外法F 悪魔の幹部面接会

 ここは、田園風景に囲まれた個人経営の回転寿司店…ではなく、六九町の運動公園内にある芝生の上である。近くの小学校から借りてきた机と椅子を横一列に並べ、左からピ・ティーコ、千佳、アルテミケルパーの順に席に着いている。アルテミケルパーの右の空き部分には「はた迷惑追求所 幹部面接会場」と書かれた案内板が立て掛けてある。彼女達の向かい側には、面接を受けに来た幹部候補生がいるらしく、設置された舞台の両脇に広がるカーテンが時折揺れていた。頬杖をつきながら手元に用意された履歴書などの資料に目を通し、ピ・ティーコは横目でアルテミケルパーを睨む。

「おいアルテミゾンババヌポ。他の幹部がいない以上、幹部の任命権は首領である私にあるはずゾンババヌポが…?」

「戯けぇ!!その任命権を持て余して、中々新幹部を揃えられずにいる無能は、どこのどいつだ!?」

「へぇへぇゾンババヌポ…私が悪ぅ~ござんしたゾンババヌポぉ~。」

ピ・ティーコは口を尖らせて手をひらひらさせて、アルテミケルパーのお小言をこれ以上貰わないようにテキトーに切り上げた。ピ・ティーコを黙らせたことでアルテミケルパーは自尊心を満たせたように鼻息を噴いた。二人の間で戸惑う千佳は、手を挙げてアルテミケルパーに現状の説明を求める。

「あの、私からも一ついいですか?お二人が幹部面接をやるのは、ご自身らの所属組織ですし、自由にやられるといいとは思いますが…。何で私まで参加する空気になってるんですか…?」

困惑する千佳の手を強く握り、アルテミケルパーは目を輝かせて顔を近付けた。

「お嬢さん!テレビのバラエティー番組はご覧になられるか?」

「えっ?あっ、まぁ多少は…。」

「ならば分かるはずだ。ゲストでもレギュラーでも…最低一人は華となる美女を置くのが常というものだろう。旬なモデルや女優、人気女子アナとかな!」

「あっ、はは…。そういう…。」

「面接はバラエティー番組じゃねーゾンババヌポが…。」

「何か言ったか、首領?」

「べっつにぃゾンババヌポ~?」

「…後で寝ている間に、触手に粘液責めされるアダルト体感VRを装着させてやる!」

「てめえで楽しめゾンババヌポ!!」

千佳を挟んで互いに睨み合い、火花を散らせるピ・ティーコとアルテミケルパー。千佳は額を抑え、向かい側のステージを指差す。

「お二人とも、いがみ合うのは後にして、面接を始めましょうよ…。時間、無くなっちゃいますよ?」

「むっ、それもそうだな。定時になって私が帰ってしまっては、ロクでもない奴が幹部に選ばれ兼ねん。」

「お前こそロクでもない幹部もどきゾンババヌポ。」

「ぴち子さん、煽っちゃ駄目です!」

「う~いゾンババヌポ。」

「それじゃあ早速、受験番号1111、入って来い!」

アルテミケルパーがステージに向かって声をかけると、カーテンの裏から一人の男が出てきた。シーラカンスの着ぐるみを着た魚眼の男は、一定間隔毎に、両手で持った洗面器の中の水に顔を付けては離すという動作をしていた。

「っぷはぁぁぁーーーー!!うおおおおーーーーー!!うおおおおーーーー!!」

「威勢がいいゾンババヌポな。お前、名前はゾンババヌポ?」

「っぷはぁぁぁぁぁーーーー!!自分は、誇大魚こだいぎょっす!海や川、湖といった水辺の…うぐうう!!?」

自己紹介の途中で息苦しそうに顔を歪める誇大魚。すぐに顔を洗面器に浸し、元気を取り戻した。

「っぷはぁぁぁぁーーーーー!!水辺の悪事のエキスパートっす!幹部昇格、よろ…うぐぐぐ!!…っぷはぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」

