密書3 蘇る大怪盗

 地元民でも滅多に足を運ぶことのない、無名の公衆浴場たる銭湯「釜茹で」。その地下に存在する秘密の混浴風呂の巨大釜の中で、今日も今日とて、人目を憚り世に平穏と安寧をもたらす、自称義賊組「頑張励」の4人が、集めた情報を共有し合い、任務の振り分けをしていた。

 その日、護衛門はいつもとはどこか違った様子で、真剣な顔をしていた。彼の名誉のために言っておくが、いつもアホ面を下げて情報交換会に臨んでいるわけではない。ただ、いつも以上に緊張の糸を張り巡らせ、周囲に重い空気を漂わせた。彼がここまで神経を尖らせるのには、訳があった。きっかけは、佑助が持ってきた一つの情報。有名な美術館に送られたという犯行予告の話だった。

「怪盗、在留政濡あるせいぬ…。モンさん、知ってるの?」

「知ってるも何も…うちの親父が取り逃がした唯一の男。今もなお、義賊を自負して金持ちから金品を盗む裏社会では有名な盗人でぃ。」

護衛門は歯軋りをしながら、握った拳を湯に叩きつけた。音を立てて水しぶきが飛び、護衛門の頭を湿らせる。

「あいつぁ、親父を偽者の正義だと鼻で笑い飛ばし、世闇に溶け込んで消えていった。あいつぁ、親父の信念を踏みにじりやがったんだ!許せねぇ!」

「モンさん…。」

「それだけじゃねえ!変わりつつある時代に合わせ、義賊もその在り方を変えるべきなんでぃ!法の整備が進み、人々の善悪の意識も昔と比べて変化した。違法に金を稼ぐ悪党からその金をぶんどって貧しい人々に分け与えても、彼らはかえってその事実が明るみに出ることを怯えちまう。加えて罪悪感を抱え込んで、笑顔の日々なんて過ごせるわけがねぇんだ!それをあいつにガツンと言ってやりてぇ!!」

在留政濡に対する思いを熱く語る護衛門。3人は、互いに顔を合わせて頷き、再び護衛門を見た。

「旦那、行ってきな!お頭の時のリベンジだ、気を引き締めてな!」

「凸!」

「護衛門…油断するな…。」

「佑助!」

「モンさん…。」

「ハムちゃん…。」

ハムスター小娘は、頬被りから巻物を取り出し、護衛門に握らせる。

「これは?」

「もし打つ手がなくなったとき、それを開いて。きっと手助けになると思うから!」

「…ありがとな、ハムちゃん!」

受け取った巻物をモッサリ頭にしまい、護衛門は木札を持って、底板を蹴り、釜を飛び出て任務に向かった。


 悪眼あくがん町にある県内最大級の美術館「シュ=ツ・サーヌ悪眼」。大理石で出来た白い外観が印象的な、美の巨匠達の生み子集う物静かな建物である。海外からの出展も数多くあるが、展示されたもののほとんどは、国内の有名画家や彫刻家が手掛けた逸品の数々で成り立っている。館内には県外から訪れる芸術の道を志す若者や嗜好者たちが集い、目の前に現れる見事な技巧に釘付けになっている。そんな芸術の祭典たる美の館に、一通の予告状が届いた。

 差出人の名前は、怪盗 在留政濡。世界中で盗みを働いては貧しい人々にお金をばら撒く、自称義賊の泥棒である。善人であろうが悪人であろうが関係なく、金持ちや名品をターゲットとして予告状を送りつけ、立ちはだかる警察やセキュリティーを出し抜き、予告通りのものを持ち去る。先代頑張励の長だった護衛門の父である番頭は、人々の噂を耳にして、これまで幾度となく彼の予告のあった現場に向かい、盗品奪還に臨んだが、相手の方が一枚上手。番頭が彼を懲らしめることはできなかった。時は流れ、息子である護衛門の代で再び日本に現れた在留政濡。護衛門はこの任務を宿命と感じ、いつも以上に気を引き締めた。

 山伏の格好でアドバルーンの上に座する護衛門。双眼鏡を使い、上空から美術館全体を監視していた。父から聞いた話で、これまでの在留政濡の逃走手段を熟知していた護衛門は、飛行対策として空に陣取り、客や警察、美術館関係者に変装して脱出する可能性も考慮して、館から外に出て行く人物一人一人をじっくりと観察していた。

