密書7 壱が百とは限らない

 日々の溜まった疲れを癒してくれる、人知れず営業を続ける老舗の銭湯「釜茹で」。その地下には日々、人々の笑顔と尊厳を守る自称義賊組「頑張励」のメンバーが顔を揃え、困った人たちを救うために情報を共有し合って任務の割り当てをしていた。今日もまた、巨大釜に茹でられながら、4人の精鋭たちが会議を始める。

 護衛門が隈取を付け直していると、一人遅れてやってきた佑助が身軽な動きで巨大釜に参上し、ゆっくりと湯船に浸かった。メイク直しを中断し、護衛門がメイク道具をモッサリ頭にしまうと、それに倣って凸三やハムスター小娘も各々の使用道具の手入れを中断した。

「うっし、佑助も揃ったことだし、情報交換を始めっかぁ!」

護衛門がパァンと両手を一度打つと、ハムスター小娘と凸三が同時に手を挙げた。二人は互いに顔を見合わせる。

「凸さん、何かあるなら先にどうぞ。」

「おっ、そうかい?そんならお言葉に甘えて俺から…。」

ハムスター小娘が手を下ろして引き下がる。凸三はマゲの隙間から一枚の折り畳んだ紙を取り出し、護衛門に手渡す。護衛門が紙を広げると、中には「あ」と書かれていた。

「なんでぃこりゃあ?」

一通り観察してから、護衛門はハムスター小娘に手渡す。ハムスター小娘も紙の両面をじっくり眺めて首を傾げ、佑助に渡す。紙を受け取った佑助は、天狗面の鼻に紙を近づけると、頷きながら、凸三に返却した。

「佑助、何か分かったのかぃ?」

「薬物取引の…半券…。」

「さすがに鼻がいいな、佑助。そいつはコインロッカーに残っていたもんだが、俺の前に利用していた奴が、注射器とそいつをうっかり忘れていったもんだから、取りに来たところを取っちめて、取引のことを洗いざらい吐かせたってわけよ!」

凸三は、半券をしまって代わりに磨き上げた五円玉を右目に当て、穴から覗き込みながら3人の顔を見回した。

「そんなわけで、大捕り物になるわけだが…」

「危険を伴う大掛かりな任務になるだろうなぁ。よし、オイラが一緒に行くぜぃ凸ぅ!!」

「旦那、よろしく頼むぜ!」

護衛門は、木札を二枚取り、一枚を凸三に渡して、自分の分をモッサリ頭にしまった。

「モンさん、凸さん…二人とも、気をつけてね!」

「おう!この護衛門様ぁ~、そう簡単にくたばりはぁ~あっ!しねえぜぇ~!!」

「旦那がいれば百人力よぉ!ハムちゃん、心配はいらねえぜ!」

「ふふ、それもそうね!」

「よぉし!行くぜ、凸ぅ!」

「ちょっ!?旦那、俺は梯子上って行くって!!」

護衛門は二人に手を挙げて挨拶をすると、嫌がる凸三を担ぎ上げ、底板を蹴って巨大釜を出ていった。残された二人は、引き続き任務を決める話し合いに戻る。

「二人とも無事に帰ってきてくれるといいね。」

「頑丈さが取り柄だ…心配なし…。それよりも…ハムスター小娘殿…そちらの情報を…。」

「ああ、そういえば忘れてた…。えっと、これなんだけどね。」

ハムスター小娘が頭巾から一枚の写真を取り出す。そこに写っていたのは、スーパーの野菜売り場で鬼の形相をして何か怒声を上げている様子の老婆が一人。

「この御老人は…?」

「SNSで偶々見つけたんだけど、このおばあさん、何でもかんでも『一を見て全とする』って決めつけちゃうことで有名らしいの。」

「木を見て森を見ず…か…。」

「ええ。それに反感を覚えた人間が、ネット上に画像や動画を上げて、笑いものにして…なんていう事態になっているほどに騒がれているわ。」

「現代の私刑は…度が過ぎて…おそろしや…。」

「そうよね。そのうち過激な人物が実際に接触を試みて、おばあさんに命の危険が迫るって可能性も大きいし、接触した人がおばあさんに危害を加えたことで警察に捕まっちゃうっていうのも悲しいことよ。」

「うむ…。」

佑助は、壁から木札を取り、頭巾から煙玉を取り出した。それを見て察したハムスター小娘は、佑助の顔を見て頷いた。

「今まで色々とやり方を考えてみたんだけど、どれもしっくり来なくて…。佑助さん、宜しくお願いね!」

「応…。」

佑助は、煙玉を握り潰すと、白煙に混じって任務へと向かった。


 とある商店街の家電量販店前。一人の老婆が、店の前に置かれた新型テレビを立ち見していた。画面に流れている時代劇に夢中になっていたのだ。食い入るように画面を見続ける老婆。ふと、画面が切り替わったところで、物静かな様子から一転、山姥のようなおぞましい顔になって、舌打ちをしながらテレビの頭を叩いた。