「あの、もしかして、えら呼吸なんですか?」

「いいえ!自分、人間っすから!陸上とか庭みたいなm…うぐぐぐっ!!?…ッぷはぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!」

「もういい、帰れ!!」

「うおおおおーーーーーーー!!!合格の程、宜しくお願いするっす!!!」

確かな手応えを感じたのか、ルンルンと少女のように体を揺らし、誇大魚は帰っていった。ピ・ティーコとアルテミケルパーは、手元の誇大魚の資料をビリビリと破り捨てた。

「あいつ、絶対えら呼吸ゾンババヌポ。」

「何より、話す度に洗面器の水をぶち撒けられては敵わんからな。」

「そこを除けば、快活で良さそうな人でしたよね。」

「よし、次!2222番!」

アルテミケルパーが登場を促すと、皮ジャケットにジーンズ姿の青年がゆっくりと入ってきた。鋭い目つきに整った顔つき…アイドル事務所に所属していてもおかしくないイケメン君が登場した。千佳は口元を押さえて思わず歓声を上げる。

「やばい!!私好み!!」

「千佳は面食いゾンババヌポねぇ。では、名前と特技を教えろゾンババヌポ。」

「インゴラーキッドぉ。特技はぁ淫語連発して、聞いた奴を濡らせる?的な。」

「ほぅ、面白い。ならば、その御自慢の淫語で、私たち3人をぐっちょり濡れ濡れにしてみろ!!」

「後悔すんなよぉ?」

インゴラーキッドは爪先立ちになって目を閉じ、何かを抱きしめるように胸の前で腕を交差させた。すぅっと息を吸い込むと、大きく目を見開いて、激しく頭を前後に揺らした。

「ぅああああああああーーーーーー!!!!おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーーー!!!!」

「!!」

「こっ、これは…!?」

「ぅぅうおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい!!!!!!!!!」

おっぱいを連呼しながら、もうこれ首吹っ飛ぶんじゃね?ぐらいの勢いで首を1280度回転させるインゴラーキッド。頭部から飛び散る数多の水滴は、決して母乳でもえっちなあれでもないので御安心を。

「おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいいいいいいいいいいいい!!!」

「おいお前ゾンババヌポ。」

「おっ?」

ピ・ティーコに話しかけられて一瞬にして頭の動きを止めるインゴラーキッド。ピ・ティーコは無表情のまま、彼を指差した。

「お前、おっぱいしか知らないだろゾンババヌポ。」

「ぼに゛ゅう゛!!??」

鼻血を噴出し、吐血しながらその場に倒れこむインゴラーキッド。控えていたスタッフに担架で運ばれ、彼の面接は終了した。

「しばらくはおっぱいという言葉を聞きたくないゾンババヌポね。」

「残念イケメンだったかー…。」

「はい、次ぃ!!3333番!!」

「ようやく私の出番ですわね!!」

次に現れたのは、ウサ耳をつけたパンツ一丁のゴリマッチョ男を二人従えた女性。バラのブローチを胸につけた赤いトゲトゲドレスを着た淑女が、扇子で口元を隠して優雅に参上した。

「えー、では名前と特技をゾンババn」

「待て!!」

「ケルパーさん?」

アルテミケルパーは席を立って机を飛び越え、女性が従える左手のマッチョに近付く。マッチョは登場時から変わらぬ笑顔をアルテミケルパーに向けていた。

「ケルパー、ON!!!」

握り拳を作って両腕をゆっくりと回し、胸の前で手首を交差させるアルテミケルパー。胸の中心から黒い靄が湧き出し、彼女を包み込んでいくと、すぐにマントと肩当のついた甲冑姿に変貌した。

