ⅳ
萌黄は、飛翔したまま一気に大型のパラボラアンテナを切りつける。
アルミニウムでできた「皿」はバキバキと薄いプラスチックのように破れ、思ったよりも脆かった。ソードを使うまでもなかったかもしれない。
2基目をソードを使わずに蹴り破った時、頭上から急降下してきた5機のカルラに囲まれた。
カルラは玄天や蒼天など第二世代の装機に標準装備されている自立型迎撃ミサイル、いや無人迎撃機と呼んでいい。
コバンザメのように親機体にパラサイトし、ソニックを超えるスピードで飛び交い、
萌黄の「眼」であるフルカラーの暗視型広角レンズに映るのは、ミッドナイトブルーのカルラ。玄天のものか。
レーダーは相変わらず玄天と蒼天が上空を旋回していることを示していた。
キィーッ、とプテラノドンを模したトサカ頭が不気味な叫び声をあげると、大きく裂けた
被弾を避けながら一度地面に着地し、そのまま跳躍すると、旋回しながら、ジルコニアの太刀で2機を叩き落とした。
巨体の分だけ強い遠心力。とにかく目が回る。内蔵された高性能のジャイロスコープによって何とか平衡感覚が保たれた。
着地して体勢を立て直しながら、樹はレーダーや赤外線センサーなどによる様々な索敵・追跡システムからあふれる情報をもう一度整理する。
カルラが当初5機、2機打ち落としたから残りは3機。
上空には玄天と蒼天。
いや、違う。
樹の勘がそう告げる。
頭上を回っているのは、十中八九デコイ(囮)。
おそらく煙幕のような特殊信号を纏って装機に成り済ましたカルラだ。
二機の装機は、おそらくステルスモードで……。
圧倒的に不利な状況ながら、勝機は多少残っている。そもそも武器が使用できないステルスモードでは戦闘に向かないはずだ。
樹はすべての計測結果を捨て去り、人体に近い組成であるという装機の原始的な五感で感知しようとした。
セラミックの皮膚で、人工内耳による聴覚で感じた。
CO2とO2を吸い込むわずかな呼気、かすかな駆動音。
やはりいる!
敵は背後と右斜め前方、思ったよりもずっと近い。
樹は左足を一歩前に出すと、右足で大きく地面を蹴りあげ、一気に飛び出した。
アーマーモードに切り替わる瞬間、水素が蓄積されている腹部を切り付ければ、一気に勝負がつく。
思った通り、ステルスモードが解除され、目の前にミッドナイトブルーの機体、玄天が現れた。装甲を纏い、玄天のファイバーレーザーのソードが励起しようというその時。
樹は、すばやくジルコニアのソードを反転させると、柄頭で水素タンクが内蔵されているはずの腹部に強烈な一撃を与えた。
玄天が峰打ちの衝撃でひるんだ隙に背後に回り、ソードを持ったまま右手を首に回した。
これで勝負は決まったはずだった。
だが、次の瞬間、樹は意識を喪失した。
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