「おっ、あいつぁ臭うなぁ…。」

双眼鏡を覗いていた護衛門は、美術館から出てきた出っ張り腹のスーツを着た男に目をつける。男は手に持ったハンカチで汗を拭いながら、もう一方の手で腹を持ち上げるように押さえていた。しばらく観察を続けていると、男は足早に駐車場を抜け、林道へと向かおうとしていた。

「間違いねぇな!」

護衛門は歌舞きながら地上に飛び降り、飛び六方で男に近付き、グッと肩を掴んだ。突然のことに、男は体をビクッと跳ねて、護衛門の方を振り返る。

「やいやいやい!てめえの正体は分かってんでぃ!観念してお縄につけぇい!怪盗在留政濡!!」

「なっ、何のことですか!?あなた誰です!?」

「うるせぇ!とぼけても無駄だぜぃ!」

護衛門は男の頬を掴み、勢いよく引っ張った。するとどうしたことか、男の頬は伸びていき…。

「いだだだだだだ!!!なっ、何するんですか!!?」

「おり?変装じゃねえ…?」

護衛門は頬から手を離し、今度は男の腹を擦る。贅肉を掴んで引っ張り突っついて…どうやら本物のようだ。

「ひゃめ!これからトイレ向かうところなんですから、刺激しないで下さい!んもう!」

男がプリプリして指差した先には、公衆トイレが設置されていた。護衛門は乾いた笑い声を漏らしながら、気まずそうに頭を掻く。

「あっはは…。どうやら人違ぇだったみてえだ…。すまねえな。」

「プンプン!!」

男は護衛門の手を跳ね除け、頭から蒸気を発しながら、トイレへと足を進めた。が、すぐにもう一度肩を掴まれる。男が再び何事かと振り返ると、鬼の形相の護衛門が先程よりも力強く、男を捕らえていた。

「まっ、まだ何かあるの?」

「ああ…てめえがボロを出してくれたおかげで大有りでぃ!!」

「なっ!?」

護衛門は腰に携えたほら貝を握り締め、プンプン湯気が出ていた頭部を思いっきり殴りつけた。すると、穴が広がったように、頭部から大量の煙が立ち込め、周囲を包み込んだ。男の体は萎んでいき、中から盗まれたものであろう絵画が数点顔を現した。

「良くぞ見破ったね、厚化粧君!!」

煙が晴れ、声の聞こえたトイレの方を見る護衛門。トイレの屋根には黒のシルクハットに黒マント、タキシードを着たちょびヒゲのおっさんが、先端に大きな水晶のついたステッキを持って立っていた。噂の怪盗、在留政濡がそこにいた。護衛門は、絵画を回収して男を見上げる。

「漫画じゃあるめえし、怒って頭から湯気をポッポさせる奴なんざいねぇぜ!煙漏れは入念にチェックしておくべきだったな!それから、トイレなら外でしなくても、館内の各コーナーの境目と出入り口にいくつか設けてあるんでぃ!!」

「私としたことが、ただの変人と思って甘く見ていたようだ。」

在留政濡は拍手をしながら地に飛び降り、ステッキの先端を護衛門に向ける。

「それはさておき、その絵画は予告通り持ち帰らなければならない。世界各地で貧困に苦しむ憐れな民のためにも。」

「てやんでぃ!貧しい人を救いたいってぇんなら、てめぇ自身でまともに働いて得た金を堂々と持っていってくれてやりゃいいんでぃ!」

「だからこうして義賊業を…」

「物を盗んで配る義賊の時代は終わったんでぃ!これからの義賊は、人々の悲しみや苦しみを盗み、笑顔と幸福を取り戻す…そういう存在であるべきなんでぃ!!」

「はて、その言葉、どこかで…。」

顎に手を添えて考える素振りをする在留政濡。護衛門は絵画を背中に縛り付けて、ほら貝を在留政濡に向けて突き出した。

「オイラは、人々の笑顔と安寧を守る華の義賊組、頑張励の護衛門様でぃ!!」

「頑張励…随分昔にそう名乗ったエセ義賊が居たが、君もその仲間か。」

「エセ言うな!その男こそ…オイラたちこそ、真の義賊!!誰かを不幸にして人々を救っているなんざ口にする、てめぇの方こそ紛れもなくエセ義賊!!観念してお縄にぃ、あっ、つけぇえい!!!」

