第16話 捜索

 自警団の若者たちが居間へ入ってきて、弱っていたアリアを連れ出した。居間に残された私たちは、コトリを探索する方法について話し合った。

 まず、村の外を探すべきだと言い出したのはスガだった。彼はコトリが村を出たので、外を探索するべきだと提案したのだ。

 私もうなずいて賛成した。

 その提案に対して、シンドウは結界の解除をしなければ、外に出られないのだと言った。「魔物がまだいるのですから、村の外に張った結界魔法を解除することはできないのですよ」

「では、どうするのです?」とスガがく。

「目撃者を探すべきだと私は思います」

 シンドウがそう答えると、スガは「目撃者ねえ……」と困ったようにアゴをさすった。「そんな簡単に見つかるものでしょうか。なにしろ、あの混乱のさなかですからね」

 今度は、シンドウが提案する番だった。

「手始めに、武器屋から始めてみてはどうでしょうか」

 スガが感心した声を出す。

「ははあ、なるほど。シンドウさん。あのあたりでいなくなったとすれば、武器屋の店主が何かを見ているかもしれませんね」


 母親のアリアは武器屋で娘を見失ったと言っていたっけ。

 それならば、コトリを見ている人が武器屋にいてもおかしくなかった。


 私たちは武器屋のところへ行くことに決めた。

 しかし、私たち三人は、まだ村長の家にとどまって議論していた。シンドウが次のようなことを言い出したからだ。

「さて、と。コトリの件はこれでよいでしょう。しかし、より大きな問題が残っています。ヒスイさんをどう見つけるかです」

 ヒスイの事件を誘拐事件ととらえていたスガは、誘拐犯を探そうと意気込んでいた。

「やはり、彼女は誘拐されたのです。ですから、邪悪な誘拐犯を探すべきなのです」とスガが断言した。

 それに対して、シンドウは「ありとあらゆる可能性を考慮こうりょに入れるべきでしょう」と言った。「思い込みは危険なのです。推理の前提には、事実を置かなければなりません」

「口先の推理だけでは、誘拐した犯人を捕まえることができません。……魔法を前提とした推理は成り立ちませんから」とスガが口をへの字にして、文句を言った。

 シンドウは反論しなかった。

「確かに、そうですね」

「理屈をこねるよりも、ヒスイをさらった魔法使いを探すべきでしたね。……当然、私以外のどなたかを」

「その可能性も成立します」

 シンドウの言葉には批判が込められているように感じる。

 このときのシンドウが何を考えているのかを、私は知らなかった。


 魔法使いが哀れなヒスイを誘拐したのではないか。


 私はそう思っていた。

 それが違うとでもシンドウは言いたいのだろうか。

 機嫌を損ねたスガは、一人で先に武器屋へ向かうと言い出した。私とシンドウは彼を止めなかった。


 スガが出ていったあとで、シンドウが私に語りかけた。

「あの男は魔法使いとして優秀だ。僧侶にしておくのはもったいないよ。でもね、残念なことに、想像力が足りない。二つの事件が無関係だと考えるのは早計そうけいなのだ」

「でも、シンドウ。コトリは自分で行方をくらましたんじゃないのか。だったら、ヒスイの誘拐事件とは関係ないぜ」と私はささやかな反論をこころみた。


 シンドウは、村長のテーブルを指でいじっていた。

 彼女は目を落とした。「僕たちは昨日の晩、ここで食事をしたね。間宮君、思い出してごらん。コトリの様子を。ヒスイが自分の目の前で消えたのだと言っていたのだ」

「そうだ」

 私はコトリが涙ながらに事件の状況を語っていたのを思い出していた。「あれはかわいそうだった。見ていられなかったんだ」

 シンドウはテーブルのかどを人差し指ではじいた。

「では、間宮君。彼女の身になって考えてみたまえ。親友が目の前で消えたのだと仮定しよう。さらったのはだれかは不明だ。まだ、誘拐犯がうろついているかもしれない。そこへ魔物が村を襲ってきた。そのような危ないときに、女性が一人だけで逃げ出すと思うかい?」

 私はあ、と声を上げそうになった。


 そうだ。たしかに、コトリにとって危険すぎる状況だ。


「なぜ、こんなことに気づかなかったのだろう?」と私は自分を責めた。

「二つの事件は無関係だという思い込みのせいなのだよ。実際には、彼女は自分の意志で去ったのかもしれないし、あるいは、誘拐されたかもしれない。情報が少ないのだから、どちらとも言えるのだ」

「なるほど」

 二つの連続した誘拐事件。その可能性もあるわけだ。

 そうだとするならば、私の頭に恐ろしいイメージが浮かび上がってきた。ヒスイを誘拐した犯人がこの村の中にいたとしたら。そして、今度はコトリを連れ去ったのだとしたら。

 もうすでに、二人の美女が殺されてしまっているのではないか。

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