救え！人助け研究所

任務H 辻蹴り

「任務Hだからってスケベな話になるだろうと思っているそこのお前！残念だったな、今回も平常運転だ！」

「誰に話しかけてるんです？」

　ここは、以下略。駄菓子屋奥の居間で、右頬に「10」と書き、髪を後手に一つ縛りにして、胸をさらしで覆い、袴を穿いて木刀を構える冴子が、警察官のコスプレをして同じく木刀を構えるマスターと睨み合っていた。

「辻斬りは成れの果てまで辻斬り。そうでしょう、冴子君？」

「御託はいい。もう殺してやるからさっさと掛かって来い、マスター！！」

「かとちゅぁーーーーー！」

「みちゅりゅりゃーーーーーー！！」

背後でリズム良く木刀を打ちつけ合って仲良く歌を歌う二人を気に留めず、所長は、マスターから渡されたコマッター情報の書かれた広告チラシを眺めていた。

「すれ違い様に足を引っ掛けて転倒させる…気の合う顔見知り同士でなら冗談で済まされる話だが、赤の他人に無差別に仕掛けるというのは問題極まりないね。」

「実際～転倒させられた～老婆が～骨折する事態に～♪」

「警察は～一体～何をしているやら～♪」

「隙あり！」

「隙なし！！」

歌の合間に奇襲を挟みながら、二人のデュエットは当分終わりそうになかった。緊急を要する案件に、所長は、適役を思いついて、すぐに会員に出動要請をするのであった。

　根田ヶ寝栄町には近頃一つの噂が広まっている。それは「転倒骸骨」と呼ばれ、地方都市伝説の一つになりかけていた。その詳細であるが、夕暮れ時に黒コートに骸骨面の大男とすれ違うと、転倒して体の骨を折るというもの。この噂には実例があり、身なりの合致する大男にすれ違い様に足を掛けられて転倒させられたという報告が後を絶たない。警察にも相談が寄せられており、ひと時町内の巡回を強化したりしたが、犯人検挙には及ばなかった。警察が手を拱いている間にも、転倒によって実際に骨折してしまった被害者も出てきており、広まった噂に住民たちは恐怖を感じている。そんな妖かしの跋扈する町に、一人の少年がやってきた。

　街灯の明かりが唯一の道標となる夜の道。柔道着に下駄姿の華奢な少年が、カツンカツンと足音を鳴らして闇の中を歩いていく。街灯の明かりが途切れたところで、向こう側から大きな黒い影がやってきた。暗闇に目を凝らして観察すると、黒コートを身に纏い、骸骨の面をつけた身長2m程の大男だと分かった。少年は異様な出で立ちの男に警戒心を強め、相手を注視しながら歩を進める。骸骨面は、一度少年を見ると、肩を小刻みに揺らして再び正面を見た。どことなく少年を嘲笑っているような仕草であった。挑発とも取れる骸骨面の挙動に流されることなく、少年は視線を向け続ける。一歩、また一歩。暗い夜道を歩く二人の距離が縮んでいく。程なくして、二人の体がすれ違う瞬間が訪れた。

「ふふわはははは！！！」

骸骨面は不気味な笑い声を上げると同時に、横一列になったところで少年の足元に自分の足を伸ばして足掛けを試みる。相手の足に引っ掛かり、少年は前のめりに倒れこむ。と、転倒しかけながら、もう一方の足を寄せて少年は骸骨面の伸ばした足を両足で挟み彼を捕らえた。

「はは…は！？」

思いもしない挙動に骸骨面の愉悦が口元から途切れる。気付いた時には既に少年の掌の上。少年は、転倒の勢いを利用して地に両手を着き、骸骨面の足を掴んだ両足をそのまま天に伸ばした。

「ぬほっ！！？」

勢いも相まっていたものの、少年の予想外の怪力に、逆に足を取られて、骸骨面は体勢を崩して地面に転倒した。頭を打ったようで、骸骨面はその場で気を失った。骸骨面が行動不能になったことを確認し、少年は彼の足を解放して倒立状態を解除。

　その後、スマホで警察に通報したことで、骸骨面はめでたくもお縄につくのであった。

「足掛けをカウンターで返す…返力君を行かせるとはさすが所長。」

「柔で以って剛を握す…かっこいいですね。」

「彼もある意味、剛の気質を持っているんだけどね。」

駄菓子屋の前で3人は柔道着を身につけて、あぐらを掻いて精神統一をしていた。道行く人々にチラチラ見られて、ちょっぴり恥ずかしいのだ。

「恥ずかしいだと！？鍛錬が足りないぞ！」

「そうですよ！私服OKの就職試験に行って、自分以外がスーツを綺麗に着こなしてきた、あの四面楚歌な背水の陣に比べれば…！！」

「見られるは一時の恥じ！見られぬは一生の恥！！」

カエルの合唱に負けないほどの大声で、三人は己を磨く茨の道を歩むのであった。

　日々の鍛錬は肉体だけでなく精神の向上にも作用する。人間、いや、生きとし生けるもの全てにとって、鍛えるという行為は、人生を豊かにし、日々を健康的に過ごすことのできる魔法の儀式なのだ。

☆そろそろ次回予告じゃないって気付かれたかもしれない何か☆

ぴち子は首領

首領は偉い

よって、ぴち子は偉い

次回、救え！人助け研究所　　任務Σ　引き裂かれた絆

よって、ナレーターも偉い

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