ほら貝を持ったまま歌舞き、在留政濡に向かって走り出す。ほら貝を振り、在留政濡がそれをステッキで防ぐ。ほら貝を弾いた在留政濡がステッキを回して水晶と反対の方で護衛門の体に突きを繰り出すと、護衛門は上体を逸らし、バック転で攻撃を交わした。後退する護衛門を見ながら在留政濡は懐から3枚のトランプを取り出し、護衛門に向かって投げつける。正位に戻った護衛門は、ほら貝を口につけ、思い切り吹き鳴らす。発生した音波によってカードは勢いを失い、地面に落ちた。と、カードの後ろを走ってきていた在留政濡が杖を振り上げ、護衛門に攻撃を仕掛けようと迫る。護衛門はすかさず、自分のもみ上げを引く。モッサリ頭が割れ、中からビックリ箱のようにスプリングのついたボクシンググローブ装着の握り拳の模型が飛び出し、在留政濡のボディに一撃を加え、後方に吹き飛ばした。吹き飛び中に地に手を着いて、体を一回転させ、在留政濡は華麗に着地。小さく笑いながら、仕込みを元に戻す護衛門を見た。

「ふふふ、中々やるじゃないか。無能な警察相手では少々退屈だったから、久々に心躍るよ。でも、早いところ絵画を持ち帰りたいんでね。この辺でお暇させてもらうよ。」

「へん!そうは問屋が卸さねぇ!!てめぇの欲しがっていた絵画はここに…おりょ!?」

護衛門が背中を向けて在留政濡に所望の品を見せようとすると、そこにあるはずのものがないことに気付いた。足元には縛っておいた布の紐が無残にも切り落とされていた。驚いた表情で護衛門が在留政濡を見ると、マントから取り出すように絵画を見せ付ける。それと共に、ステッキの水晶が付いていない方も見せる。先端にはカッターのような小さな刃が見えた。

「まさか、オイラの攻撃を受けたあの一瞬で…!?」

「攻撃の性質上、君は頭を下に向けて屈む必要があったから見えなかっただろうがね。私の目的は初めから君にダメージを与えることではなかったから、糸を切って手で奪い取ってマントのポケットに忍ばせる…この一連の動作も簡単にこなせたよ。」

在留政濡は再び絵画をマントにしまうと、屈んで両足の靴の側面を押す。すると、地に面した靴の裏から勢いよく蒸気が噴出し、在留政濡の体は宙に浮いた。

「くそっ!!逃がすか!!」

護衛門は勢いをつけて在留政濡に飛びつこうとするが、彼はあっという間に上空高く、護衛門の手の届かぬ場所に上ってしまった。

「ははは!!楽しかったぞ、エセ義賊君!!また君に会える日が来るといいね!」

「くそぉ!!後一歩なのに…後一歩だってぇのに!!」

天高く上り、護衛門を嘲るように笑みを見せる在留政濡。護衛門は地を拳で叩きながら、恨めしそうに在留政濡を見つめることしか出来なかった。

「ふふふ、悔しがることはないよ。君は偽者の義賊なんだから。本物の私に敵うはずがない。」

「くそっ!くそっ!ここまでなのか…!!」


『もし打つ手がなくなったとき、それを開いて。きっと手助けになると思うから!』


「はっ!!」

ふと脳裏によぎった少女の言葉。護衛門はモッサリ頭に手を突っ込み、中から一つの巻物を取り出した。任務に向かう前、ハムスター小娘から渡されたものだった。

「ハムちゃん、オイラに力を貸してくれぃ!!」

外側に書かれていた指示通り、護衛門は紐を解き、巻物を開いて内側を在留政濡に向けた。

「ん?何だいそれは?降参しますという証かな?はははははは!!」

護衛門の悪あがきに再び笑い出す在留政濡。しかし、次の瞬間、彼の表情から晴れ間が消える。

「はは…は…ぁ…?」

「こっ、これは!?」

護衛門もまた、目の前の光景に驚きを隠せない。開いた巻物から墨で描かれた巨大なカエルが飛び出してきたのだ。カエルが接する足元には、ゆっくりと墨が体から垂れ落ちてきて、地面を黒く染め上げている。

「なっ、なんだこの化け蛙は!?」

「…っと、オイラも驚いている場合じゃねぇな!ハムちゃん、ありがとよ!!」

護衛門は自分の頬を両手で強く打ち、気合を入れ直して、巨大カエルの背中を駆け上り、頭の上に乗った。すると、それに反応してか、カエルは、墨絵の蛇となっている舌を伸ばし、在留政濡の片足を捕らえる。湿った感触で我に返った在留政濡は、払い除けようと必死に足を振る。

「うぬう!!離せ!!離さんか!!この!!この!!」

「在留政濡!!ここまでだぜぃ!!」

「!!」

在留政濡が足に気を取られている隙に、蛇の体を走り登ってきた護衛門は、在留政濡の目の前に来ると、頭に思いっきり握ったほら貝を叩きつけた。細長いシルクハットを叩き潰し、在留政濡の脳天に重い一撃が炸裂する。

