任務8 ま た お 前 か

 笑い声の絶えない田園風景にひっそりと佇む駄菓子屋、人助け研究所本部。安住の地たるその本部の中は、その日、張り詰めた緊張感に包まれていた。警戒した様子で店の方を凝視するマスターと冴子。視線の先には、所長を人質に取った河童の姿が見て取れる。強盗犯のように、自分の体の前で所長の首に腕を回しながら、手に持ったおもちゃの水鉄砲を所長の胸に押し当てている。人質事件が発生したのは5分前。レインコートを着た河童風の河童が、駄菓子屋に静かに入ってきた。トイレに行っている間に店を見ていた所長は、レジに立って接客の準備をしていた。この時、まさか河童がカッパを着て現れるなどというシベリアブリザード級の体を張ったギャグが展開されていたなどと、その場にいた冴子も所長も思ってもみなかった。見るからに怪しい河童を近所の親父ギャグ帝王、ゴンゾレさんだと疑う余地なく錯覚していたのだ。河童は、おもちゃの水鉄砲を購入すると、包装袋を破り、レインコートのポケットにゴミをしまい、入れ替わるように出した水筒の水を、水鉄砲に充填した。河童がレインコートのフードを脱いだところで、所長は異変に気付く。頭に皿、黄色いくちばし、緑の皮膚、澄ました様な無表情、背中の亀のような甲羅。それは、どこからどう見ても河童だった。河童以外ありえなかった。河童は、所長が距離を置くよりも早く彼を捕らえ、水鉄砲を所長に突きつけた。所長の叫び声に気付いた冴子は、トイレから戻ってきたマスターと共に、河童の方を睨むように見据えた。そして今に至る。

「貴様、任務4に出てきた河童だな!?目元にアイシャドウを塗りたくっているからすぐに分かったぞ!」

「塗ってねーよ。」

「所長を、所長を放しなさい!」

「動くな。」

マスターが一歩前に足を踏み出すと、河童は水鉄砲を所長に強く押し付けた。青ざめた表情の所長を見て、マスターは仕方なく足を戻した。

「下手な真似をしてみろ。その時はこいつのワイシャツを水浸しにして透けさせ、セルフレーティングの垣根を越えた公開停止必死級の卑猥な行為をこいつに行なってやる。そうなればお前達の活動もお終いだ。」

「くっ、ちょっと見てみたい気もしなくもないが…卑劣な!」

冴子は滴る鼻血を手で拭い、自然を装ってマスターに顔を近づけた。

「さて、どうしたものか…。」

「こういう場合、犯人には何か要求があると思うのですが…聞いてみましょうか。」

マスターは両手を挙げながら、河童を刺激しないように笑顔を作った。

「もし、河童君。あなた、私たちに復讐しに来たのでしょう?何か、望む物があるのではないですか?」

「察しがいいな。そうだ、復讐と俺の嗜好を満たすために来た。」

河童は所長を近くにあった椅子に座らせ、水鉄砲を突きつけながら話し始めた。立ったままでは人質も疲れるだろうという彼なりの心遣いなのだ。

「日本全国にある全ての洋服店の紳士服売り場のマネキン。奴らに被せられたおぞましきかつら共を全て排除して来い。お触り可能なマネキンが減っているせいで、俺の腸鍋は、煮えたぎりすぎてうどんがべちょべちょになってしまった。お前達の人脈ならば容易なことだろう?」

「なるほど、人助けを生業とする我々に、洋服店の迷惑になることをさせることで、我々の良心の呵責を駆り立てるのが狙いか!」

「別にそこまでは考えてねーよ。ただ全国の店だから、電話代とか連絡の手間とか、大変だろ?」

無表情のまま、河童は水鉄砲を自分の口に向けて発射し、すぐに銃口を所長に戻した。久しぶりにたくさん喋って、喉がカラカラだったのだ。冴子は再びマスターに顔を近づけ、要求を呑むか否かの相談を始めた。

「あいつ、相当なフェチストだぞ?あいつの要求を素直に受け入れたら、今度は全国の中高年男性の髪の毛を全て毟り取って来いとか言い出しかねないぞ。」

「かといって、このまま所長を犠牲にして、我々の活動が終了してしまうのも…。」

あの。

「だが、私たちが犠牲になったところで、第二第三の私たちが現れ、いつか世界を暗黒の大地に!」

「冴子君、それでは我々が悪党ですよ。」

一つ宜しいだろうか?

「何だ藪から棒に?こっちは今、所長救出策を練って忙しいんだ!」

それについてなのだが、もしこの話が公開停止となれば、河童自身も活動を停止させられるのではないだろうか?

