任務9 それも一つの可能性

 ここは、あのやろう町のごく普通の民家。二階に自分の部屋を所有する三郎は、日課のオンラインゲームを嗜みながら、大きくあくびをした。トントンとリズムよく階段を上がってくる足音。三郎は不機嫌な表情をドアに向けると、音の主がドアを開き、顔を覗かせた。三郎の母である。

「サブ、あんた暇でしょ?だったらお使い行ってきて。お母さん、お客さんに出す料理作りで忙しいから。頼んだよ。」

三郎の返事を聞かずに一方的に要件を告げて、お金の入った財布をドアの前に置くと、母は部屋を出て階段を下っていった。三郎は、溜息を吐いてゲームを止め、床に置かれた財布を手に取り、部屋を出て行った。


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 三郎は、財布を片手に何度も、宙に投げては掴んで、を繰り返しながら、スーパーへの道を歩いていた。道の途中、三郎は不穏な気配を肌で感じ、財布をズボンのポケットにしまって、バック転をしながら大きく後退した。すると、三郎が動いた後を追うように地面に銃弾の跡がつき、三郎が再び姿勢を戻したところで銃撃も止んだ。

「何者だ?こそこそ隠れてないで、姿を見せろ!」

「ふふふ、さすがだな、三郎。」

三郎が、声の聞こえた方に目を向けると、電柱のてっぺんからゆっくりと浮遊して降りてくる少女の姿が確認できた。麗しく艶のある長い髪、バランスの取れたパーフェクトボディ。我らがアイドル、安達 冴子である。冴子は地に足をつけると、脇に抱えたガトリングガンをリロードしながら、不敵な笑みを浮かべた。

「三郎、貴様がオンラインゲームで他のプレイヤーを狩って、レアアイテムを片っ端から強奪していることは分かっているんだ。大人しく、善良なオンゲーマーたちの笑顔のために、永遠に眠ってくれ!」

「出たな、運営に飼い慣らされた愚かな牧羊犬め。プレイヤーキルはゲームのルール上問題のない行為。的外れな自分ルールを押し付けて、命まで狙うような偽善者などに殺されてたまるか!」

弾を装填し終えた冴子は、銃口を三郎に向ける。三郎は自分の人差し指の爪を噛み切り、つまむようにそれを持つと、彼の意思に応えるように、爪は姿形、大きさを変え、光り輝く青い槍へと変貌した。片手で槍を振り回し、切っ先を冴子に向けて構える。冴子は嬉々とした表情で、ガトリングを抱える腕に力を込めた。

「その力、貴様、地球を守護するスターガーディアンの末裔だな!」

「ご名答。親父もおふくろも、正義の心を胸に地球を救うためにこの力を使えと口煩く説教垂れるが、力の使い方は所有者である俺が決める。正義だの平和だの、クソ喰らえだ!俺は、俺の邪魔をする目の前の障害を排除するために使うと決めた。今この瞬間では、女、貴様を滅するためにな!」

「くくく、私欲を守るために強大な力を振るうその傲慢さ、気に入ったぞ!貴様は私の求めていた理想的な巨悪だ!正義の鉄槌を受けて、その魂を神々に還すが良い!」

冴子は大きく目を見開くと、勢いよくガトリングを発射し、奇声を上げた。ガトリングの弾道を一つ一つ読み、紙一重で交わしながら、三郎は槍をバネにして、天高く飛び上がった。陽の光と重なったことで、視線を追わせた冴子は、眩しさに目が眩み、構えるガトリングの重量もあって一瞬の隙を見せる。その刹那を三郎は見逃さなかった。勢いよく冴子に向けて槍を突き出し、ガトリング本体を貫通させて着地。槍を引き抜き、大きく後ろに跳んで距離をあけると、冴子のガトリングから火薬の匂いが溢れ出し、その場で大爆発を引き起こした。爆発の衝撃で吹き飛ばされ、街路樹に体を叩き付けた冴子は、地にうずくまり、体を小刻みに震わせた。三郎は、彼女の間合いのギリギリ外まで近付くと、矛先を彼女に向けて笑みをこぼした。

「意外とあっけなかったな、運営の犬。今回は見逃してやるから、帰ってから運営に伝えろ。アカウントを停止されても、ゲームから強制退去させられても、俺は痛くも痒くもない、ってね。」

勝ち誇った様子で槍を下ろし、三郎は踵を返してスーパーの方向に体を向けた。すると、うずくまった状態で体を震わせていた冴子はゆっくりと立ち上がり、不気味に笑い声を漏らした。冴子の復活に気付いた三郎は、彼女の方を振り返ると、顔を歪ませて言葉を失った。起き上がった彼女の皮膚は、赤く燃え滾る炎のように染まり、口は耳まで裂け、黒く充血した目は、悦に浸るように三郎を睨んでいた。

「その姿…お前、まさか…!?」

「そうだ。私は、地球を貪り喰らう闇の落とし子、アルマゲドーン。貴様の祖先に封印された闇の眷属十二将の一人だ。」

冴子は町中に轟く雄叫びを上げると、体を急速に膨張させて、巨大な一つ目の黒い球体に変化した。球体冴子は、怪しく三郎に微笑むと、勢いよく上空に飛び去って行った。三郎は悔しそうに地面を殴り、絶望の表情を浮かべたまま体を震わせた。

「くそっ!もっと早くに気付いていれば…!もっと早くに奴に止めを刺していれば…!」

「もう遅い!」

冴子の笑い声が地球全体にこだまする。宇宙空間に達した冴子は、目を怪しく光らせて、チャージを開始した。

「愚かな護り人の末裔よ。母なる大地にその身を抱かれながら、己の無力さに絶望するがいい!!」

「ちきしょおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーー!!!」

暗雲立ち込める天空に向かって叫ぶ三郎の声も虚しく、チャージを終えた冴子は、瞳から紫色の怪光線を放ち、地球を粉々に吹き飛ばした。

 人類は滅んだのだ。一人の愚かな青年の傲慢で。一人の偽善たる少女の怪しい眼光で…。

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「なんてことになりかねないから、買い物はお前が行け!OVER!」

財布を手にして部屋を出た三郎は、隣の妹の部屋のドアを開け、母がしたのと同じ要領で財布を入り口に置き、自分の部屋に戻っていった。

「頼まれたのあんたでしょうが、バカ兄貴!」

ぶつぶつと文句を言いながらも、財布を拾って買い物に行く準備をする、素直で優しい妹であった。


                                     終



☆次回予不告☆

 遂に四天王最後の一角、鋼の王子プロキオを倒したバキューダ。残るは、冷徹非道な残酷皇帝ベベルベゼルのみ。仲間たちの絆を胸に、バキューダは最後の戦いへの闘志を燃やす…!!


次回、駆動電結兵器バキューダ ラストミッション 平和への闘志

最後の最後まで、心の動力炉は、オーバーヒートだぜぃ!!

☆ーーーーー☆


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