「わぁ!あれがこの前言ってた、精神エネルギーの!!」

「久々に見たゾンババヌポなぁ。」

突然の変身に驚く女性と二人のマッチョたちを余所に、アルテミケルパーは盾を握る右手に力を込め始める。そして…

「アルテミ・キャノン!!!」

溜め込んだ全ての力を解放するように、渾身の盾打撃を目の前のゴリマッチョに放った。

「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!!」

攻撃を受けたゴリマッチョは、衝撃に耐えられず、地平線の彼方へと吹き飛んでいった。

「…。」

「え…あの…え…?」

「ふぅ。」

アルテミケルパーは変身を解除し、ハンケチで額の汗を拭うと、席に戻って水を一杯飲んだ。

「首領、続けろ。」

「あっ、はいゾンババヌポ。では改めて、名前と特技をゾンババヌポ。」

何事もなかったかのように面接を再開する二人に、他の3人は納得できない様子だったものの、話が進まないので流れに乗ることにした。

「えっと、わっ、私はバニーローズですわ!類稀なる美貌と財力、権力を武器に、各界の大物たちを奈落の底へと落として差し上げてますの!」

「なるほど、そいつは頼もしいな。それで、そこのオプションは何だ?」

「あっ、はい!この子は私の優秀な付き人で、馬頭めずといいます。」

「ひひぃぃぃん!!」

「あの、それで、先程吹き飛ばされてしまった子が…」

「もういい、帰れ!」

「はっ、はい!失礼致しました!」

アルテミケルパーの圧力に押され、バニーローズと馬頭は、縮こまりながら退散した。

「何で、もう一人の付き人さんをやっつけちゃったんですか?」

「パンツの色が、私の今日のショーツと同じだった!実に不愉快だ!」

「ええ…。」

「そいじゃあ次…って次で最後ゾンババヌポか!最後ぐらいは合格にさせたいゾンババヌポな。」

「受験番号4444、入れ。」

「失礼しま~す。」

最後に入ってきた面接受験者は、小学校低学年ぐらいの可愛らしい男の子だった。真っ白なTシャツに黄色の半ズボンを穿き、キラキラ輝く瞳をくりくり動かしている。

「可愛い!!」

「はい、不合格ゾンババヌポ!」

「え~、何でですか?」

「あれはまだ摘み取るには早すぎる。しっかり熟してからの方が組織にとって有益となるからだ。」

「そういうことゾンババヌポ。」

「でも17姫…姫ちゃんは現役JSだったけど幹部でしたよね?」

「…そういうこともあるのだ。」

「そうゾンババヌポ。」

「いい加減ですね…。」


 それから余った時間に、控えスタッフや面接不合格者たちも交えてドロケイで遊び、夕時になったので、会場の後片付けが行なわれた。片付けの途中で、アルテミケルパーの足元からピピピピと時計のアラームが鳴る。

「むっ、定時になったな。私はこれで失礼する!首領にお嬢さん、またな!!」

「アルテミ、おま!?後片付け手伝っていけゾンババヌポ!!」

「運古珍ちんぶらブラァーーーーーーー!!!」

アルテミケルパーは前回同様、千佳に一枚の紙を渡し、不気味な雄叫びを上げて大跳躍。近くに停めていた108輪車に乗り込み、ペダルをこれでもかと漕いで帰っていった。

「くそぉ、後で不幸の手紙をたんまり送りつけてやるゾンババヌポ!!」

「ぴち子さん、やること小さいです…。」

 結局、はた迷惑追求所の幹部は増えることなく面接を終えたが、組織にはまだ期待の候補生たちが、働き蜂のように五万と存在する。闇の中心が安定を取り戻すのも、時間の問題なのだ。

「ところで千佳、あいつに渡された紙は何ゾンババヌポ?」

「えっと…敷地利用料、小道具や舞台道具、机と椅子などの貸出料、全ての費用をナレーターさんに請求する、という旨の領収書…ですね。」

あんにゃろう…。




☆次回予告☆

現代人がやりがちな、歩き○○。視界を縛っての歩行は危険を伴うものだが、それによって周囲に迷惑をかけることもある。そんな歩き○○の特殊事例が発生し、コマッターの悲痛な叫びを聞き取った人助け研究所の本部に座する3人が、現地へと解決のプロを派遣する。


次回、救え!人助け研究所  任務G 危険なながら  を待てっ!!

☆ーーーー☆



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