第2話 チート魔術士
「ねえ、まだ?」
「まだだよ。あと数時間はかかるはずだ」
「えー!そんなに歩けない!」
「しかたないだろ、『転移魔法』とか使えないんだから」
カレンは遠足とかしたことないのか?そもそも、たいして疲れるわけじゃないし。
「まあまあ、そう言うなよ。あそこの木陰で少し休んでいこうか」
「はい、お姉様!」
「1時間も経ってないじゃないか…」
『始まりの町』には用がなくなったので、別の街に移動する俺達5人。辺境世界と異なり、こちらには街が数多くあり、その街と街の間は結構離れている。
本来ならば、道中に魔物とか出没して経験値を獲得したり、途中の村で宿をとったりと、異世界情緒あふれる旅となるのだが、魔物も村も機能していない。
「途中で何人かのユーザに出会ってログアウトしてもらいましたけど、まだ30人以上いますよね」
「ほとんどのユーザは、魔法やアイテムで主要ポイント間を移動できるようになっているからなあ」
しかし、こちらは初心者装備だ。カレンの剣士レベル相当が高いが、移動には関係ない。馬車とかの交通手段も機能停止している。歩くしかない。
◇
「ギルドなき今、俺達が仕切る!」
「スクロールは1呪文あたり金貨5枚な」
「パーティ全回復呪文は追加で金貨1枚だ」
「魔法付与の鎧はレンタル式だ!」
ようやくたどり着いた街には、魔術士ギルドの建物があった。魔術士ユーザの拠点となる街らしい。
時間設定のことをまとめて伝えようと建物に入ったら、こんなことを言い出したパーティが現れた。
「いや、俺達は運営から…」
「帰らんぞ!俺達から魔法は奪えない!」
話聞けよ。っていうか、お前らどっかで見たような…。
「ふっ、俺の右手に封印せし黒龍が火を吹くぜ!」
「お前か!いや、お前達か!」
ほんの少ししかいなかったからアバター名も知らんけど。
「ん?ああ、辺境世界にいたヤツか。なんだ、ちゃんとした魔法が使いたくなったのか?」
「違う。俺達は状況を伝えに来ただけだ」
ようやく、パーティのリーダーに説明する。かくかくしかじか。
「そうか…。他の魔術士ユーザもいなくなったし、そろそろ潮時か」
「え、じゃあ、この街の他のユーザは?剣士は見当たらなかったが」
「別の職業だな。商人とか」
それで、呪文スクロールや魔法アイテムを売ってたのか?アイテムやゲーム内通貨は残るからな。
「そうだ、『転移魔法』の呪文スクロールがあったら譲ってくれないか?あと、主要ポイントの情報が記録された地図アイテムも。全ての街を歩いて回るのはどうにも手間がかかる」
「嫌だな。どちらも手に入れるのに苦労したんだ。ほしければ金貨50枚だ」
「俺達はゲーム内通貨を持たされてないからなあ…」
ちなみに、前の街での宿屋の食事は、ログアウトしていった剣士に払ってもらった。
「あとで運営が保障するはずだからさ。頼むよ?」
「よし、なら戦え!勝ったらやる!」
「いや、俺達、まともに戦えないし…」
と言いかけた時、カレンがリーダーに斬りつける。またかよ。
「さっさとスクロール寄越しなさいよ!」
「っ、くらえ!」
「くっ!」
突然、炎弾が飛んでくる。ただし、あまり大きくない。Lv.1補正だ。こういうのも補正っていうのかな?
「あれ、呪文を『詠唱』していない?お試しコースでは簡単なものでもふたつ、みっつの単語が必要だったわよ?」
「一定のレベルで取得できる『無詠唱』はアイテム化されるからな。威力はLv.1だが」
「じゃあ、あんたたちスクロールいらないじゃない!」
「後で売ることができるだろ?さすがに金貨50枚にはならんが」
むう、こいつらもしかして、ただ戦いたいだけか?現実世界では魔法なんて使えないからなあ。
「ユキヤ、ここにスクロールが落ちてるぞ」
「ん?ああ、これは戦略用だな。呪文がとてつもなく長いしアイテム化もできないから…マキノ、できそうか?」
「…ああ、やってみる。なんとか注意を逸らしてくれないか?」
「よし。カレン!マキノがお前の剣舞をもっと見たいってさ!」
「お任せ下さい、お姉様!」
「ユキヤ、君がモテない理由がよくわかったよ…」
カレンが再度斬りつける。相手のパーティは、弱いながらも炎弾や氷の矢を放ってくる。カレンはかろうじて避けているが、一度に何回も斬りつけるのは厳しそうだ。
「…光となりて、地を焦がせ」
「さすがプロ、速いな。カレン、後ろに下がれ!」
さっと下がった瞬間、
「メテオブラスト!」
マキノが発動キーワードを叫ぶと、光の雨が相手パーティに降り注ぐ。
あ、全員消えた。強制ログアウト判定食らったか?
「なあユキヤ。もしかして、僕達はHP、MP共に無限なんじゃないか?MPバーが全く減らないよ」
「らしいなあ。MMORPGの仕組みを適用せずにこのコースにログインすることはないから、運営も気づいてないかもしれないな」
「正真正銘のチートですね…」
ま、まあ、俺達正規ユーザじゃないし、今回限りの特別ということで。…運営に報告するかは後で考えよう。
「ねえ、転移魔法は?」
「あ」
その場でカレンに正座させられ、散々ダメ呼ばわりされた。俺のせいか?俺のせいか。
その後、ギルドの建物内に、最大レベル権限で発動する転移装置を発見した。どうやら、グランドクエスト用らしい。
MP無限の俺達は当然のように使えた。これで、ようやくカレンにうるさく言われずに済む。
「学園に戻ったら、お姉様とのラブソング追加ね」
「なぜ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます