有栖が博物館の門を出たところでディパックのなかからメールの着信音がした。これはお早いことで。


 「有栖、これはどういうつもりなの?」


 Nタブレットに表示されたのは、ビッグブラザーたるカンナからのラブレター。いや、君はビッグシスターかな。

 有栖はタッチペンを滑らせる。


 「どうって? 三木さんの書いたシナリオが糞だから補正してやっただけさ。感謝してくれたまえ」

 はい、送信。


 暗い部屋。

 暗い部屋。

 何も見えない。

 閉じ込められて、ただ泣くだけの子どもが二人。

 これは何の懲罰?

 僕たちは何をしたのか?

 怒りで爆発しそうになる。

 今でも。


 デザイナーベイビー?

 ポストヒューマン因子?

 ハイパーノヴァ計画?

 ばかばかしい。

 単なる兵士育成プログラムさ。


 逃げ切ったと思っていた。

 別の道があるなんて思いもしなかった。

 戦うこと。

 打ち壊すこと。

 大切なものを守ること。

 草間凪人、よくも僕を出し抜いてくれたね。

 それがオリジナルの強み?

 まあ、いいさ。

 次は君の先手を打ってやる。


  頭がずきずきと痛い。

 有栖は何かに追い立てられるかのように次第に早足となって、いつしか走り出した。

 やがて、よく目立つ紺青のブレザーは夜の街へと消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る