「!!」

「確かに!!」

「…。」

それから、この話が公開停止になったとしても、他の話は問題がなければ残るはずである。万が一、全てが駄目になってしまっても、問題部分を全て修正してから再公開すれば問題ないのだ。

「それもそうだ!お前、天才だな!何者だ!?」

しがない一人のナレーターである。

「かっこいいですね。」

「そういうことだ、河童!所長を辱めて本を薄くしたければ好きなだけすればいい!所長が嫁に行けなくなったところで、今度は私がお前に、女王様に足蹴にされる喜びを骨の髄まで叩き込んでやる!さぁ、早くやれ!」

「いやいやいや、僕の貞操守ってくれたまえよ!」

泣きべそをかく所長に水鉄砲を向け続けていた河童。冴子の鬼気迫る表情を伺うと、舌打ちをして水鉄砲を指で回転させながら華麗にポケットに収めた。

「卑怯な真似しやがって、バーカ。」

去り際に悪態を吐いて、再び舌打ちをすると、河童は店を出て行った。店の前でマスターの妻に鉢合うが、丁寧に挨拶をしているところを見ると、変に律儀な奴である。冴子とマスターは、腰を抜かした所長に駆け寄り、肩を貸して立たせた。

「所長、無事でなによりだ!」

「本当に…本当に良かった…!」

「二人とも…よく頑張ってくれたね、ありがとう!」

瞳から大粒の雫をこぼしながら、互いの無事を祝い合う三人。和室に所長を運び、彼を横たわらせると、二人は握り拳を突き合わせて、勝利の余韻に浸った。

 人助けをするということは、コマッターを生み出す悪の手先達からの鋭い凶刃が彼らに向けられることに同義なのだ。しかしそれに臆してはならない。時に非情な決断を選択しながらも、彼らは人々の笑顔を守らなければならないのだ。


                                     終



☆認めてやるよ、これは次回予告ではないと…☆

 古代地下帝国「アブルベルデ・ゼゼンドフゴモ・ミピトードヌンバ・ゼヌバゼバビィ=チョコラッタ・ヘネゲレレ・エフレトトニンン・モルト=サヴァザ・ギフレテニハ・チョナギンブブン=エンヤートットーエンヤート・サング・ト・ヘテロギムブ=キジョウガザバナレラマンガ・ヘブライタルンダ・ウルイウルシウルジンジン・ガゾンドガンガマラレーラボンヌキンチャクドンビヒジンニジンククイガヤラ・ベルピオンザトーノエンデレブテヘレメンデ=ニトロクリフムンバハジンマバガ・エゾ・モスモフグリアルバン・ジャロンテゴフンヒジュンサイガラバイ=エレンデレンデレンレンレンレンレンレンレンレンガガガッファイナンパック・チューメロックソクゼクビリーハン・ウラヌマドゥーメホベントランダバハ・ギギンゾギーゾギングググックンヌイトンボンルングン・ベソ・ムニエレ・ハブナダムダム=ソロソロ・アキテーキ・タ・モリモリブリリブリ」、通称、古代地下帝国。時の王、バグン将軍は、エヘレンゼ帝国に参拝した際に、鼻糞を皇帝に投げつけた罪に問われ、60年間太陽の祠に幽閉された。それにより、ウガンボ地方にしばしの平和が訪れたが、これを良しとしない天界と魔界の二重スパイを営むシリアルキラー、マイティネットが、月の涙を携えて、丸めた鼻糞を構え、皇帝のうなじに狙いを定める…。


