第6話 聖王女

「私は、聖なる王家に生を受けし王女。この世界に救いを導く運命を担う者」


 あれ?イベント進行してる?おかしいな、この台詞はグランドクエスト発生時のものと聞いたのに。


 結局GMは見つからず、ほとんどの街を回ってようやく向かったのが、聖都の王城。ここで、勇者は第一王女AIからのグランドクエストを受ける。

 その後、勇者は転移装置を使って主要な街を回り、最強メンバーを集めてパーティを結成し、魔王の領地に侵攻するという流れらしい。


「勇者ユーザはいないわよね?あたし達はそもそもレベル設定がないし」

「それどころか、ほぼ全員のユーザがログアウトしている。さっき、運営からの最新データが届いた」


 勇者となるには、一定のレベルとアイテム取得、いくつかのサブクエストのクリアが必要だ。そして、条件を満たしたユーザが登場した時点でグランドクエストが発動する。

 そういうわけで、ユーザ全員がLv.1扱いの今、第一王女AIがこの台詞を言うはずはないのだが…。あ、AIを示すマーカーがない。


「ロールプレイ?」

「うっ」


 なんだかなあ。そりゃあ、ドレス衣装はメニューから選べるけどさ。男性アバターでも。


「あのさ、なりきるのもいいけど、今回は…」

「控えろ!この方をどなたと心得る!」

「え、騎士団AI?ユーザじゃなくて?」


 何人もの騎士が王女ユーザの前に守るように立つ。こちらは確かにAIマーカーが表示されている。


「どういうことだろう?王女AIでもないユーザを騎士AIが守るなんて」

「んー。カレン、マキノ、とりあえず騎士団を倒して」

「指示されなくてもやるわよ!」

「やれやれ」


 以下略。騎士団はキレイに消滅していった。


「そ、そんな…」


 王女ユーザは、その場に崩れる。



「…魔道士だったけど、王女が佇んでいるのを見て、お姫様になりたくなって…」


 第一王女AIは今も自室で『待機』しているらしい。


「それで、ドレス衣装に着替えて、玉座で第一王女AIのふりを?でも、騎士団AIが稼働したのは?」

「私が、クエストキーを持っているから」

「え、グランドクエストが発生していないのに?しかも、勇者ではない君が?」

「わからない。ある日王女を見ていたら、クエストキーがドロップして」

「騎士団は王女じゃなくて勇者を守っていたのか…」


 意図しない時間加速でクエストキーがドロップした?いや、ある日突然、というのが気になる。俺達の無限チートのように、最初から発現しているのならともかく。


「それに、『魔王』も出現しているの」

「『魔王』も!?」


 グランドクエストの最終目標は魔王討伐だ。クエストキーが得られるようになったのなら、魔王が出現していても…いや、待てよ?


「魔王が出現したからクエストキーがドロップした?渡す勇者ユーザが認識できなくて」

「かもしれないね。勇者の出現が魔王の出現をもたらし、魔王の出現でクエストキーが機能する。なんとも皮肉な設定だが」


 正義の味方には悪の組織が必要ってか。でなければゲームにならんのはわかるけどさ。


「んで、魔王AIを出現させられるのは…」

「…GMか。何がしたいんだろうなあ」


 俺は王女ユーザからクエストキーを譲り受ける。そのまま、ユーザはログアウトしていった。



 早速、GMの手がかりをつかむため魔王の領地に向かおうとしたのだが。


「見て見てー、お姫様!」

「その、今まで着る機会がなかったので、みんなで着てみただけで…」

「お姉様どうですか、あたしの王女姿!」


 聖都の店にいろんなドレスが置いてあったらしい。


「ま、いっか、これくらい」

「おいユキヤ、だから君はモテないんだ。みんな、とってもよく似合うよ」


 その後、マキノが王子の衣装を試し、カレンがきゃーきゃーうるさかったのは言うまでもない。

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