第7話

 たまにしかない土曜日のお休みをですね、本日はカリスマOL怜ちゃんとドライブ中です。

 と、言いますのもね、ちょっとした危機感からやっぱりその、怜ちゃん言うところのセレクト?的な問題が私のファッションセンスに散見されるっちゅう話でね、そんなに言うなら怜ちゃんが選んでみてよっていう話になって、冗談じゃないこの暑いのに仕事でもない上にバーゲンでもないのに休日に出かけたくないなんて、カリスマOLにあるまじき引きこもりっぷりを披露して驚いちゃったんだけど、というのも年中引きこもっているように見えるこの私の外見からは想像できまいが、夏といったらフェスなのだ!もうね、これ水着で頭から水かぶりながらライブを楽しむというね、暑い暑いってもしょうがないからここは一つ、太陽さんと仲良くなるしかないじゃない!という夏に対する熱い思いを怜ちゃんに語ったとて、このクールビューティーなカリスマOLさんは「じゃ、車だして?」という私の夏に対する思いなんか全然聞いてなかったような冷房の中座ったまま移動をご要望ですよ。

 「怜ちゃん!私の意見を聞いて無かったでしょ?」

 「聞いてるから余計暑くなって外出たくなくなるわけだけど?」

 「なんと、私の営業トークが裏目に出るとは!」

 「ほらほらぶつぶつ言ってないで!出発出発!あんたの服を買いに行くんでしょう?」

そうでした。付き合っていただいているのでした。

 その辺の駅ビル内のお店とかでいいのではと思っていたのに、車で郊外のショッピングモールまでお出かけすることになってしまった。

 まあいいか。運転好きだしな。と思いながら助手席を見ると、怜ちゃん寝てるよ!

 「ちょ!怜ちゃん!まだ10分もたってないのに寝るとか!」

 「え?ああ、樹里亜は運転上手だからねー。私がつきあったどの男よりも上手よ」

とぴかぴか光る笑顔で言われる。

 「口説かれても困る」

 「口説いちゃいないよ、失礼な。あーあそれにしても眠い。ちょっとだけ寝るわ。ちょっとだけ!」

 「ちょっとだけとか嘘ばっかり!絶対ガン寝する!怜ちゃんなら絶対そうする!」

 「えー……ていうか……限界……」

そう言うと、怜ちゃんはまたしても意識消失されました。次車買うときはS13とか買って魔改造してドリフトしまくってやる!別の意味で意識を奪ってやるぜ!

 おりゃおりゃー!と無駄に自分をあおりながら、ヴィッツで街を駆け抜ける。もしくはこのFFでドリフトする技術を身に着けるかだな。



 「いいねー!やっぱり郊外は広いし空気いいしー!」

 「そりゃ怜ちゃん、結局到着するまで寝てたしね」

 「やる気でてきたよー!あんたの服は任せなさい!」

やる気がみなぎって、ミニスカートの腰に手を当てて高らかに笑う怜ちゃんを横目で見る。

 「怜ちゃん、言っとくけど私、Tシャツと短パンしか着ないからね」

 「……え?」

 「だってTシャツ短パンが悪いんじゃなくて、セレクトが悪いって怜ちゃん言ってたじゃん。そのセレクトというものを怜ちゃんが見せてよ」

そうしてばっちりと、怜ちゃんのその黒く縁どられた目を見る。するとその暗き淵からギラリと光りが走り「望むところよ」とぷるっとしたピンクの唇がにやりと言った。

 それでこの広いショッピングモールでどんだけ着せ替え人形になるんだろうといささか恐れおののいていたらば、なんと一店舗しか行かないんだよこの人は。だったら駅前でいいじゃん。しかも、秒殺!お店入って二秒で決めるくらいの勢い。車で1時間半はかかったんですけどね。

 「はい、じゃあ試着してきて!」

 「ええ!怜ちゃん、ちゃんと選んだ?」

 「選んだに決まってるじゃない。さ、お行きなさい」そう言って怜ちゃんは厳かに試着室を指さす。

導かれるままにふらふらと試着室に入れば、『とばっちり』と書かれたTシャツがリアルに私の心情を表現している。言いたいことを言ってくれるTシャツって素晴らしいね。

 着替えること30秒、怜ちゃんが試着室の外から催促する。何なのあの人、鬼なの?気が短すぎない?

