第6話 聖王女
「私は、聖なる王家に生を受けし王女。この世界に救いを導く運命を担う者」
あれ?イベント進行してる?おかしいな、この台詞はグランドクエスト発生時のものと聞いたのに。
結局GMは見つからず、ほとんどの街を回ってようやく向かったのが、聖都の王城。ここで、勇者は第一王女AIからのグランドクエストを受ける。
その後、勇者は転移装置を使って主要な街を回り、最強メンバーを集めてパーティを結成し、魔王の領地に侵攻するという流れらしい。
「勇者ユーザはいないわよね?あたし達はそもそもレベル設定がないし」
「それどころか、ほぼ全員のユーザがログアウトしている。さっき、運営からの最新データが届いた」
勇者となるには、一定のレベルとアイテム取得、いくつかのサブクエストのクリアが必要だ。そして、条件を満たしたユーザが登場した時点でグランドクエストが発動する。
そういうわけで、ユーザ全員がLv.1扱いの今、第一王女AIがこの台詞を言うはずはないのだが…。あ、AIを示すマーカーがない。
「ロールプレイ?」
「うっ」
なんだかなあ。そりゃあ、ドレス衣装はメニューから選べるけどさ。男性アバターでも。
「あのさ、なりきるのもいいけど、今回は…」
「控えろ!この方をどなたと心得る!」
「え、騎士団AI?ユーザじゃなくて?」
何人もの騎士が王女ユーザの前に守るように立つ。こちらは確かにAIマーカーが表示されている。
「どういうことだろう?王女AIでもないユーザを騎士AIが守るなんて」
「んー。カレン、マキノ、とりあえず騎士団を倒して」
「指示されなくてもやるわよ!」
「やれやれ」
以下略。騎士団はキレイに消滅していった。
「そ、そんな…」
王女ユーザは、その場に崩れる。
◇
「…魔道士だったけど、王女が佇んでいるのを見て、お姫様になりたくなって…」
第一王女AIは今も自室で『待機』しているらしい。
「それで、ドレス衣装に着替えて、玉座で第一王女AIのふりを?でも、騎士団AIが稼働したのは?」
「私が、クエストキーを持っているから」
「え、グランドクエストが発生していないのに?しかも、勇者ではない君が?」
「わからない。ある日王女を見ていたら、クエストキーがドロップして」
「騎士団は王女じゃなくて勇者を守っていたのか…」
意図しない時間加速でクエストキーがドロップした?いや、ある日突然、というのが気になる。俺達の無限チートのように、最初から発現しているのならともかく。
「それに、『魔王』も出現しているの」
「『魔王』も!?」
グランドクエストの最終目標は魔王討伐だ。クエストキーが得られるようになったのなら、魔王が出現していても…いや、待てよ?
「魔王が出現したからクエストキーがドロップした?渡す勇者ユーザが認識できなくて」
「かもしれないね。勇者の出現が魔王の出現をもたらし、魔王の出現でクエストキーが機能する。なんとも皮肉な設定だが」
正義の味方には悪の組織が必要ってか。でなければゲームにならんのはわかるけどさ。
「んで、魔王AIを出現させられるのは…」
「…GMか。何がしたいんだろうなあ」
俺は王女ユーザからクエストキーを譲り受ける。そのまま、ユーザはログアウトしていった。
◇
早速、GMの手がかりをつかむため魔王の領地に向かおうとしたのだが。
「見て見てー、お姫様!」
「その、今まで着る機会がなかったので、みんなで着てみただけで…」
「お姉様どうですか、あたしの王女姿!」
聖都の店にいろんなドレスが置いてあったらしい。
「ま、いっか、これくらい」
「おいユキヤ、だから君はモテないんだ。みんな、とってもよく似合うよ」
その後、マキノが王子の衣装を試し、カレンがきゃーきゃーうるさかったのは言うまでもない。
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