第1話 剣士Lv.1
「◯ね!リア充パーティ!」
おお、検閲機能はちゃんと稼動しているみたいだな。アバター付属の機能だからかな?
いや、それは今はどうでも良くて。
「こんな村人達を捕まえて、それはないんじゃないかな。なあ、ユキヤ?」
「ふん。どうせこの機に乗じて、自分で装備を外して遊んでいるだけだろ?これだから、にわかなリア充共は」
うんまあ確かに、にわかだな、俺達。リア充かはともかく。
『冒険』世界に転移したら、ある街の中央広場に立っていた。辺境世界の街とは異なり、建物などがかなり充実した街並だ。これでも、この世界では小さい方なのだろう。なにせ『始まりの町』なのだから。
俺達は全員『村人A』的な服に代わっていた。旧来のキャラを登録しない場合のデフォルトの服装だ。『学園』世界にあった制服やら体操着やらはメニューから消えていた。他の服を着たかったら現地で調達しろ、ということだろう。ちなみに、アバターは本来の身体情報のものに戻っている。
立派な街並ではあるものの、『始まりの町』にはほとんど人影がなかった。AIすら見当たらない。リソース不足が影響しているようだ。
街を散策すること数十分、ようやくユーザをひとり見つけた。剣を素振りしていた剣士タイプだ。あの野球部員ユーザを思い出しつつも、俺が『話を聞きたいんだけど、いいか?』と声をかけたら、冒頭のように返された。
「にわかなのは間違いない。この世界に来たばかりだし」
「来たばかり?嘘つけ、冒険コースは終了時刻まで途中ログイン不可だぞ」
「運営に頼まれたんだよ、様子を見に行ってくれって。さっきまで『学園』世界にいた。今のこの世界と同じ時間加速だからな」
「学園世界?ああ、あのよくわからないオープンβのコースか。道理で、リア充の雰囲気バリバリだと思った」
「コースは関係ないと思うんだが…」
「うるさい、女3人はべらせてる時点でリア充なんだよ!特に、そこのイケメン!」
と、マキノを指差した。んー、この後の展開がなんとなく読めてきたような。
「どうせ時間はたっぷりあるんだ、今から俺の剣の相手をしろ!練習相手がいなくてつまらなかったんだ!」
どこからともなく出現させた剣を、マキノの方に投げた。その瞬間、
「お姉様に失礼よ!」
カレンが剣を取り、剣士に斬りつける。ああ、やっぱり。
「な、なんでお前が」
「お姉様はお姉様よ!男なんかと一緒にしないで!」
えっと、『なんか』呼ばわりされた男の俺は泣いていいのかな。まあいいか、カレンだし。
などと余計なことを考えている間も、カレンは『カンカンカンカン!』と、ものすごい勢いで剣士ユーザに斬りつける。
「ちょ、まっ、おいっ」
剣士ユーザはあっさりHPバーが0になった。ちなみに、カレンが斬りつけた時から、双方にHPバーが表示された。カレンには『Karen』というユーザ名も表示されている。アバター名からの流用か?
「ふん、だらしないわね」
「くそう、本来のレベルなら最大HPはもっとあるのに…!」
「本来のレベル?」
「なんだかよくわからないが、残っているユーザはみんなLv.1になってんだよ。経験値はそのままだがな」
そう来たかあ…。手っ取り早いリソース節約になるけどさ。
◇
ようやく話をしてくれるようになった剣士ユーザからいろいろ聞き出す。
「マンガ肉、やっぱり美味しいわね!」
「料理スキルが機能しませんけど、定食メニューだけでも充実していますね」
「ほう、酒があるのか。エールを試してみよう」
「ワインも美味しそうですよ、お姉様!」
「未成年でも飲んでいいんだっけか?」
宿屋の食堂でメシを食いながら。いやあ、1年近くもお決まりの寮食ばかりだったからなあ、盛り上がる盛り上がる。おっと、飲み食いばかりしていてはダメか。
「で、なんでログアウトしないんだ?もう2か月以上経ってるんだろ?」
「素振りだけでも経験値は増えるからな。壁や木に斬りつけてもいい」
「やっぱりレベルアップ目的か…いや、今はレベルと連動していないか」
残留ユーザのほとんどはこれだろうなあ。しかし、2か月以上も素振りとかって。
「トラブルとはいえ、せっかくの高密度加速だ。終了時刻まで経験値を積んでやるぜ!」
「2年もか?」
「…2年!?」
「学園世界と同じなら、1分で6日換算だ。60分で360日、120分でその倍だな」
「え…」
「…知らなかったのか?」
メニュー、いや、この世界では『ステータス画面』か、それを見せてもらったところ、時刻表示の部分が文字化けしていた。8,640倍加速のタイムサーバは『現実世界の年月日時』+『仮想世界の月日時分』で時刻を管理している。ステータス画面としてカスタマイズされた時、本来のタイムサーバに固定して作り込まれたのだろう。
「てっきり、1分で1日くらいかと思っていたんだが…」
「運営はその辺詳しくメッセージを流さなかったのか…。まだ10分ちょっとでバタバタしているせいか。しかし、その設定だったとしても4か月だぞ」
「それくらいなら、まあ、いっかなって」
「おいおい」
「4か月くらいなら現実でも部屋でゲームし続けていたことがあったからな!時々買い出しはしていたが」
自慢するようなことじゃないなあ。ガチ勢には珍しくないようだけど。
「しかしだとすると、一度ログアウトした方がいいか。このペースなら、本来のレベルで素振りした方がよほど経験値がたまる」
「他の残留ユーザもそう考えそうか?」
「かもしれん。教えてやりたいところだが、俺のフレンドは全員ログアウトしてしまった」
「俺達はフレンド登録すらしていないからな…。運営にメッセージを送って一斉通知してもらうか」
「あるいは、GMに通知してもらうか、だな」
「現実世界のペースだとすぐに1か月くらい経ってしまうからな。しかし、GMすらその辺把握していないのか…」
「あるいは、知っていて、周知しないのか」
「…どういうことだ?」
「現在のGMはそういう性格なんだよ。なにせあの『関根教授』だからな」
マジか!?フルダイブ技術の応用では権威と言われている、あの…。運営会社と時々共同研究しているとは聞いたが、MMORPGのGMとかやってたのか。相当の変わり者、という噂はある意味本当だったか。
「なんか、陰謀論じみてきたなあ。セコイけど」
「確かにな。仕切り直して、あらためて同一ユーザに対して冒険コースを実施すればいいだけだ」
「だからこそ、ではないのかな?被害が少なく叩かれない、しかし、予期しない8,640倍もの加速で、ユーザに関する実地データがとれる」
「マキノの推測が合っていれば、実験台にするためタイムサーバに細工、か。そこまでするか?」
「あるいは、偶然こうなったが、データをとるために放置、とか」
いずれにしても、GMに会うしかないようだ。
「GMがどこにいるかわかるか?」
「わからん。というか、どのアバターがGMなのかわからないようになっている」
「なるほど、あんたがGMだったのね。圧力値が高ければ強制ログアウトだっけ?」
「ちょ、その剣やるから、もう勘弁してくれ。俺はもうログアウトする。じゃあな」
そう言って、光の粒子に包まれて消えていく。
しかし、カレンはなんであの剣士を圧倒できたんだろ?俺達のアバターにはMMORPGの仕組みが適用されていないから、この世界における本来のユーザとの違いがよくわからんのだよな。
「あたし、剣道初段」
「おおう…」
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