この恋をどうすればいいかわかりません。

 

うぅ~、

泣きそう、ほんとに。

今は絶対泣けないけど。


二人にからかわれたくなくて、じわじわ浸食してくる涙を気合いで散らしていく。


「亮ー、聡子が夕飯食ってけってさー」


いつの間に連絡を付けたのか、お母さんのことを名前で呼んだお兄ちゃんが亮についでに泊まっていけと誘いをかける。


「ラッキー。聡子さんの飯うまいんだよなぁ。夜食何かなぁ」


お泊まりを即決した亮が夕ご飯も食べていないというのにもう夜食を楽しみにしている。


いったいあの細い体のどこにそれだけの食べ物が収まるのだろう。


亮もお兄ちゃんもひょろひょろとまでは行かなくても細身の長身で、見た感じだけだと小食に見えてもおかしくない。


けど実際は見ているだけでこちらの食欲が無くなるくらいの大食漢だ。


私が真似をして(真似をする気なんて毛頭無いけど)食べたとしたら、間違いなく超ヘビー級間違いなしのみはねが誕生するだろう。


食べても食べても太らないなんて、羨ましすぎて更に涙が出そうだった。


汝欲する無かれ。


こんな時に使う言葉じゃないことくらい分かってるけど、今日の私は本当に自分にないものを欲しがる傾向にあるみたい。


もともと自分に自信なんて無いものだから、一度羨ましいと思ってしまうとどんどん欲しくなって歯止めが利かなくなる。


結局諦める羽目になるのに、自分もこうだったらなああだったらなという欲が尽きなくなるのだ。


厄介な性分に心底嫌気が差す。


足下に伸びる影に深い溜め息を吐き出した私は、先を歩き始めた二人の後を追って家路についた。






次の日の朝は最悪だった。


「...神様、これは何の罰ですか」


当然、泣いた罰です。


顔を洗いに洗面所へ向かい、鏡に映った自分を見て卒倒しそうになった。


あれから帰宅してみんなとわいわいご飯を食べて、ゆっくりお風呂に浸かって部屋に戻り、さぁ寝ようかなという段階で、我慢していたものが一気に溢れてきた。


現実と、また勇気を振り絞らなければいけないことと、極めつけは朝日君のそばというポジションを捨てなければならないという事に心臓とココロと感情がコントロールを失ったのだ。


一粒溢れたらもう止めることなんか出来なくて、次から次と流れる涙を流れるままに任せて流し続けた結果、瞼は腫れ目の下には熊が出来て不細工な顔が更に不細工なものへと変化していた。


朝日君と会う最後の日がこんな顔だなんて、何の罰なんでしょうか。


どうせ私のことなんか記憶の隅にも残らないはずだったのに、こんな不細工な顔を晒してしまえば不細工な女が過去に自分の彼女面していたなって記憶になってしまう。


最悪だ。


残らないならゼロでよかったのに、まさかそんな記憶を刻んでしまうなんて。


人生最大の汚点だ。


でもいっそそっちの方が私の方もすっきりするのかな。


とか思いながらも、何度も洗顔を繰り返してはこの腫れぼったさが洗い落とせないかとトライしてみる。


結果は分かりきっていて、実際洗顔の無駄遣いという結果に終わってしまった。


それでも朝食を食べ終える頃には最初の腫れは薄くなっていて、瞼も時間が経つごとに元の位置へ戻っていってるように見えた。


もしかしたら、亮がくれた痔の薬が効いたのかもしれない。


昨日ほんっとうに泊まっていった亮と朝一で顔を合わせて、大爆笑した後鞄から痔のお薬を取り出して私に塗るよう指示した。


亮って痔なの?と聞くより早く否定され、「目元がむくんだときはこれ塗ると落ち着くんだよ」と夜更かしすると目が腫れぼったくなるため、応急処置で塗っている事を話してくれた。


些か不安ではあったし眉唾で、お尻のお薬を目にに塗るなんて大丈夫かなと思ったけど不審がる私のために亮が先に目元に塗った事で不安とそれは一気に飛んだ。


顔を洗ってから塗るようにと渡され、何度か洗顔した後怖いながらも試しに目元に塗ってみた。


直ぐには反応なんて無かったし、この薬のおかげかも分からないけど二時間経った今は最初の酷さはかなり軽減されている。


そして亮を見やると、さっきより心なし目元がすっきりしている気がしないでもない。


やっぱり効くの、か?


と薬を見ていた時、「前にモデルの特番があってさ、目元がむくんでどうしても引かないときはこれ塗るんだってやっててさ、俺も試しにやってみたらほんとに腫れ引いたんだよな、医学的根拠は分かんないけど」と説明してくれた。


モデルもやってると聞いた私は現金にも直ぐそれを信じ込んでしまい、亮に見つからないようこっそりまた目元に塗るというのを数回繰り返している。


そして、今に至る。


その間亮も、後から起きてきたお兄ちゃんも、私の目が腫れている原因には一切触れることはなく。


察しの良い二人は何か読み取っていたのか、すげー顔だなと茶化す以外には何もしてこなかった。


朝日君がらみだということも恐らくばれているだろう。


普段はいちいちからかいを入れてくる二人だけど、私が本当に振れて欲しくないことや触れてはいけないことには絶対触れてこない。


いつもそう。

そっと、傷つかせてくれる。


二人の気の利かせようが暖かくてまた泣きそうになった時、起きてきた一番上の真兄ちゃんが私の顔を見て大騒ぎし始めたから幸いにも涙は止まってしまった。



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