ⅳ
結局、その日の訓練にはむくれっ面の汐音、無表情の乃衣絵を伴って、同じ都西市内の外れにあるサクラ重化学の倉庫へと向かうことになった。
乾いたディーゼル音の響く路線バス。
車窓には郊外の無機質な風景とほこりっぽい空気が流れていく。
聞くだけのことを聞いてしまった汐音は不機嫌そうに横を向いている。
チャームポイントの笑うと糸目になる切れ長の一重も、今はつり上がっていてこんな時はなんだかこわい。
有栖と別れてから、怒濤の質問攻めにあった樹はすっかり辟易していた。
一方、乃衣絵は静かに参考書を広げていた。そういえば乃衣絵も様子がおかしかった。樹の説明も心ここにあらずといった様子で半分も聞いていないようだった。
汐音の怒りも分からなくはない。消息不明の兄の凪人の身を案じているのに、それにつながるかもしれない情報を樹は伝えなかった。
伝えられない理由も十分あったのだが、汐音は納得しないだろう。
第一の理由は、知り得た秘密があまりに重すぎたから。
装機という名の時空を超えるアバター型戦闘ロボット。
あまりにSF的で、あり得ないものばかりだった。もう一つの宇宙があるとすれば、そこに消失した三万人の住人が生存しているのだろうか。
第二は汐音の兄である草間凪人をはじめとした消えた合宿参加者たちの影。
認知工学研究所と学園を運営するニダバ財団、そしてこれから向かうサクラ重化学。この三者にはなんらかのつながりがある。鏑木らは明かさないが、合宿参加者たちはあの装機の装着者として訓練を受けていた可能性がある。
そして、そこから導き出されるのは、装機=アバターを操りこの世界への浸食を繰り返すのは彼ら自身かもしれないという可能性。
第三は単純に二人を巻き込みたくなかったから。
樹は、ナビゲーターであった認知工学研究所の鏑木、そしてこれから向かうサクラ重化学の担当者である雲林院を百パーセント信用している訳ではなかった。いや、むしろ不信の念の方が強い。
突如として樹の日常生活に割り込んできた速水有栖の出現も限りなく怪しい。
だからこそ、真相に近づく必要があった。
寂れた工業団地を抜けると、いつの間にか乗客は三人だけとなり、最後のバス停で彼らは下車した。
休耕田に建てられた巨大な倉庫へと向かう。3人が汗ばみながら無言で歩く道中、背後から単車特有のマフラー音がした。
あっという間に追い抜かれたが、すらりとした黒のライダースーツの背中にいやな予感がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます