第5話 イザナギ、イザナミ

「わたしの予知夢がはずれるなんて、何か複雑な気分だわ」


 ひかり姫は小舟にゆられながらつぶやいた。


「何をおしゃいますか。姫さま。命あってのものだねですよ」


 刃良と らは小舟をこぎながら答えた。


 モグラ男は自分の青い左目を海面にうつしながら、不思議そうに、何度も自分の姿をみていた。


 黒く短い髪、左目はひかり姫と同じ青色、右目は黒く、さすがにひかり姫と比べれば大きいが、がっしりした刃良と らにならぶと小柄で華奢きゃしゃな体だった。


 父親が遺してくれたボロの上衣と毛皮の腰巻こしまき姿は猟師りょうしのようだった。


月読ツクヨミ、左目は痛くない? 大丈夫?」


 ひかり姫は右目に布を巻いた顔で、月読ツクヨミを気づかった。


「うん、だいじょうぶだよ」


「そんなに海が不思議?」


「うん、きれいだし、ものがうつってたのしいね」


 モグラ男は水面に手をさしいれて、何度も海水をすくった。




 月読ツクヨミが時を止めたあと、ひかり姫は気の毒だと思ったが、火龍かりゅうで都の軍船を全て焼きはらった。


 それから、まじないで風をよんで、小さなをはって、ゆっくりと瀬戸内の海をすすんでいた。


 目指すは、讃岐さぬきの浜から、少し沖にいったところにあるイザナギ、イザナミ島である。


 その日本の神話の最初の夫婦の名をもったふたつの島は、寄り添うようにすぐ近くにある。

 

 イザナミ島には洞窟どうくつがあって、後の世には「鬼ヶ島おにがしま」とか「女木島めぎじま」と呼ばれることになる。桃太郎の民話の舞台となったという伝説を残す。


 イザナギ島は男木島おぎじまと呼ばれ、きれいな水仙すいせんの花が咲く島となる。


  ひとまず、このお話はここで終わる。


  ひかり姫たち、三人のその後の冒険の話はたくさんあるが、それはまたの機会きかいに。


  おしまい。







                        「モグラ男と、ひかり姫」 完



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モグラ男と、ひかり姫 坂崎文明 @s_f

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