第18話 赤い館へ

 武器屋とスガの話をまとめると、コトリとドリィが「赤い館」と呼ばれる洋館へ向かったのは間違いなさそうだった。

 シンドウはスガの話を聞き、じっくりとうなずいて言った。

「なるほど、コトリさんとドリィさんの二人が赤い館へ行ったという事は確かなようですね。コトリさんがドリィさんを無理やり連れて行ったのは奇妙な点ですが」

「どうでしょうか。私の調査はお役に立てましたかな?」と僧侶のスガが鼻を高くして威張いばる。

「役に立ちましたよ。さて、今度は僕が話す番です」

 シンドウは武器屋の店主から聞いた証言をスガにも話した。武器屋が障壁のできた後でコトリを目撃したことも伝えた。


 スガはシンドウの話を黙って聞いていたが、納得のいかない様子だった。

「そんなに目撃した時間が重要なのでしょうか?『障壁』ができた後という時間帯が、事件のヒントになるとは思いませんが」と彼は疑問を口にした。

 シンドウはにっこりとほほ笑んで答えた。

「大ありなのです。なぜなら、僕の魔法『障壁』は、村の境界線に張りめぐらしています。魔物どころか人間すら通さない結界なのですよ」

「中の人間も?――物理的にですか?」

「そうですよ。だから、コトリは『障壁』を通り抜けることはできず、したがって、彼女は今もなお村の中にいるのです」

 私とスガはその点に気づかなかった。

 ということは、いまだにコトリは村に外へ出ていないということになる。


 スガは感嘆かんたんの声を上げた。

「はあ!そうなると、シンドウさん、これは重要なことですよ。昨日の夜中、私と自警団の皆さんで彼女の行方を捜しましたが、結局、見つかりませんでした。――壁の中すら見える透視魔法を使ったにもかかわらずですよ。村で探索していないのは、例の赤い館だけです。なぜだか透視魔法が効きませんのでね」

「コトリとドリィは昨夜、赤い館へ向かった。道具屋の証言と考え合わせれば、コトリは今もその建物にいる可能性が高いですね」とシンドウは指摘した。

「そう考えるのが妥当だとうでしょう」

 シンドウとスガの二人の考えが初めてぴたりと合った。

 横で推理を聞いていた私も、確実な事実を、初めて手に入れたような気がした。行方をくらましたコトリの居場所は、赤い館以外に考えられないのだ。


 私たちが赤い館へたどり着いのは昼過ぎだった。

 道具屋を出発して、不気味な沼地を通り抜け、村のはずれに、その洋館は建っていた。

 人目を避けるようにしているようだ。

 にもかかわらず、薄赤色のペンキを屋根から壁まで塗ったような3階建ての館なので、派手で目立つ。窓の枠まで真っ赤だ。ゴシック調の装飾が赤くて見えづらかった。この主人の趣味はあまり一般的ではなかった。

「悪趣味ですねえ」とスガが感想をもらす。

 変態がそう言っているのだから、こちらの世界でもかなり異常なのだろう。


 赤い館を見ているだけで、私の目が疲れてきた。

「なあ、シンドウ。本当にあそこにコトリがいると思うのかい?」

「その可能性は成立するよ。あそこへ近づいてみよう。間宮君」

 崩れかかった門をくぐると、玄関のドアが見えてきた。

「ドゥーラの木でできているね」とシンドウは説明した。ドゥーラとはかしの木に相当するもので、丈夫でがっちりしている高級木材らしい。

 そのドゥーラ製のドアを何度かスガは手でたたいた。

「誰かいませんか?コトリさーん!」

 返事はなかった。留守なのだろうか。

「どうやら我々を警戒しているようですな。しかたありませんね。どれ、私が服を脱ぎますか」


 やめろ。

 その行為は、相手の警戒心を呼び起こすだけだ。


 シンドウが魔法を使おうと提案したので、スガは裸にならなかった。

 ローブを着ながら、スガは「マッスル教の教えでは、親愛の情を示すには、筋肉を見せることなのですが……」と残念そうに言う。

 シンドウとスガは、いくつかの魔法を試してみたが、どれも効果がなかった。束縛魔法「チェーン」ですら、ドゥーラのドアに傷一つ付けることができなかったのだ。

 魔法が無効だと知って、私とスガは、館へ入るのをあきらめた。

 シンドウだけは、あきらめきれずにいたのか、屋敷の庭を歩き回っていた。何も見つからなかったのだろう。玄関へ引き返してきた。

 どうやって入ればよいのだろう?

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