「なんだい、あの棒読み演技は!大根役者なんて使うんじゃないよ!あーあ、こいつは駄作だね、駄作!こんなクソみたいな映像を流してるこいつも、こいつを売ってるこの店も、質の悪いゴミだよゴミ!!」

老婆は店の入り口に唾を吐きつけ、家電店から去っていった。

 老婆が次に立ち止まったのは、新鮮な野菜を売る八百屋さん。店頭には、キャベツやキュウリやにんじんにかぼちゃ、色々な野菜が並べられていた。野菜のほかにも瑞々しいリンゴやみかんといった果物も置いてある。

「ほぅ、こりゃあ中々…。」

キャベツの値段を見て、他のスーパーよりも安いことに驚き、老婆は感嘆の声を上げる。一玉持ち上げ、じっくりと観察すると、今度は菩薩のような笑みを漏らし、商店街を歩く人に聞かせるように大声を上げた。

「ここんちの野菜は新鮮で安いよ!買わないと損だねぇ!クソみたいな品物を高く売っている余所さんで買うくらいなら、ここで買ったほうが万倍いいよぉ!!」

老婆は上機嫌に、キャベツを一玉購入し、体を揺らしながら道を進んでいった。

 その後も、行く先々で、一つ物を見ては「全てが良」「全てが悪」を決め付け、自分の主張を言い聞かせるように大声を張った。当然、店員や客の中には、老婆の言動を善しとしないものが多数おり、分かりやすい侮蔑と敵意の眼差しを向けていたが、老婆は気付いていないように我が道を行っていた。

 そんな老婆の態度に堪え切れなくなった男が、老婆がやってくる道の先に隠れ、彼女が通りかかるのを待つ。手には酒屋からくすねたであろう空の酒瓶が握られている。警戒心を一切出さず、老婆は横に広がる店々に目を向けながらゆっくりと男が隠れる場所に近付いていく。一歩、また一歩…。そして、遂に老婆が間近に迫ったところで、男は勢い良く彼女の前に飛び出し、握り締めた酒瓶を振り上げ…。

「なっ、何だいあんたは!?」

「うるせえ!クソババア、往生し…」

男は、酒瓶を振り下ろす直前、白目を向いて意識を失った。奇妙な格好で固まる男に、老婆は首を傾げる。と、男は白目のまま、酒瓶をゆっくり地面に置き、腕を組んで老婆に話しかけた。

「よう、婆さん。すまねえな、ちっと酒に酔って記憶が飛んでたみてえだ。」

「はあ?若いくせに昼間っから酒を飲んでんのかい!?いい御身分だねえ!!親の顔が見てみたいよ!!」

驚いた表情をすぐに捨て、老婆は怒り猛る不動明王のような恐ろしい顔を作り、男を叱咤する。男は老婆の言葉を半分程聞くと、途中で説教を遮り、反撃を開始した。

「はいはい、婆さんの言いたいことは良く分かる!でも、親の顔が見てみたいって言うのはこっちの台詞でもあるんだな~。」

「どういう意味だい!?」

「婆さんみたいに、一本の枯れ木を見ただけで山の木全てを枯れ木と判断する考え、そしてそれを周囲に押し付けようとする厚かましさ、若者の昼酒とどっこいどっこいな所業だと思うけど?」

「はぁ!?そんなわけないだろうが!お前さんは馬鹿か!アタシの目に狂いはないんだよ!一つでもクソが混じってんなら、そいつは全てクソ!それが自然の摂理ってやつだよ!!」

男の言葉に納得しない老婆は思いつく限りの罵声を男に浴びせる。男は呆れたような仕草で、老婆の毒舌を止めるように顔の前で手を広げた。

「落ち着けよ、婆さん!…分かった。婆さんの言うことはもっともだ!一つ悪い部分があれば、その全てはクソ確定!」

「そうだよ!それでいいんだよ!」

「つまり、人に散々暴言や罵声を浴びせる婆さんもまた、クソってことだよな?」

「なに!?誰がクソだって!!」

「だってそうだろ?クソだのゴミだの…人を蔑む言葉を平気で使う人間が周囲から悪く見られるのは当然だろ?」

「そっ、それは…。」

老婆は先程までの勢いを失い、俯いて縮こまってしまう。それに構わず、男は続ける。

「つまり、婆さんはクソ。そんで、婆さんの家族…両親も、兄弟も、旦那も、子供も、孫も…みんなみんなクソってことだな!」

「違う…。」

「違わないだろ?それが婆さんの掲げる物事の判断方法なんだろう?」

「…違…違うんだよ!」

老婆は肩を落として、その場に座り込む。男は優しく老婆の肩を叩き、笑って見せた。

「…分かっただろ?あんたが今までやってきた判断方法が、如何に視野が狭く、如何に愚かであるか。」

「…ううっ。」

老婆が静かに頷くのを確認し、男は自分の体のあちこちを探ってスマホを取り出し、画面を操作して、老婆に見せた。画面を目にした老婆は、言葉を完全に失う。画面に映っていたのは、老婆がスーパーで一連の迷惑行為を働いている姿を捉えた動画だった。タイトルには、「妖怪決めつけBBA」と書かれていた。