次回、救え!人助け研究所 任務9 ペンギン仙人曰く「世界には、太陽のペン神、アマペンラスと、闇のペン神、ドドドンドゴリラという二柱の神がいた。目を悪くするから世界を光で包むべしと輝くオーラを大地に振り撒くアマペンラス。網膜が焼け焦げて失明しかねないと世界に暗黒のブレスを吹き付けるドドドンドゴリラ。二柱の熾烈な争いは、半世紀以上も続き、気付けば世界には白黒ペンギンが溢れていた。ペンギン達は、争いを続ける神々のせいで、お洒落眼鏡も色コンタクトもつけられないと不満を漏らし始める。二柱への怒りと憎しみが世界に蔓延すると、世間体を気にした神々は、争いをやめて、コミュニティーを無断でBANして逃げ出したのだ。ペン類の科学的勝利に沸き上がる民衆。しかし、彼らの至福のときはそうそう長く続かなかった。きっかけは、南極にバタフライで辿り着いた一頭のゴリラだった。ゴリラは氷山の上に登り、胸のドラムをけたたましく響かせると、地球上のあらゆる活火山が噴火し、大地はマグマに覆われ、海は蒸発し、ペンギン達は月への移住を余儀なくされた。母星を離れるペンギン達の瞳には、赤黒く染まる地球の中心でマグマを纏いながらドラムを激しく叩き続けるゴリラの姿が焼きついていた。それから5万年の月日が経ち、平常心を取り戻した地球は、未曾有のジャングル惑星へと姿を変えた。その雄大な緑の帝国で頂点に君臨するのは、地球崩壊期にマグマゴリラと雌雄を決した大地のミュージシャン、ベリンゲイだった。ベリンゲイは、ゴリラの覇権を握り、月を信仰して移住したペンギンたちが我が物顔で戻ってくれるような美しい楽園を築き上げたのだ。しかし、その計画には唯一穴が存在した。月に渡ってペンギン達は、火星ペンギンと交配を進め、ビッグバンの引き起こし方を習得したのだ。マグマゴリラに故郷もろとも葬られた数多くの同胞達の敵を討つために、マーズムーンペンギン達は、地球を含む大銀河系ごと灰燼に帰す、始まって終わり計画を企てる。それにいち早く気付いたベリンゲイの弟の許婚の父の隣の家の山本さんちのテレビの向こう側で天気予報を伝えていたお天気お姉さん、むぅは、エリマキトカゲ族から教わった秘伝のアンチビッグバン奥義、バッグビンを携えて、遥か彼方、何億光年も先の月面要塞JIKKAへと単騎乗り込んだ。近未来の技術を駆使して彼女の行く手を阻むマーズムーンペンギン達をエリマキトカゲ族から教わった襟巻き拳法で薙ぎ払い、むぅは、計画の首謀者、マーズムーンベリンゲイのもとへと向かった。ところが、奥で待っていた人物は、むぅの見知った顔だった。襟巻き拳法5432代目師範代見習い代行運転士、アバラポッケパン、むぅの師匠であり、父であり、母であり、ゴリラであった。むぅは己の出生の秘密を聞かされ、亡き祖父の弔いにペンギンとゴリラを全て滅ぼそうとアバラポッケパンに誘われる。復讐心に揺れる思いと重い胸。むぅは無言のまま彼に近付くと、涙を堪えてバッグビンを放った。その瞬間、月はむぅの涙のように青い炎に包まれ、黄色い輝きが微塵もなくなるまで、燃え盛った。銀河の平和は救われたのだ。悲しくも優しい、一人の少女の安息を願うささやかで健気な思いの力で。彼女の遺志を継ぎ、悠久の平和を守ると誓ったベリンゲイは、その後、火星に軍を率いてマーズペンギンとの最後の戦いに臨んだ。ゴリペン冬の陣である。戦況は拮抗し、マーズペンギン達の破邪の弓、ホーリーアーツに次々とゴリラたちは倒れていく。ベリンゲイもまた、志半ばに倒れ、短い生涯を終えた。ベリンゲイ、1269歳のことである。しかして、ベリンゲイの遺志を継いだ勇敢な竜騎士、山本さんは、渾身の一撃、ドラゴン・零・グレートプレッシャーで火星ごとマーズペンギンを消滅させ、人類の真価を世間に知らしめるのであった。意気揚々と、一人地球に帰還を果たした山本さんだったが、彼を待っていたのは、勝利に喜び賑わうパレードの音楽ではなかった。地球に足をつく山本さんは、変わり果てた故郷に言葉を失う。草木は枯れ、大地はひび割れ、空気は一日履き続けた靴下の匂いのように淀んでいた。愛竜から降り、辺りを見回す山本さん。不意に、彼の胸を黒き闇の刃が貫く。山本さんは行き絶え絶えに振り返り、絶望を抱いたまま息絶えた。彼に凶刃を放ったのは、なんと、愛竜、ふんどし丸だったのだ。ふんどし丸は、山本さんの亡骸を丁重に弔うと、毒沼と化したベスビオス運河に身を沈めて封印を施した。もう二度と、生き物同士が血で血を拭うような争いを起こさないように。そして、お気に入りのお天気お姉さんが、番組を降板してしまわないように。心優しい竜は、自分と同じ悲しみを背負う生き物が二度と現れないように、戒めを施したのだ。その竜の末裔こそが、前銀河帝国国王お目付け役馬車騎手、フヌドーシー。お前の生き別れになりかけてやめた、双子の兄の娘だ。」

次回も応援、よろしくなっ!

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