「ぐおおおおおおおおおおお!!!」

攻撃の勢いそのままに、在留政濡は地面に落下。

「カエル!!」

護衛門がカエルに呼びかけると、カエルは在留政濡が地面に激突する直前で足に絡めた蛇舌に力を入れ、彼の命を救った。

 その後、中身が真っ白になった巻物を巻き直すと、巨大カエルはただの墨となり、地面を黒一色に染めた。護衛門は、気絶した在留政濡の衣服を脱がせてパンツ一枚にし、その中身も確認して、警察の手から脱走できないように隠し細工を処分した。美術館から騒がしい声が聞こえてきたところで、在留政濡を亀甲縛りにして更に近くの木に縛り付け、側に仕掛けを除いたマントと服装を畳んで置き、その傍らに絵画を立てかけて、護衛門はその場を去っていった。


 銭湯釜茹で入り口の受付、護衛門が戻ってくると、番頭は嬉しそうに彼に抱擁した。

「モン坊、よくやってくれた!!さっきラジオで速報が出てたよ!さすがは俺の息子だ!」

「よせよ親父!今回はオイラ一人の力じゃどうにもならなかったんだし。」

二重ふたえちゃん…ハムスター小娘の助力だろ?」

「なっ!?何でそれを?」

「隠居の身とはいえ、俺の千里眼もまだ衰えてねえってことさ!」

ご機嫌に護衛門の背中をバンバンと叩き、護衛門から木の札を預かる番頭。護衛門は一本取られたように頭を掻いて、スタッフルームへと消えていった。

 人の心を救い、笑顔を、平和な日常を取り戻す。義賊というものは、我々の身近に人知れず存在し、影ながら世に生きる人々の安寧を守ってくれているのかもしれない。




☆デイモン・ヨゥディのトゥリービャ☆

やあ、様々な事情を抱えて異世界から現代に転生したみんな!

トゥーリッホァ!!

異世界入りしたら、真っ先にサキュバスの巣に突入して干乾びるまで脇汗を搾り取られたい、デイモンだよ!!デトックスデトックスゥ!!

最近モッサリと暑い日がトゥドゥくねー!デイモンのママ、暑過ぎて縮れ毛になっちゃって大変そうだよ!

暑くなると食べたくなるのが…カレー?ぶぶぅー!蜂の子?ぶぶぶぅー!近所のおねーさんの洗い立て下着?おまわりさーん!こっちこっち!!

正解は…カキ氷!食事処とかだと掻きたてシャリシャリを頂けるけど、コンビにでも何種類かアイスコーナーに置いてあるよね!

今日は、そんな甘くて冷たくて頭痛てーなコンビニに売られているカキ氷の美味しい食べ方を教えるよ!イエイ!

まず、コンビニで好きな味のかき氷を買ってこようね!お好みは、真っ赤なイチゴシロップ?純白透明なホワイトシロップ?和の甘味をとことん極めた抹茶味?それとも小豆味?

どれを選んでも問題ナッシン!!買ってきたら冷蔵庫をオープァン!!

立てかけるところに牛さんの絵柄のパックが見えるかい?それを手に取るのじゃ勇者殿!!

そう、牛乳ちゃんだ!!カキ氷に牛乳ちゃんを注ぎ込むことで、「ホニャララミルク」状態になり、より至高の甘味を引き出せるのです!!

ここで注意!カキ氷自体の甘味が十分にあるので、糖分とか気になるダイエッターくんちゃんは、成分無調整のニューニューちゃんを選ぶように!!

氷をほじくり返して、ニューニューちゃんをトクトク注ぎ、白いスープと合わせてお口に運べば…


ン!グッデリシャス!!


広がる旨味が舌の上を駆け回り、雪の日に愛しのあの子とかまくらの中で肩を寄せ合っていた、あの瞬間の心温まるささやかな幸福感を思い出させてくれるぞ!

え?冷涼を求めているのに、温まっちゃったら本末転倒だって?

HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!!

人生は七転び八起き!!転んでしまったら、また起き上がればいい!!転倒と立ち上がりを繰り返して人間は強く、大きくなっていくんだよ!んー!デイモン、また一つ、歴史に残る名言を残しちゃったな!AHA☆


次回も、日常でちょっぴり役に立つかもしれない豆情報をお届け!

それではみなさん…

トゥーリッホァ!

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