第10話 最強の魔法使い
しばらくして、少女の両親が少女を見つけてかけ寄ってきた。
「だいじょうぶかい?」と父親が
少女と父親があわてて立ち去った後で、僧侶のスガが私に声をかけた。「はぐれた親が見つかって、あの子、よかったですね。お父様も
うん、
あの子のパパ。
そのことに気づかなかったスガは手を合わせ、天に祈るような格好をして、目を輝かせた。
「これもやはり、
「筋肉神」という聞きなれない言葉が出てきたが、私は無視することにした。私の頭が理解を
「さっきから、あなたは沈黙していますが、あなた、マッスル教にご興味はありませんか?間宮さん」
私はずっと黙ったままでいた。
スガはマッスル教のすばらしさを
さて、シンドウはどこにいるのだろう?
どこだろうか。できれば早く私を見つけてほしい。
願わくば、先に倒すべき相手が魔物ではなくて、この目の前にいる筋肉バカだということに気が付いてほしかった。
「申し訳ないけど、興味がないので……」と私は断った。
「そうですか。では、しかたありませんね。もし、入る気になれば、宿屋の二階にある私の部屋をお訪ねください」
残念そうにスガは言う。
このとき、宿屋の二階には近づかないようにしようと私は固く決心した。
「ところで、サキさんは今、どこにおられるのです?」とスガが
そういえば、さっきの騒ぎで、シンドウから、かなり離れてしまった。きょろきょろと見回したが、そもそも、ここがどこなのかも不明だ。
魔物に襲われたラキア村は、ところどころで火事が起きて、煙が
ということは、魔物がいなくなったのだろうか。
「さあ、シンドウが今どこにいるのか……。あいつは、一人で魔物たちをすべて倒すと言っていたので、村のどこかで、魔物を倒しているのかも――」
「なるほど、さすがは『世界最強クラスの魔法使い』と
「世界最強?」と私は思わず聞き返さずにはいられなかった。
「――知らなかったのですか?助手をなされているのに?」とスガは驚いて、私の顔を見つめた。「魔法使いが起こした事件を、よりランクの低い魔法使いが解決できると思いますか?あの方は、数々の難事件を解決して、多くの魔法使いを犯人として捕まえてきました。中には、マール王国やマッスル教団で、一番強力な魔法使いと信じられていた人も含まれていたのです。私のような
私は、シンドウのあどけない顔を思い出していた。
信じられるわけがなかった。
たった17歳の少女が、世界で最も強く、誰にも負けたことがない魔法使いだなんて、ありえるのだろうか。
告白するが、私はこの世界の魔法を、なんでもできる万能の能力と考えていた。実際に、彼女はいろいろな魔法を私の前でやってみせた。魔法使いと言えば、シンドウしか知らなかったわけだから、それが当たり前だと思っていた。
しかしながら、スガによれば、ほとんどの場合、使える魔法は指で数えるほどなのだという。
「そうですね。例えば」とスガは考えながら、私に魔法を説明した。「私なんぞは、結界魔法『ウォール』と回復魔法『リフレッシュ』、それに翻訳と縮小魔法と『空間転送』の5つしか、
天才。
私が通っていた学校でも、そう感じさせる人間はいた。
例えば、ピアノが上手に引けるやつ。カラオケのうまいやつ。ダンスのテクニックが他のやつとは一線を
もちろん、私が天才だと感じているだけで、周りの評価はどうかはわからなかった。
スガは宿屋の方向へ歩き始めた。「ひょっとしたら、宿屋に帰っているかもしれませんね。一度、私たちも宿に行ってみましょう」
「そうだな」と私は同意した。
村の宿へ行った私たちは、魔物たちにより被害を受けた宿を発見した。レンガの建物に、虫が
人はだれ一人いなかった。宿屋の主人もどこかへ逃げたらしい。
「シンドウさんはどこへ行ったのでしょうか?」とスガが疑問を口にしていると、空から舞い降りてくる少女がいた。
シンドウだった。
「探したよ。間宮君」と彼女は、ぱっと地面に着地した。「あまりにも、魔物の数が多くてね。仕方がないので、結界魔法『
「障壁ですって!」
僧侶のスガが驚きのあまり、口に手を当てた。「バカな!ウォールの最上位魔法ではないですか。あれは、賢者クラスの魔法使いが長時間をかけて、ようやく
シンドウはスガを見て、「こちらの方は?」と私に
私はスガを命の恩人で、僧侶だと紹介した。「こちらの方は、俺のピンチを助けてくれてね。シンドウ、お前に会いたがっていたんだ」
紹介を受けたスガは、両手を合わせて、
周囲の空気が変わった。
シンドウが
「初めまして。シンドウ=サキです」
「お噂はかねがね聞いていますよ。賢者にも引けをとらない魔法使いだとか。……だけども、最強の結界である『障壁』まで使えるとは驚きでしたね」とスガは腕組みをした。「いやはや、絶対に、あなたと戦いたくありませんね」
シンドウがにこにこと笑う。「僕もですよ。殺すのは魔物だけにして、同類の魔法使いは殺したくない」
どういうことだろう?
今の会話は、あきらかに
二人とも互いを敵と認め合って、
今になって、私は二人を引き合わせたことを後悔した。
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