第5話 ロールプレイ
街から街までの道中、また、機能していない町や村などでも、数は少ないが、様々なユーザに出会った。
そういうユーザには、MMORPGならではのキャラ設定になりきっている場合がある。定番ではあるが、何人かのユーザについて記録していくことにした。タクトさんに…いや、もはや関係なくなってるか。趣味かな。
「作詞の元ネタにするつもり?お姉様とのラブソングが優先よ」
「覚えていたか…」
◇
「旅人さん旅人さん、どちらに行かれるのですか?」
「よろしければ案内しましょう。さあ、こちらへ」
森の近くの道を歩いていたら、妖精がふたりやってきた。案内AIかな?
「妖精だー!一緒に飛ぼう!」
「え、マリナちょっとま」
ぽん、と妖精アバターになって飛んでいく。遭遇した種族のアバターに切り替える高レベル機能、まだ残っていたのか。いや、MP無限チートのせい?
「あはははは!」
「て、手を、引っ張らないでー!」
「わ、わわわわ、わわ」
おい、妖精キャラが圧倒されてるぞ。おそるべし、世界で最初の訓練ユーザ。
森の中を何周か飛び回ったのち。
「もうイヤ…帰る…」
妖精キャラのうちのひとりが消えた。え、ログアウト?ユーザだったの?
「ちえー。あ、アンタはもう一度やってみる?今度は競争よ!」
「…た、旅人さん旅人さん、どちらに」
「君もユーザか…」
◇
「拙者は影にして陰。何人たりともその目で捉えることはできぬ」
「いや、できてるんですけど」
誰もいないと思った街に、忍者がいた。中世風の屋敷の壁に貼り付くように。意外となんでもありだな、元のMMORPG。
「ユキヤ、少しは合わせてあげたらどうだ」
「芝居は苦手なんだよ。マキノはこないだ時代劇にゲストで出てたけどさ」
「時代劇というよりSFだったかな。タイムスリップ物で」
「あの…忍者さんが悲しそうな顔をしてますよ?」
そう言われても。
「運営からのメッセージは見てるんだろ?一度ログアウトしたら?」
「…拙者、主と運命を共にする所存ゆえ」
「主って、どこにいるの?」
「それは…ああっ、ログアウトしてる!?」
ステータス画面でフレンドの状態をチェックしたらしい。主に置いていかれたのか。哀れな。
「うう、姉さん何で連絡もなく…。せ、拙者、これにて失礼」
無事(?)ログアウトしていった。がんばれ、弟くん。
◇
「みんなー!楽しんでるかにゃー?」
「「「いえー!」」」
ある村に近づくにつれてなーんか聞こえてくるなーと思ったら、村の入口でなぜか猫耳アイドルのライブが催されていた。あ、嫌な予感。
「何よその歌い方は!あたしの歌を聴けー!」
予感的中。カレンのやつ、マイクを奪ってデビュー曲歌い始めやがった。ユーザ名表示が『Karen』なせいか、リアルの正体はバレていない模様。
「にゃ、にゃにゃにゃ…!?」
「すまんな。カレンに悪気はないんだ。たぶん」
「振付が…」
「ん?」
「振付がなってないにゃー!」
そう言って、猫耳アイドルはカレンの横に並び、同じタイミングで踊り始めた。おお、うまい。
「アクシデントあったけど、特別ライブ楽しめたかにゃー?」
「「「おー!」」」
「じゃあ、次のライブはファンクラブ通信で知らせるにゃー!また会おうにゃー!」
「「「わー!」」」
観客ユーザが次々とログアウトしていく。ファンクラブまであるのか。
猫耳ユーザが残っていたので話を聞くと、リアルでは振付の仕事をしているらしい。早速、マキノが趣味と実益を兼ねて連絡先を交換していた。素早い。
「あれ、仕事で振付ってことは、実際の年齢は…」
「じゃ、じゃあまたにゃー!」
逃げられたにゃ。
◇
「そうですか。そろそろ帰宅した方が良いですわね、セバスチャン」
「は、お嬢様」
「では、これで失礼いたしますわ」
そう言ってログアウトしていく、お嬢様とセバスチャン。リアルでの関係が気になる…。
「はー、あたしも執事が欲しいわ。現実ではマネージャが無能過ぎて」
「彼も新人なんだから仕方ないさ。ユキヤ、鍛えてやってくれないかな」
「は?なんで?」
「以前ツアーに同行した時の君のスケジュール管理は素晴らしかったじゃないか」
「いや、あれはお前に業務内容を嫌でもずっと聞かされていたからであって…」
「あら、いいわね。今度から霧島雪夜のことをアルフレッドと呼んであげる」
「お断りいたします、ぼっちゃま」
「誰がぼっちゃまよ!」
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