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倉庫の地下にひそかに存在する指令室。
「おい、アリス出てこい」
無辺に広がるVR(ヴァーチャルリアリティ)の宇宙。有栖はコンソールを通して、仮想世界の住人を呼びつけた。
「おやおや、まだ同期の時間には早いんじゃない?」
現れたのはG&L(ゴシック&ロリータ)姿の美少女。
「ふざけるな、全部見ていただろう」
有栖の声は最初から怒気を帯びていた。
「君が僕に命令するなんて10年早いよ。僕は君の上位人格なんだから。君は僕の一部であって、僕のすべてじゃないし、僕は君に便利に使われる存在でもない。立場をわきまえてくれないと」
アリスはトレードマークのツインテールを揺らしながら、コケティッシュな笑みを浮かべた。
「うるさい、萌黄の現在地は?」
アリスの抗議をまったく意に介せず、有栖は質問を畳みかけた。
「北関東のけんぽく宇宙センター、ただし、地上波はあいつらによって巧みに遮断されている。つまり陸の孤島状態」
アリスは唇をゆがめて笑った。
「衛星回線は?」
いらだちを抑えて有栖は尋ねた。
「ん~、今のところ、まだ行ける。だいぶ不安定だけどね」
アリスは唇に人差し指を押し当てながら答えた。
「どうすればいい?」
有栖の問いかけには、切実さがこもっていた。
「ロシアの軍事衛星が上空を通過する。すでに上層部(インナーサークル)を通じて使用許諾は取り付けた。海底ケーブルを抜けてウラジオストク経由で行く」
アリスがそう告げたとたん、指令室の壁面スクリーン、巨大な世界地図、ネットワーク可視化マップに今アリスが言ったとおりのルートが点滅表示された。
「ずいぶん動きがいいな」
有栖は思わず感心した。
「ニダバ社が全世界に設置したハニースポット(囮サーバ)による情報収集やトラフィックの監視から、あいつらが宇宙ステーションを狙っている可能性がここ数日高まってきていたからね、今夜は特別に注視していた訳だよ」
アリスは余裕の笑み。
鏑木のみならず、より高次な意思決定機関にも萌黄は利用されていたというわけか。むしろ、現場の鏑木たちに対してなんの警告も発せられてなかったことに有栖は陰湿さを感じた。
とりあえず、中間地点で待機していたオロチを向かわせる。
「さあ、君も早く行ったほうがいいよ」
モニターの向こうでアリスはにっこりと笑った。
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