第2話 五月とメイドの年末年始な日々

 全く売れない作家・五月乃月ごがつのつきとそのメイド・愛糸めいと

 これはふたりの、とある日常をつづった物語、続編です。


「しばらくのさよならです。来年また飾ってさしあげますからね」

「サンタさん、ご苦労さん」

「五月様、本体はこのまま居間で育てましょうね」

「しかし、つくづく和風の家には似合わんな、もみの木は」

「4ヶ月も前からご自分で予約して買ったのに……」

「ははは……」

「それより、物干代わりにしないでくださいましね」

「靴下くらいならいいだろ」

「だめです!」

「気の早いサンタさんがプレゼント入れてくれるかもしれないじゃん」

「ございません、そんなこと」


 毎度続く漫才のようなこのやりとり。

 五月家は今日も安泰です。


「ツリーも片しましたし、年賀状も出しました」

「ん」

「あとは大掃除と、おせちの用意です」

「ラクダの年賀状出したのか?」

「ラクダじゃありません! 馬です」


 説明しましょう。それは11月末のこと。

 年賀状を手描きしようということになりました。

 五月先生はさらさらと、上手に馬の絵を描きました。

 けれどめいとさんのは、どう見てもラクダのようでした。

 風鈴の絵付けではひまわりがみかん、五月先生の肖像画はピカソのよう。

 これまでもめいとさんは、ある意味天才的な絵を披露してくれています。


「誰に出した?」

「実家の母様です」

「それがいいな」

「あとは五月様の絵をスキャンして、印刷させていただきました」

「デザイン料」

「お金取るのですか?」

「冗談だ」

「もう!」

「給料から天引き」

「……」


       ☆  ☆  ☆


 12月29日。

 めいとさんはおせちの準備を、万端整えました。

 そんなこんなで、大掃除も終わりました。


「五月様ぁ」

「何だ?」

「ずーっと、お気に入りの湯のみ探してらしたじゃございませんか?」

「あー、うん。あったのか?」

「……はい」

「どこに?」

「冷凍庫の一番奥に……」

「何でまたそんなところに?」

「ふぅ〜ん、わかりません」


 説明しましょう。それは半年ほど前のこと。

 めいとさんが買ってきたはずのプリンが見当たりません。

 五月先生は、途中のどこかに置き忘れたのだろうと言いました。

 ところが次の日、本棚の下の引き出しの中から出てきました。

 めいとさん、しっかりしているようで、案外うっかり者です。

 (おや、ご存知でしたか)


       ☆  ☆  ☆


 さて、12月30日。

 五月先生とめいとさん、鏡餅を飾っています。

 飾る日には諸説ありますが、29日は二重苦、31日は一夜飾りとして避けられます。


「ほんとうは末広がりで28日に飾るといいのだがな」

「大掃除が間に合いませんでしたから」

「ま、湯のみが見つかってよかった」

「もう言わないでくださいまし。あっ!」

「なんだ?」

「だいだい忘れてました」

「みかんでいいだろ」

「だめでございます。みかんじゃ、代々栄えませんでしょっ!」

「もうお店閉まってるよ」

「八百屋さん、今日はお昼までやってるんですっ!」


 めいとさん、すっ飛んでいきました。


 鏡餅はお仏壇、神棚、床の間、お台所、おトイレに飾られました。

 もちろん、だいだいで。

 玄関にはしめ縄と門松。

 すでにすっかりお正月気分です。


「今夜は晩酌しようか!」

「だめでございます」

「いいじゃない。熱燗できゅーっと」

「いつものアワアワシュワーを一缶です」

「冬はあつか……」

「めっ!」

「けち……」


       ☆  ☆  ☆


 次の日、12月31日、大晦日。

 お台所に風呂敷包みが並んでいます。

 1、2、3……全部で10個。


「では五月様、参りましょう」

「ん」

「重いですか?」

「んー、ちょっとな」

「何回かに分けて行きましょうね」

「それがいい」


 説明しましょう。それは数日前のこと。

 五月先生とめいとさん、ちょっとした喧嘩をしました。理由はこの風呂敷包みの中味。

 おせちの材料があまりに大量なのに、五月先生はびっくりしました。

 それに対してめいとさん、ご近所にお裾分けするのだと説明しました。

 何でも、ご近所さんから口コミで、五月先生の名前が広まればと考えてのこと。

 五月先生はこれを嫌みと捉えてしまいました。それで、口喧嘩。

 でも内心では五月先生、めいとさんの健気な気遣いに感謝しているのです。


「ご近所さん、みんな喜んでくれてたな」

「五月様、来年も良い作品書いてくださいね」

「ん、頑張る」

「あい」


 10個の風呂敷包みは無事、ご近所に届けられました。


       ☆  ☆  ☆


 そして新年、1月1日。


「五月様、明けましておめでとうございます」

「ん、おめでとう。今年もよろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますです」

「さあ、熱燗飲むぞー!」

「おとそをちょっとですよ」

「んー、おせちうまうま」

「もう、聞いちゃいない。お雑煮のお餅はいくつですか?」

「3つ」

「え? そんなに?」

「熱燗うまうま」


 こうしてふたりは、美味しい美味しい新年を迎えましたとさ。

 おしまい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る