第15話 母の証言
シンドウは村長の家の居間にある窓から外を見た。大きな虹がかかっている。
居間には、クッションを
アリアは村長の妻として
イスに深く腰かけたアリアに対して、シンドウは次のような質問をした。
「早速ですが、アリアさん、あなたが娘のコトリさんを最後に見たのはいつですか?」
しばらく考え込んでいたアリアだったが、言葉をかみしめるかのようにゆっくりと話し始めた。「晩さんが終わったので、私は後片付けをしていました。コトリは疲れたのか寝ておりました。
すると、急に、家の外がさわがしくなったのです。ご近所の人たちが魔物だと叫んでいましたので、びっくりした私は娘を起こして、外へ飛び出しました。私と娘は、逃げ場所を探して、夜道を走り回っていました。
その途中で、何人ものけが人を見たあの子は『もう、うんざりよ!』と叫んで、北の方角へ走り去ったのです。それが私の見た最後の姿でした。それきり、村の中を探しても、コトリは見つかりません」
「それは正確に、いつのことですか?大きな虹が出る前のことですか?」とシンドウが
それはわからないとアリアは答えた。ただし、場所は覚えていると言う。「はぐれた場所は、この先にあるあぜ道を通って、武器屋の手前でした。はっきりと記憶しております」
「では、ここから1ヅカルも離れてませんね。最近、娘さんに変わった様子がありませんでしたか?」
「――そういえば、一か月前からでしょうか――ドリィという女があの子を訪ねてくることがありました。それ以外は普段と同じでした」
ドリィと言えば、洞窟で村長の息子ウルと言い争っていた女だ。
何の用だったのだろう?
シンドウはドリィについて聞こうとしたが、アリアは例のごとく「さっぱりあの子の交友関係はわかりません」と冷たく言い放った。
「ところで、コトリさんが言っていた『うんざり』とはどのような意味なのか、わかりますか?」とシンドウが
彼女の顔を見るかぎり、言いづらそうな問題だった。シンドウが
話を聞いていたスガがアリアの手を握った。「奥様、我々はあなたの味方ですよ。ここで聞いたことは誰にも話しません」
私たち3人の顔を交互に見たアリアは、やがて決心したように、
「……そうですね。ここは、魔法使いの方々を信じましょう。あの子は……この村で育ったのではなくて、ガイマイト育ちなのです」
ガイマイトとは、ラキア村の隣にある大きな町です。
しかし、町と村の間には、「死の森」が横たわっているので、行き来が少ないのが現状です
私が書いていたメモの紙へ、このような文字が浮かび上がった。また、シンドウが魔法で文字を表示させたのだ。
アリアは座ったまま、天井を仰いだ。
「ガイマイトにはこの村にないものが全てありました。遊ぶための娯楽施設。魔物から守ってくれる城壁と軍隊。
アリアの話を聞く限り、ガイマイトはかなり大きな町のようだ。この村が田舎ならば、ガイマイトは都会に当たるのだろう。
さらに、アリアは話を続ける。
「――ところが、村長をしていた父が倒れまして、村長の役職を主人が
そして、ウルを生みました。姉のコトリは、不便な村暮らしが耐えられなかったようで、何度も、生まれたガイマイトへ引っ越しするようにせがんできたのです。そのとき決まって言っていたのが、『この村はうんざり』というセリフでした。……あの子は村の生活を嫌がっていたのです」
「そうだとすれば、コトリさんは村から逃げ出して、ガイマイトへ行こうとしたわけですね」とシンドウは確認した。
「あなたのおっしゃるとおりですわ。シンドウさん。だから、私は村の外へ出て探すべきだと考えたのですよ」
コトリは町で生まれ育った。ゆえに、村の生活を嫌がっていた。
母親の話をまとめると、そういうことになるのだろうか。
もし、母親の話が本当であれば、コトリは村を見捨てて逃げ出したことになる。でも、彼女がそんな性格には見えなかったから、私には信じられなかった。
シンドウは彼女の話を熱心に聞いていた。いなくなった状況をもっと知りたいので、細かく質問をしたが、手がかりは得られなかった。
そばで聞いていたスガがためらいがちに口を開いた。「これはもしやコトリさんは誘拐されていないかもしれませんよ。皆さん。彼女は自分の意志でいなくなったのではないでしょうか」
アリアと私は無言だった。
それは、僧侶の主張に反対する理由がなかったためだった。
シンドウは賛成も反対も言わなかった。彼女は「僕たちはコトリさんに対して、思い違いをしていたのだ」と誰もいない窓の外へ向かってつぶやくのみだった。
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