第11話 魔法使い 対 魔法使い

 魔法使いを捕まえるためには、魔法使いでなければならない。

 というのは、魔法を使えない一般人では、魔法使いたちに手も足も出ないからだ。

 シンドウとスガは魔法使いだった。

 村長によれば、事件が起きたとき、スガは村にいたはずだ。考えてみると、彼が犯人であっても何らおかしくはない。


 シンドウは彼を捕まえる気でいるのだろうか。


 今、シンドウとスガの二人は、宿屋の前で対峙たいじしていた

 微笑ほほえみながらシンドウがスガにく。「スガさん、あなたが魔法を使えるのは知っています。そこで、単刀直入たんとうちょくにゅうにおうかがいしますが、あなたはヒスイさんを誘拐しましたか?」

「私がですって!」と僧侶はうろたえた。「そんなバカな話がありますか?だって、私には、彼女をさらう動機どうきがありませんよ」

「確かに理由はありませんね。私たちに、この村へ来た真の目的を話していただかないかぎりは」

「布教が目的です。それ以外はありませんよ」

 だが、彼の言葉には力がこもっていなかった。彼が嘘をついているのは、誰の目から見ても明らかだった。


 この僧侶は怪しかった。


 いきなり服をめくって筋肉を見せつけるなど、常人のやることではなかった。あの名もなき少女も「変態さん」と言っていたではないか。となれば、恐るべき変質者なのだ。

 僧侶はフフフと笑い出した。

 あまりに突然なので、私は一歩引きさがってしまった。


 いったい、こいつは何をする気なんだろう?


「間宮君、気を付けたまえ」とシンドウが警告を出した。「この男は、魔法で戦いをいどむつもりなのだ」

 スガには勝算しょうさんがあるらしい。

「フフフ――やはり、私を犯人扱いしましたね。こんな所で捕まるのはまっぴらごめんです。仕方がありませんね。筋肉神さま、我にお力をおさずけください!チェーンよ、伸びろ!!」と叫んだ。

 すると、シンドウの足元から生えてきた鉄のような無数の黒い鎖が、彼女のブーツに勢いよくからまってきた。あたかも、鎖が足を飲み込んでいるようだった。

「あぶない!」と叫んだ私の足にも、同じように鎖が伸びて巻かれていく。

 歩こうとしても、きりきりと鎖が足を締めあげて、思うように足を動かせなかった。


 それを見たスガは、満足そうに笑った。

「フフフ、どうですか?教会秘伝の束縛そくばく魔法『チェーン』のお味は?さぞかし、痛いでしょうね。魔力を吸い取っていますから、呪文を唱える余裕はありませんよ。でもね、あなたがたが悪いのですよ。私を容疑者扱いするとは。聖職者として、これ以上ないくらいの許されざる侮辱です。ああ、ですが、むやみな殺生せっしょうはしません。なにしろ、私は僧侶ですので」とスガは勝ちほこって言った。

 私の足に激痛が走った。

 こんな痛みに耐えるくらいなら、小指をタンスの角にぶつけたほうがましだった。

 痛みに耐えかねたのか、歯ぎしりをしていたシンドウが口を開いた。「あ……あなたがヒスイさんをさらったの……か」

「いいえ、何度も言いますが、違いますよ。でもね、あなたたちに、私の仕事を邪魔されては困るのです。先祖の汚名をそそぐためにはね。ヒスイさんの誘拐事件は、あなたたちに代わって、私が解決して差し上げましょう」

 足がちぎれそうだった。


 もう限界だ。


 私が泣いて降参しようとしたその時だった。

 シンドウが満面の笑みを浮かべたのだ。「ご協力ありがとうございました。スガさん」

 それを見て、スガと私は、二人そろって「そんなバカな!」と大声で叫んだ。やせ我慢できるような痛みではないはずなのだ。なのに、シンドウは平気な顔をしている。


 どんな魔法を使っているんだ?


 シンドウがゆっくりとこう言う。

「不思議そうな顔をしていますね。スガさん、あなたは内心、こう思っているはずです。『魔法の発動は感じられなかった。こいつは、いつ魔法を使ったんだ?』とね」

「どういうことです?いつのまに?」と言っているスガの額から玉のような汗が流れる。

「そうですね、僕の答えはこうです。『最初から魔法を使っていた』と。空を飛んでくる前からね」

 その瞬間、着ていたカーディアンだけを残して、シンドウの姿が消えてしまった。

 服だけを残して、彼女はどこへ消えてしまったのだろうか。

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