 「樹里亜ー。まだー?」

 「ちょっと怜ちゃん!まだに決まってるでしょ!ドーラだってもう少し待つよ!」

 「はあ?また意味わからないこと言ってないで、早く着替えてよ」

怜ちゃんが話しかけてきたからではないか!わかったよ、わかりましたよ、ぱっぱと着替えるよ!

とりあえず鏡で、後ろ前の間違いがないかだけ最終確認。前側に何か書いてあればどっちが前かすぐ分かるのにな。

 「樹里亜ー?」

 「はいはい、今出ますです」

 ドアを開けて外に出れば、怜ちゃんが不敵に笑った。勝ったという字が顔に書いてある。

 「怜ちゃん、あのさ」

 「いいね、いいよよく似合ってる。それで決定ね」

 「でもあのさ、短パンって確かに言ったけど、これ短すぎない?」

 「何言ってるのよ、あんたの中学生みたいに色気のかけらもない小さなおしりと棒みたいな足は、すっきり出したほうが、え?この子華奢じゃね?みたいな印象になるのよ。それに伴って貧祖すぎる上半身はゆったりとしたカットソーで体のラインはあえて出さない。これがセレクトというやつよ」

 「すごくお似合いですよ!」

 なぜか隣り合ってる店員は、どっちかというと怜ちゃんを褒めている。しかも上半身貧祖とはっきり言われたよ!

 「んー、そのきのこ頭も気になるよね。どうしたらいいかなあ」

 「それでしたら、こちらはいかがですか?」

ふわふわした店員、略して綿菓子が小さな花がくっついてるピンを怜ちゃんに差し出す。

 「おお!これはいいかも!」

怜ちゃんは私の前髪をひっつかんで横にぱちりと止める。

 「うん!よし、これできのこババアではなくなった!最後は靴ね、お姉さん、あの靴持ってきて!」

 「はい!ただいま!」

果たして怜ちゃん言うところのセレクトされたTシャツ短パンスタイルが完成した。

 「かーわーいーいー!」

綿菓子が手をたたいて喜ぶ。あんたさっき私が入店した時、空気みたいに扱ってたじゃんか。

 「怜ちゃん、これで私はきのこババアと言われなくなるかな」

 「大丈夫!私が保証する。というかきのこババアって言った女子高生ってもしかして比呂君の彼女?」

 「え……いやまあ、そんな感じかな……」

 「隣に対してそんなこと言うなんて、いくら美少女でも比呂君はまだまだ見る目無いね」

 「あはは……」

私ははっきり言って口は堅いが嘘が下手である。怪しまれない様にしようとすればするほど挙動不信になる……すなわち、もう怜ちゃん突っ込まないで!と視線をうろうろさせると

 「あんたもしかして、やっぱり比呂君が好きなの?」

と嫌に真剣な面持ちで声を落とす。

 「それは無いけど」 

 「無いけど何よ」

 「えーっと、そのね、比呂がバンドのメンバーに合わせてくれるっていうからさ」

 「はああ?なんで、比呂君がバンドのメンバー紹介とかって意味が分からないんだけど?」

 「えーっとえーっと、比呂の友達がバンドやってて、それでそのバンドが私の好きなバンドで」

怜ちゃんの顔に怒りマークが浮かぶ。むしろ私のTシャツよりわかりやすい。

 「あんたね、バンドなんかやってる男はダメだとあれほど言ったのに!」

 「いやいや別に紹介してもらうわけじゃないんだから」

 「そんな話だったら洋服選ぶんじゃなかった!これでもしあんたが目をつけられたら私は後悔してもしきれない!」

 「いやあのね、怜ちゃん、いくら私が中学生並みの体形だとしてももう25歳だしさ」

 「そういう油断が心に隙をつくるの!わかった。あのさ、あんたとりあえず比呂君の彼女って事にしておいてもらおう。その方が安全だわ」

 「えええ!いやそれちょっと」

 「いいから!あんたは見た目とても25歳には見えないから。ランチ食べたらあんたんちに戻って比呂君にお願いしに行くわ」

 「え?怜ちゃんが比呂に?」

 「そうよ、あんたはあてにならないからね。じゃまずはランチランチ!」

そう言って怜ちゃんは支払いをする財布をまだ閉じてもいない私の手をぐいぐい引っ張って、狩りに行くがごとくランチに向かう。怜ちゃんお店逃げないから!いや、重要な事はそこじゃない!

 私の彼氏のふりをしてほしいと、今現在進行形で彼氏である比呂にそれを頼むとか、なんか問題があるような気がするんだけど……。

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