第3話 五月とメイドのバレンタインな日々

 全く売れない作家・五月乃月ごがつのつきとそのメイド・愛糸めいと

 これはふたりの、とある日常をつづった物語、続・続編です。

 今回は、ヒロシと朝霧家も登場です。


「鬼はー外、鬼はー外」

「五月先生、なんで福は内って言わないんですか?」

「ん? それはねヒロシくん、うちにはもう福がいるからだよ」

「どういうことです?」

「口うるさいお多福がいるだろ? ひとり」

「ははは、なるほど」

「あやつには言うなよ」

「言いませんよ。何されるかわかんない」

「うむ」

「今日が月曜日でよかったですね」

「たしかに」


 毎度続く漫才のような……いえ、これは五月先生とヒロシのやりとりです。

 月曜日、めいとさんは朝霧家にお泊りです。

 あちらでも、豆まきしてるでしょうか。


「鬼はー外、福はー……」

「あぁ〜、サトル様、もう少しお待ちくださいませ」

「めいと早くー」

「アポロくんをゲージに入れないと、お豆食べてしまいますから」


 キャン、キャンキャン……。


 やってましたね。

 ご主人のマサトさんが、鬼のお面を被ってお庭に出ています。

 奥様のカオルさんは、キッチンで恵方巻の準備です。

 小学四年生の一人息子サトルくんは、豆を撒きたくて撒きたくてうずうずしてます。

 チワワのアポロくんは、ゲージの中でふてくされています。


「はい、サトル様、いいですよ」

「よーし、鬼はー外、福はー内」

「鬼は〜外、福は〜内」


 キャン、キャンキャン……。


 豆を撒き終わったら、恵方巻と、デザートに桜餅を食べました。

 みなさん、おなかぽんぽんです。


       ☆  ☆  ☆


 めいとさん、朝霧家で用意してもらった自分のお部屋でくつろいでいます。

 手にしているのは、カオルさんにお借りした料理の本ですね。


「はぁーあ」


 おや、めいとさん、大きなため息。

 どうしたのでしょう?


〈もうすぐバレンタインですよね……。手作りチョコの特集ばっかりです〉


 はい。節分が終われば、次はバレンタイデーです。

 節分が家族の行事なら、バレンタインは恋人たちの行事というところでしょうか。

 ほ? めいとさんの……恋人?


〈わたくし、禁チョコしているのですよね……どうしましょう〉


 そうでした、そうでした。

 五月先生が売れるようにと願掛けで、大好きなチョコレートを断っているのです。

 バレンタインチョコは五月先生にですね。


 コンコン……。


 おや、カオルさんです。


「はい」

「めいとちゃん、お風呂あいたからどうぞ」

「ありがとうございます」

「何か声に元気ないけど、どうしたの? 入るわよ」

「はい」

「あら、バレンタインチョコ。五月先生のために作るの?」

「そうしたいところなのですが、わたくし禁チョコしているのです」

「あらそうなの? でも食べるのは先生でしょ?」

「五月様はお優しいので、絶対半分わたくしにくださるのです」

「ま、半分こ。羨ましいわ」

「禁チョコは願掛けなのです」

「そうなの……」

「奥様、どうしましょう?」


 どうしましょうと言われても、カオルさんも困ってしまいます。

 何か良い方法はないかと、めいとさんはもう少し考えることにしました。


       ☆  ☆  ☆


 数日後。


「めいとちゃん、こんなのどう?」

「どんなのですか?」

「チョコレートフォンデュ」

「チョコレートホンジュ」


 ってめいとさん、言えてないから。

 皆様ご存知のチーズフォンジュ、あ……。

 あれの、チョコレート版です。


「これだったら、後にチョコが残ることもないと思うのよ」

「そうですね……」

「めいとちゃんは、フルーツやマシュマロだけ食べればいいわ」

「五月様、おひとりでホンジュしてくださるでしょうか?」

「みんなですればいいのよ。ヒロシくんもいるんでしょ?」

「……ヒロシにはバレンタインしたくないです」


 ちゃんちゃん。


       ☆  ☆  ☆


 さらに数日後。

 カオルさんは、チョコレートケーキを作りました。

 めいとさんもお手伝いしましたが、自分の分は作りませんでした。


「で、めいとちゃんはどうするの?」

「結局良い方法を思いつかなくて……ホンジュにすることにします」

「……フォンデュね。五月先生、喜んでくださるといいわね」

「はい」


       ☆  ☆  ☆


 そして、二月十四日。

 五月家、三時のおやつの時間です。


「五月様、そろそろおやつにしましょ」

「ん」

「おー、なんか甘い、いいにおいですね」

「ヒロシはだめ! お煎餅食べなさい」

「なんでだよっ! って、なにこれ?」

「ほぉ、今年はチョコレートフォンデュか」

「なんすか、それ?」

「こうしてフォークにフルーツやマシュマロをつけて、溶けたチョコにくぐらせる」

「ふんふん」

「たっぷりとついたら、口へ……あちっ……食べると」

「ふぇ〜、面白いっすね」

「ヒロシくんもやってみなさい」

「じゃあおれはイチゴを。チョコにくぐらせて、食べる……あっちぃ」

「どうだ?」

「美味いっす。次はバナナを」

「ならば私はクッキーに」

「バームクーヘン」

「キウイ」


 ……永遠と続きます。


「メイドも食べろ」

「先生、チョコもうないです」

「ヒ、ヒロシくん……」

「わたくしはよいのです、五月様」


 こうしてふたり……五月先生とヒロシは、美味しい美味しいチョコを食べましたとさ。

 おしまい。

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