ⅲ
一方、残されたふたり。
樹が鏑木に連れられてサクラ重化学が極秘に開発した装機の実物と遭遇したのはつい二週間ほど前。博物館を訪問してから最初の休日だった。
町外れのサクラ重化学の休耕田の真ん中の巨大な倉庫にそれは格納されていた。
照明がゆっくりと入った。
目前には、直立不動の三体の装機が現れた。
「これが我々が最初に開発したアバター、
隣につきそう鏑木がそう説明した。
「
萌黄がスマートなフォルムでメイン武器は大太刀によく似たソード、桜が小ぶりな軽量タイプで長刀のようなスピアを操り、山吹ががっちりと重厚なフォルムで長弓状のアロウ使いなのが分かった。
「なるほど、萌黄は玄天、山吹は蒼天のアーキタイプですね。ということは玄天と蒼天もあなたたちが造った訳だ」
樹は反応を伺うように鏑木の顔をのぞき込んだ。
「ああ、だが悪意あるものたちに奪取された。我々は平行宇宙について研究していた。装機は異なる宇宙を行き来するための魂の器、すなわちアバターとして開発された。決してあのようなテロ行為に用いるためではない。装機は装着者を選ぶ。そして訓練にも時間がかかる。だが、君が失われた故郷に近づく唯一の手段でもある。こちらは試作機であちらは完成品、装着者は2年程度の養成期間が必要だが、我々にはそんな時間はない。それでも、君はあれを装着する勇気があるかい?」
その突飛も無い申し出に樹は息を呑んだ。
だが、答えは初めから決まっていた。
(君はその重荷に耐えられる人間だから、生き残ったんだ)
何故だか三者面談の際の原田裕太の言葉が思い起こされた。
その日から放課後と休日は装着に先駆けたシミュレーション訓練に費やされた。
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