幕間劇1 お手並み拝見と行こうか
某月某日、『インティファーダつうしん』より
サン・ジョーン歴375年の折り返しとなる今月、本年度の下半期の激励として、当運動の首謀者であるマドレフ氏が登壇した。同氏は今年の上半期の総括として、多くの犠牲を出した3つの衝突を、渋い顔で振り返った。以下はその演説の抜粋である。
「今、我々は従来の拡大の勢いを失い、相当苦しい立場にある。だが、かつての(ショートフェート)国王陛下の心境は今の我々よりも、もっと苦しかった筈だ。多くの民衆によって裏切られ、国が二つに分かれたその悲しみを思えば、何故、我々が泣いていられるだろうか。」
「いずれにせよ、現職の教皇のジョーンを追い詰めること、そしてラブラドーラ政権を退陣させること。この二つの目標が、我々の熱い意志が共有されることで、いずれすべての民が我々のやっている事の正しさを理解し、支持してくれるだろう。共に頑張っていこうではないか。」
会場の人々に熱い訴えかけを行った。結果として多くの犠牲を払ったが、我々はこの正しさを「人々の為に」拡大していかなければならない。これからの我々の運動は、より輝かしいものになるだろう。(2面に続く) 記者:編集部一同
閉鎖的で圧迫感のある、暗い部屋の中で、男は会員限定の新聞を閉じた。男は青年にも、少年にさえも見える若い顔をしていたが、活力を持っていなかった。その眼は澄んではいたが、生気と言えるような温かいものは宿しておらず、むしろ雪解けの水のように、異常な冷気を放っているように見えた。開かれた眼は、閉ざされた新聞記事のスクラップファイルの背面の数字を追った。そして、腕を限界まで伸ばしながら、震える手で新しい数字の刻まれた、緑色のファイルを取り出した。
男には生気の他、もう一つないものがあった。
それは“両足”である。低い車椅子に縛られた彼は、ファイルを取り出すのに腕をギリギリまで伸ばさなければならなかった。ただ、健常者が考えているよりは、その困難な動作もむしろ相当素早く、難なく車椅子を動かした。
「マドレフ…こいつはもう、使えないか…?いや、それとも俺が直接…と、まだ早いか」
ぶつぶつと呟くが、部屋の外には聞こえていない。記事を眺めながら鋏でくり抜く。その手荒さは団体に尊敬を表すものとは違い、どうやら男はその限定の会員ではなく、その記事は回されてきたものらしかった。
「こいつの求心力は全体で見て低下している。いずれ俺が動き出すときは、ギリギリの活動範囲になりそうだな。さて、このまま沈むか、ひっくり返るか…
お手並み拝見と行こうか。」
男は壁に立てかけられた鋼の義足を睨んで呟いた。
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