「最近じゃ、こういう動画から住所や身元を特定されるケースが少なくない。婆さん自身に災厄が降り注ぐだけでなく、婆さんの家族や友人達にまで被害が広がる場合だってある。身の振り方ってのを、改めて考えたほうがいいんじゃねえのかな?」

「…そう、だね…。」

男は老婆が立ち上がるのを手伝い、トボトボと家へ帰っていく老婆の背中を見送った。

 老婆の姿が見えなくなったところで、男の影からゆっくりと佑助の体が出てくる。全身が外に出てきたところで、男は意識を取り戻し、黒目を再び宿して辺りを見回した。

「あれ?ここは…?あっ!あのババア!!そういやあどこいったんだ!?」

「人生…棒に振るな…。」

「ひっ!?」

背後にいた佑助に、不意に肩を掴まれ、男は体を跳ねて、ゆっくりと振り返る。視界に入った天狗面の男に、恐怖を感じ、身震いする。

「あ…ああ…。」

「二度と…馬鹿な考えは…起こすな…。」

「しゅ、しゅびばしぇえええええええええええん!!!!!!!!!」

男は泣きべそを掻きながら、一目散に逃げていった。

「うむ…。」

佑助は逃げ去る男の姿が見えなくなると、天狗面の鼻を掻いて、自分もその場を去るのだった。


 数日後、釜茹でに戻ってきた佑助は、番頭に木札と入場料を渡し、報酬を受け取った。番頭はノートPCを見ながら、彼に笑顔を見せる。

「動画、一斉に削除されたみたいだな。佑助君が削除依頼を出したのかい?」

「ハムスター小娘殿に…依頼…。」

「二重ちゃんか。そういえば、情報を持ってきたのも彼女らしいな。」

「応…。」

「それで、当の婆さんの方はどうなった?」

「しばし…外出を控え…家族と親密に…。」

「そいつぁなによりだな!」

佑助はアタッシュケースを担ぎ、店の奥へと向かう。思い出したように番頭は、彼の背中に声をかけた。

「そういやあ今回使ったっていう、影に入り込んで人を操る術。あらぁ、一体どういう仕組みで…」

「忍ぶは術も同じ…それが忍術…。」

「ははは、こいつぁ愚問だった!悪いね!」

番頭に深く一礼して、佑助はみんなのもとへと向かっていった。

 一を見て全を知ることは到底できない。一つ一つに目を通し、傾向と例外を見つけ、正しい判断を下すことが大切なのである。




☆デイモン・ヨゥディのトゥリービャ☆

やあ、雷のせいで日課になっているネットサーフィンができないと悶々として身悶えちゃう、ネットが友達なみんな!

トゥーリッホァ!!

アシカショーでアシカさんが手叩きすると、それにつられて口をパクパクさせちゃう硬骨魚類、デイモンだよっ!

クロスワードとかなぞなぞとか…頭を使う場面って、日本の総人口並に多いよね!デイモンもよく777x777のラッキー7魔法陣の解を摸索しているんだけど、5秒ぐらいにらめっこすると脳がもう無理っす状態に陥って意識が飛んじゃうよ!

そんな時はやっぱり甘いものが一番!辛味は二番!

今日は、自宅で簡単に作れちゃう、グッホうめえスイーツを教えて、あ・げ・るっ!うふっ!

材料は、食パン、BANANA、色んな味のアイスクリーム!

察しがイイ君は、もう気付いたかな?

そう!パンにアイスとBANANAを挟むだけ!簡単でしょ?

パンのふわふわ食感とBANANAのNANGOKU甘さ、色々な味のアイスちゃんの旨味が溶け合い、混ざって、えっちで…

ぐれええええええええええええええとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

牛乳と砂糖、卵を使ってパンをフレンチトーストにしてBANANAとアイスをトッピングしても粋な人妻・味な妻、だぞ!お好みで蜂蜜をぶっかけドピュドピュして、かみかみごっくんしても、多分おいひかっはれす!!

さあ、君も疲れた頭に、フレッシュスイート!!えっ、それぞれ別々に食ったほうが健康的にも味覚的にもいいって?うーん、そうだね、デザートは別腹っていうしね!綺麗な腹には肉がある!パンはパンで、BANANAはバナナで、アイスはアイス同士で…「ここは俺に任せて先に行け!」の境地だね!WAO!燃えるぜ!


次回も、日常でちょっぴり役に立つかもしれない豆情報をお届け!

それではみなさん…

トゥーリッホァ!

☆ーーーーーーーーーーーーーーーー☆



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る