翌日の昼休み、踏青亭のオープンテラスに樹、汐音、乃維絵の3人の姿があった。


 樹はいつものオムライス。

 汐音はまたまたミックスサンド。

 乃維絵は日替わりのエビフライ定食。

 女の子なのに結構がっつりしているのが好きなんだな。

 なんて感心している場合ではなかった。


 「あのさ、そもそもなんで君たちがここにいるの?」

 と、樹。ぷるぷるした黄色のオムライスにケーキ入刀セレモニーのように慎重にスプーンをいれている。


 「なぜって、作戦会議ですよ」

 ちびちびとサンドイッチをかじりながら、汐音が答えた。


 「そうです。ここをわたしたちの秘密基地にしましょう」

 乃維絵は優雅な手つきで一口大に切り取ったエビフライにたっぷりとタルタルソースをのせた。


 「秘密基地って、ただの学食のカフェテリアだぞ。全然秘密なんかじゃないし。だから、そもそもなんで俺たちが作戦会議なんてしなきゃならない訳?」


 「もちろん、昨日の星川さんのお話が衝撃的だったからです。話を聞く限り、発電プラントの爆発とは考えにくいですよね。空に吸い込まれた三万人の人たち。本当だとしたらどこへ消えてしまったんでしょう」


 「大人が嘘をつくのなら、僕たちが真相を突き止めなきゃなりません。ねっ、ホッシー」


 「お前なれなれしいんだよ。だいたいホッシーなんて呼ぶな」


 「あら、いいとおもいますけど。ホッシー先輩」


 いま、語尾にハートがついていたよね、なんて都合良く解釈しながら、樹はNタブレットを取り出した。乃衣絵はピースサインをしてくれた。


 「ずるいですよ、乃衣絵さんだけ。今日は結団式ですから、みんなで撮りましょうよ」


 カシャリ。

 結局、Nタブレットの画面にはフロントカメラがとらえた3人の顔が並んだ。

 風がそよぐ度にゆれる緑陰がモネの描く点描画のような効果を与えた。

 きらきらした木漏れ日のなかの世界はあまりに日常的過ぎて、その時彼らが後戻りできない道を歩き始めたことに誰も気づかなかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る