第四章 森と聖なる石と推理
第25話 結界の外
赤い館を夕日が照らす。
もう、夕方なのだ。
館に入るときは昼間だった。館にいた時間は、そう長くないはずだ。夕方になどなるはずがない。
まるで、時間が飛ばされたみたいだ。
理解できない私に、シンドウは何が起きたのかを説明してくれた。「ミカミの罠なのだよ。あらかじめ、時間の流れが遅くなっていく魔法『
「『遅延』?どんな魔法なんだ」
「この魔法は、空間内の時間を
時間の流れ方が違うので、廊下の一分が、部屋や館の外では二時間に
なるほど。
私たちから見れば、ミカミたちは素早く動いていた。対して、部屋の中から私たちを見れば、まるでスローモーションのように動く姿が見られるわけだ。はたから見ると、マヌケな姿だったのだろう。
恐ろしい罠だ。
「間宮君、
それほど、賢者は恐るべき相手だということだろう。
「敵があんな魔法を使えるとは思わなかったんだろ?別にいいよ」と私は許した。
館の庭で、これからどうするべきか、私はシンドウと相談した。
時間停止をしてしまっては、しばらく、ミカミやドリィと話しができない。ヒスイの行方どころか、コトリの行方すらつかめないだろう。館の中は、「遅延」魔法の他にも、別の罠が仕掛けられている可能性があったので、コトリを探せなかった。
「真相には近づいた。魔導書の行方も分かった。問題は、コトリとヒスイだ」とシンドウが指摘した。「問題は、なぜ、『彼女たちが魔導書を欲しがったのか?』ということなのだ。これはドリィに
そんなことよりも、私は賢者の言葉「小さきものよ、お帰りなさい」が気になっていた。思い出してみれば、動く
「――というわけで、鎧に襲われたとき、賢者が俺を助けてくれたんだと思う。……言っとくが、知り合いじゃないぜ」
シンドウは「ふむ」と目を床に落とした。
「脳に直接、声を送る魔法があるので、それをミカミが使ったのだろう。しかし、『小さきもの』という意味は分からない。これもミカミに訊いてみなければならないだろうね」
「……つまり、八方ふさがりなんだな?シンドウ」と私は腕を組んだ。腕を組んで、考え事をしていたが、うまいアイデアが出るわけでもなかった。
ふと、私はウルのことを思い出した。「――時間停止で思い出したんだが、ほこらの中にいるウルはどうなっているんだ?お前が時間を止めて、彼を固めたままだろ?」
「そうだ。そろそろ、魔法が解けているころだね」とシンドウが言った。
「解けるとどうなるんだ?」
「動きだす」
冬眠から目を覚ましたクマのように、あの洞窟から出てくるウルを思い浮かべた。
彼は驚くだろう。自分が一日中、固まったことに。そして、村に帰って――。
待て。
村には帰られない。
シンドウも気づいたようだ。「そういえば、『障壁』魔法で作った結界のせいで、彼は村に入られないね」
そうだ。「障壁」は人を通せない。それを村の周りに張り巡らしたのだから、ウルは帰られないのだ。
「一度、『障壁』魔法を解除する必要がある」とシンドウはアゴに手をそえた。
じゃ、簡単だ。
解除して、待てばいいではないか。
ところが、そうはいかないらしかった。
シンドウが黙ったまま、夕日を見た。しばらくして、彼女はゆっくりと口を開いた。「結界を解けば、魔物たちが入ってくる。解除はできない」
「一部だけで解除すればいいじゃないか?」と納得できなかった私は問うてみた。「どこかにぽっかりと穴でも作れば……」
「一部はできないのだよ、間宮君」
魔物たちがあきらめて退散するまでは、結界を解かないというのが彼女の考えだった。
どんなにウルが魔物退治に
「彼を見殺しにする気なのか!」と、私はシンドウへ詰め寄った。「そりゃ、ひどいよ。ほこらに取り残されたのは、俺たちのせいなんだ」
そこへ、僧侶のスガがやってきた。
「
「再結界には、時間がかかります」とシンドウが答えた。「呪文を再びとなえるのに時間がかかるのです」
その間に、魔物が村に入ってしまいそうだ。
スガは何を考えているのだろう。
見ると、スガの顔は、にこやかに笑っていた。
「いえ、大丈夫です。あなたが魔法を解除した後で、前もって呪文をとなえた私が『障壁』を作れば問題ないでしょうね」
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