第26話 救出

 かつて、スガは私に対して、「低レベルの魔法使い」だと自称していた。それに加え、こうも言っていたではないか。

 「障壁しょうへき」魔法は、賢者クラスでないと難しいと。

 それなのに、今、彼は障壁魔法が使えると断言した。

 私にはスガの言っていることがちぐはぐに感じる。

「なあ、スガ。お前、まさか『障壁』魔法が扱えるのか?」と私はたずねた。

 スガは首を振った。

「いえいえ、とんでもない。あれは賢者でないと難しいのです。けれど、呪文を知っていれば、私程度でも魔法を発動させることはできます」

 スガの話では、『障壁』魔法は使えるが、数時間しかたもてないという。

 通常、魔法陣の大きさに応じて、魔法の効果は長く続く。シンドウが作った魔法陣は、ラキア村を包み込む大きさだから、効果が一週間以上は続くらしい。

「――ただし、それは、術者の力が未熟でない場合です。私はシンドウさんと比べて、魔力パワーおとります。ゆえに、もって数時間なのです」


 つまり、ウルを救う時間の猶予は、数時間しか与えられていないのだ。

 スガとシンドウは、ウルの救出について話し合った。

 まず、シンドウが結界を解除する。

 その瞬間しゅんかん、シンドウと私が村の外に出る。

 すぐさま、スガが結界を張る。

 それから、二人がウルを村に連れ戻す。

「それでは、その作戦でいきましょう」とシンドウが言った。


 私たちは、村長のカナルを探して、ウルを助けに行くことを告げた。息子が村の外に締め出されていることを知ったカナルは、「バカ息子のために申し訳ない」と謝った。

 本当は、こっちが謝らなければならなかった。

 私たちは、コトリについては、何も言わなかった。ただし、スガと村長には、赤い館の入り方を伝えておいた。コトリのことは、二人に任せることにした。

 それから、シンドウとスガは、それぞれ準備をした。

 スガは念入りに、魔導書らしき本を読んでいた。彼はおそらく受験勉強の前に、徹夜てつやで勉強するタイプなのだろう。

 一方、シンドウは宿で寝た。おそらくは、受験勉強すらしたことがない天才タイプだろう。


 やがて、夜になった。

 村のはずれに、私とシンドウとスガの三人が集まった。三人の前には、透明な壁が立ちはだかっていた。

 すでに、スガは一心不乱に呪文をとなえていた。ひたいに汗が浮かんでいた。

「さて、そろそろ良いころ合いだね。『障壁』を解除しよう」

 魔法を解くと、村にかかっていた大きな虹が消えた。目の前の壁が光り輝いたかと思うと、すぐに消えせた。

「走れ、間宮君」

 シンドウに言われなくても、私はかけ足で村の外へ出た。

 後ろで、スガが『障壁』の魔法を発動させたらしい。大きな虹が村にかかった。


 死の森への行き方はわかっていた。

 問題は魔物だ。

 ウルを尾行したときは少なかったが、今は、大勢の魔物が、村の周りをうろついている。いちいち全部を片付けていっては時間がかかる。そこで、対策を考えたシンドウは、私をオトリに使って、私が魔物を引きつけている間に、強力な火炎魔法で倒すことにした。


 ……。

 他に方法はなかったのかよ!


 数匹の魔物から逃げながら、私は考えた。

 縮小魔法や時間操作など、カンタンに魔物を倒せそうな魔法があるではないか。どうして、それを使えないのか。

 たとえば、ぎらついた目で、私を食べようと鋭い牙を向ける獰猛どうもうなケルベロス。人間よりも大きな犬だった。縮小魔法で、小さくさせれば、あっというまに踏みつぶせるはずだ。

 凶悪な爪で、私の背後から体を切り裂こうとするオオリザードもいた。は虫類特有の、くねくねした動きで、私に近寄ってくる。ぎりぎりのところで、爪をかわした私は、フィギュアスケーターのように、ひらりとちゅうを舞った。これも、時間停止させて、奴らの動きを止めればいいのだ。

「助けて!」


 すでに、私の体力と寿命の限界がきていた。

 もし、生きのびることができれば、今度、彼女に聞いてみなければならなかった。

 魔法を出ししみするくらいなら、なぜ、人の命を惜しまないのかと。

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