ⅵ
有栖が博物館の門を出たところでディパックのなかからメールの着信音がした。これはお早いことで。
「有栖、これはどういうつもりなの?」
Nタブレットに表示されたのは、ビッグブラザーたるカンナからのラブレター。いや、君はビッグシスターかな。
有栖はタッチペンを滑らせる。
「どうって? 三木さんの書いたシナリオが糞だから補正してやっただけさ。感謝してくれたまえ」
はい、送信。
暗い部屋。
暗い部屋。
何も見えない。
閉じ込められて、ただ泣くだけの子どもが二人。
これは何の懲罰?
僕たちは何をしたのか?
怒りで爆発しそうになる。
今でも。
デザイナーベイビー?
ポストヒューマン因子?
ハイパーノヴァ計画?
ばかばかしい。
単なる兵士育成プログラムさ。
逃げ切ったと思っていた。
別の道があるなんて思いもしなかった。
戦うこと。
打ち壊すこと。
大切なものを守ること。
草間凪人、よくも僕を出し抜いてくれたね。
それがオリジナルの強み?
まあ、いいさ。
次は君の先手を打ってやる。
頭がずきずきと痛い。
有栖は何かに追い立てられるかのように次第に早足となって、いつしか走り出した。
やがて、よく目立つ紺青のブレザーは夜の街へと消えていった。
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