この恋をどうすればいいかわかりません。
「ぜんぜん気にしてないから」
急に増えたスキンシップにあたふたしていると、程なく頭から手が放れていった。
肝が煮えるとは、こういうときに使うのかな。
違う気がするけど、私にとっては同じような意味だと思う。
朝日君の一挙手一投足、一言一句に全身で反応してしまうのだから肝が煮えたり冷えたり捻れたりっていう表現は間違ってない。
「なぁ、西野谷ってキョウダイとかいるの?」
「え、うん。お兄ちゃんが二人。一人はもう一人暮らしで一緒には住んでないんだけど」
「えっ、二人もいんのっ??いいなぁ、俺アネキ一人なんだけど男兄弟ほしかったんだよなぁ」
羨ましいぜって眉を下げる顔は子供みたいで、たまに見せてくれるんだけどなんかこう妙にキュンとしてしまう。
嬉しくて幸せで、とろけてしまいそうだった。
もうすぐ十一月の空はすっかり夕焼けで、並んで動く影はうんと長く引き伸ばされている。
繋いだ手は暖かくて力強くて、本当にうっかり両想いなんだと勘違いしてしまいそうになって...
朝日君ももしかして私のことを好きになってくれたんじゃないかと勘違いしてしまう自分がいる。
黄昏に感化された胸が切なさに泣いては軋み、自惚れるなとお説教してくる。
朝日君はただ、私のことを知ろうとしてくれているだけ。
じゃあ、何で、手なんか繋ぐの?
好きな人と繋ぐものだよね?
これも、私を知るために必要なこと?
疑いたくないのに疑ってしまう。
軽い気持ちで軽いことなんてしない。
軽く彼氏彼女がするようなこともしない。
じゃあ、どうして、彼女が喜ぶようなことを言うの?
可愛い、なんて...。
さっき疑ったことに対して謝ったばかりなのに、もう疑い始めている。
矛盾を追求したい。
なんて、次々に確かめたくなる衝動なんかに耳を傾けてはだめ。
朝日君とは彼氏彼女だけど、想い想われているわけじゃない。
よく聞くお試しというやつ、なのだろうと思う。
朝日君がそんなお試しをする人だなんて思ってはいけないけれど、でも、仲良くもない私と付きあってくれる理由が他に見当たらない。
身勝手な思い込み以外、無い。
そうやって、自分の都合のいいように捉える思考を片っ端から追い払った。
そうしながら頭一個分以上高い場所にある朝日君の顔を見上げて話をしていると不意に、朝日君が立ち止まって私を壁際へ追い詰めていく。
え、
何...?
いきなりのことと、朝日君から笑顔が消えていることもあって何か怒らせることでも言ったかと必死にさっきまでの会話を振り返る。
けれど、小さな脳みそにはこれと言って怒らせるようなことを言った記憶がインプットされていない。
じゃあ、怒ったんじゃなくて気分を悪くさせたのかと別の視点でもアクセスを試みたが何も引っかかってこない。
ほんの一瞬の間にこれだけのことをやってのけた自分を誉めてやりたいが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。
じゃあ何かと朝日君に改めて向き直った。
「....自転車、くるから」
「え...」
聞いたことがないような声で呟かれ、反射で声を上げ私の目の前を、一台の自転車がベルを僅かに鳴らしてあっさり駆け抜けていった。
朝日君の肩越しに自転車を見送って、自転車が来てることを知らなかった私を庇ってくれたのだとこの時点で初めて悟る。
今まで自転車が横を通り過ぎてもこんな扱いされたことなかったので、無邪気な頭はまたしても“もしや?”と勘違いしそうになっていた。
それをまた、必死の思いで封じ込める。
「あ、ありがとぅ」
「ぅん、や、別に。てか...西野谷」
次は足下にまで響く低い声で名前を呼ばれてびくんと跳ねる。
同時に跳ねた手は朝日君がしっかり握っていて、その手と反対側の手が私の顔の横に伸びてきた。
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