第2話 ヒカリヒメ

 モグラ男は、ひかり姫に会った夜のことを思い出していました。


 そして、珍しく昼間に起きだして、地下のトンネルを通って、白い豪族の屋敷の方へ行きました。


 モグラ男が掘った地下トンネルは、山から村まで迷路のように入り組んでいました。


 いろんなところに行けるように、村のさまざまな場所の目立たない所に、隠された出口がいくつもありました。




 モグラ男は、幼いころ、両親と小さな山小屋に住んでいたのですが、ふたりが亡くなってからは、山の木の実やくだもののようなものを食べて暮らしていました。


 ある日、山の洞窟どうくつに入ってみたら、地下に迷路のように入り組んだ、ひろいひろいトンネルが広がっていました。


 生まれつき瞳孔どうこうがなく、日中は日の光の下にはでれない彼に取って、このトンネルの世界こそが、自由に行き来できる世界でした。


 時間はたっぷりあり、彼の両親が残してくれた鉄製のクワやカマがあったので、ゆっくりゆっくりとトンネルを掘り進みました。


 トンネルを掘り続けていくと、自分の世界が広がっていくようで、とてもたのしく感じました。


 

 

 モグラ男がトンネルの出口近くに行った時に、外から屋敷の下女げじょたちの声が聞こえて来ました。


「ひかり姫さまがいなくなったそうよ」


「ええ! また、どうして? 都の貴族の家にお嫁にいくはずだったでしょう?」


「それが、男に夜這よばいをかけられて、その男と駆け落ちしたというもっぱらの噂よ」


「そうなの! それは大変じゃない! それで、近頃、旦那だんなさまの機嫌が悪いのね」


「ひかり姫さまのお守り役の刃良と らは、血相をかえて、姫さまを探し回ってるらしいわ。都の貴族も兵をひきつれて、讃岐さぬきに来てるらしいし、たぶん、もうすぐ見つかるとは思うけど」


「それはかわいそうね。刃良と らは姫さまをあんなにかわいがっていたのに」


 

 

 モグラ男には話の半分しかわかりませんでしたが、「ひかり姫がいなくなった」という話を聞いて、ちょっとびっくりしました。

 

 他のトンネルの出口にも行きましたが、同じような話をする下女の会話や騒々そうぞうしい兵たちの足音あしおとがいくつも聞こえました。


 彼は仕方なく、山の方に戻ることにしました。


 夜になるのを待って、ひかり姫を探そうと思いました。


 彼が洞窟の出口近くについた時、外から淡い光が差し込んでいました。


 彼は思わず、手で光をさえぎって、おそるおそる光の方に近づいていきました。


「こんにちは。月読ツクヨミ


 そこには、かすかな光に包まれたひかり姫が、にっこりと微笑ほほえんでいました。

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