この恋をどうすればいいかわかりません。

分かるけど、

そこには触れられたくなかった。


それは今一番頭を悩ませているとこで、考えるとドツボにはまって抜け出すのが困難な問題。


考えないようにしたい案件だから。


こんな道端で、しかも感情を露にして収集できなくなると困る公共の場所では特に、考えるのは避けたい。


けれど、そんな風に悩んでることを知らない亮は言葉を重ねてくる。


「好きだよとか、まぁ、自分の気持ちを表す言葉は彼から言われたりする?想われてる自覚は持ててる?言葉が悪くてボキャブラリーの少ない恭哉が言いたいのは、そういうこと」


「っ.....」


首を振るしかなかった。


痛いところを突かれて、一番気にしているところをえぐられてしまっては言葉になんてならない。


最初から一度も、今ももしかしたらこれからも、ずっと聞けないかもしれない言葉と持てないだろう自覚。


嫌な予感が的中して、いつの間にか握り拳を作っていたその中にも汗が吹き出ていた。


「なるほど。まぁ、好きだとかいくら言葉を重ねても遊びで付き合う奴は山ほどいるわけだから言葉なんて何のアテにもならないし、言葉は所詮言葉。甘い言葉を連発するような奴こそ危ないってことも無きにしも、だけどね」


私の顔を見て、感情を悟ったらしい亮が少しばつの悪い声を出す。


下唇を噛んだ私に、亮が数回瞬きしてフォローの言葉を入れた。


何のフォローにもならない、むしろ逆効果な言葉だけど気遣ってくれたことが妙に嬉しくて、傷つくことが後回しになってしまった。


私、そんなに酷い顔をしているんだろうか。


自分の顔のことを気にしているとさっき見た朝日君の顔がより強く頭に浮かんでくる。


何か思い詰めたみたいな、言いたいけど言えないみたいな、どうやって言葉にしようみたいな。


そんな雰囲気でしかない表情を見たときから引っかかっていて、自分の顔がどんなか気にしている心とリンクして再び疑問として戻ってきた。


この際だから思い切って聞いてみよう。


お兄ちゃん二人には相談しにくいし、亮なら他人だし二人よりは物腰も柔らかいから話しやすい(チャラ男ではあるけれど)。


場数も踏んでるはずだから。


細かく深呼吸をして、緊張でやや乾燥してしまった口を開く。


「ねぇ」


「何?」


気休めとか嘘とか、誤魔化すような言葉は聞きたくないから、真っ直ぐに亮を見つめて真っ直ぐに答えてほしいことを闇に伝える。


亮の顔も、さっき見た朝日君とは違った種類の真剣なものに変わっていった。


「男の人が真剣な顔で言いにくそうにしてるときって、どんなとき?」


「真剣なことを言おうとしてるときじゃねぇの??」


言いにくいことを止めずに最後まで言い切った後、ずっと黙ったままだったお兄ちゃんが間髪入れずに割り込んできた。


今の今まで黙ってたくせに、何でこの空気を変えるタイミングで入ってくるんだろう。


しかも、質問をそのまんま肯定文にしたような答えを引っ提げて。


分かってます。

それくらいは想像つくし、それ、そのまんまですから。

聞きたいのはそうではなく、もっとこう、具体的な何か、ですから。


やっぱりお兄ちゃんじゃ的確ではないなと若干諦めたところで、亮がうーんと唸って顎に手を置いた。


「そうだなぁ、普段とは違う真剣なことをしようとしてるとき、かな。例えば好きだって告白するか好きな相手にキスとか、もしくはそれ以上のコト?または真面目な男なら別れ話を傷つけない言葉を選んで言うとき、かもね」


最後の言葉で背中に嫌な汗が一瞬にして流れた。


体温がどんどん下がる反面、心拍が上がる。


けれど何かがしっくりぴったり収まったのを感じた。


別れ、話。



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