ。そんな軽い一言で納得しないでほしかった。


 私は、森に生えている木の枝をった。れているため、たやすく、へし折ることができた。

「あのさ、シンドウ。よりマシな戦い方があるだろ。俺をオトリに使わなくてもいいような方法がさ」

「間宮君」とシンドウは私をじっと見た。「君は知らないのだよ。君の世界には、魔法もなければ、魔物もいないのだね。だったら、その正体を知らないのも無理はない」


 どういうことだろう?


 魔物の正体とは、いったい何だろうか。仮に、私が知らなかったとして、なぜ、それが縮小魔法を使わないことと関係するのだろうか。

 私の頭の中で、そんな疑問が駆けめぐった。

「おいおい、ふざけた謎かけはよしてくれ」と混乱した私は、折った木の枝をシンドウに向けた。「魔物の正体がなんだというんだ」

 シンドウは差し向けられた木の枝をつかんだ。「君、ケガをしてるね。僕が治してしんぜよう」

 話をそらすなよ、と私は言ったが、彼女は回復魔法「リフレッシュ」をとなえた。傷口が、かさぶたごと閉じていった。


 私のケガがえると、シンドウは魔物の正体について語った。

「魔物というはね、人間を襲うように命令された魔法生物マジックモンスターなのだよ。魔法生物マジックモンスターを略して、魔物マモンと僕たちは呼んでいる」

「『魔法生物』ってなんだ?」と私はいた。


 初めて聞く言葉だ。


 シンドウが説明してくれる。

「魔法生物というのは、魔法を使って造られた生き物のことだ。いいかい、間宮君。君が目にしてきた魔物たちは、すべて、魔法使いが造り出した生物なのだよ。本来、この世には存在しない生き物なのだ。凝縮ぎょうしゅくしたエーテル質を使うのだよ。したがって、縮小魔法などは通用しない」

「――全部、通用しないのか?」

「そんなことはない。通用するのもある。火炎魔法や結界魔法とかね。それに、魔法陣を魔物の体に直接描いたら、縮小魔法も通用するよ」

「時間停止の魔法は?」

「あれは有効だ。時空間の操作だからだよ。もっとも、時間操作は範囲がせまいので、敵の近くでしか使えないけれどもね」

 これで、魔物たちの正体が分かった。

 あの凶悪な魔物たちは、魔法で作られた生物兵器だったのだ。

 シンドウの説明によると、魔物に効果のない魔法もあれば、有効な魔法もあるようだ。そのため、無効な縮小魔法を魔物に使わなかったのだ。

 無知なのは、私だった。

 穴があったら入りたい気分だった。

「すまん。俺が勘違いしてたようだ」と私は謝った。

「いや、気にしなくていいよ。疑問点があるなら、僕に聞きたまえ」


 縮小魔法は魔物に効かない。だが、人間には効く。


 そこまで考えたとき、疑問に思うことがあったので、私は尋ねてみた。「だったら、ヒトモドキはどうなんだ?あれは魔物だろう。縮小魔法をかけても、小さくならないのだったら、人と区別できるんじゃないか」

「残念ながら」とシンドウは答えた。「ヒトモドキは、人間そっくりに化けるので、エーテル質が変化して、魔物の性質がなくなるのだ。そのようなわけで、人間とは区別ができない」


 そんなことを話しているうちに、私たちは、目指す洞窟の前まで来た。

 洞窟は死の森の中心部にあった。月が明るかったが、穴の内部までは照らさなかった。

 ウルがいるかどうか確かめるために、シンドウは洞窟どうくつの穴へ呼びかける。「シンドウです。ウルさんいらっしゃいますか?」

「誰かいるのか?早く助けてくれ!」と暗い穴の奥から、ウルらしき男の声がこだました。


 私とシンドウは顔を見合わせた。

 声の緊迫きんぱくした調子から察するに、どうやら、ウルに危険が差しせまっているようだった。

 シンドウが洞窟へ飛び入る。

「おい、シンドウ、待てよ!中は危険かもしれないんだぜ!」と私の警告にもかかわらず、彼女は闇へと消えていった。

 あわてて、私も穴へ駆け寄った。

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