五月(ごがつ)とメイドの〇〇な日々/番外編・短編集

五月乃月

第1話 五月とメイドのハロウィンな日々

 それは、10月30日のこと。

 めいとさんが出かけるようです。


「五月様、わたくしお買い物に行ってまいります」

「ん、行っといで」

「ちゃんと執筆していてくださいましね」

「ん」


 めいとさん、大きなかごを持って、何を買いに行くのでしょう?

 ほうほう、この道は商店街へ行くのですね。



「こんにちは、八百屋さん」

「おや、メイドさん。今日は何にするね?」

「ジャックランタンください」

「え? あー、ハロウィンのね。でも、うちにはないよ」

「ございますですよ」

「へ?」

「はい、メイドさん。仕入れといたよ、頼まれていた黄色いかぼちゃ。二個ね」

「おかみさん、ありがとうございますです」


 八百屋のおかみさんは代金を受け取って、にこにこと笑っています。

 一方ご主人は、目をまん丸くしております。


「どういうことだい?」

「くりぬいて作るんだろ。ジャックランタン」

「へー、メイドさんのすることはイマイチわからんな」


 確かに。

 普通ハロウィンの飾りは、おもちゃ屋かインテリア雑貨のお店で買いますよね。

 だけど、そこはめいとさんのすること。

 きっと何か考えがあるのです。



 ザクザクザク、グリグリグリ……。

 ザクザクザク、グリグリグリ……。


 コトコトコト、クルクルクル……。

 コトコトコト、クルクルクル……。


「五月様、お夕飯でございますよ」

「お、カボチャのスープ。美味しそう」

「たくさんありますからね。おかわりしてくださいな」

「うまうま」


       ☆  ☆  ☆


 次の日、10月31日。

 五月先生とめいとさん、玄関を飾り付けしています。

 お化けとコウモリの切り絵を貼って、お菓子の入ったバスケットを置きます。

 最後に、メインのジャックランタンを二個。


「これ本物のかぼちゃだ」

「そうでございますよ」

「あー、だから夕べのスープ」

「あい」

「五月様、お夕飯の前にお風呂へどうぞ」

「もう入るの?」

「違いますですよ。はい」

「バスタブにりんご!?」

「アップル・ボビングでございます」

「そこまでしなくてもいいのでは?」

「ちょっとした余興です」

「ふつーに食べようよ。ウサギさんの形にむいてさ」

「つまらないですねぇ」



 すっかり夜になりました。

 なにやら、外が騒がしくなってきましたよ。


 ピンポーン……。


「あーい」

「トリック・オア・トリート」

「はいはい。キャンディにクッキーでございます」

「あ、このジャックランタン本物のかぼちゃだ」

「ほんとだ。うちのなんてプラスチックの飾りだよ」

「わたくしが作ったのでございますよ」

「なんかいびつだけど、ちょっとこわい……」

「悪戯しないでくださいましね」


 子供たちは仮装して、近所のおうちを回ります。

 めいとさんは内心子供たちに交じりたいのですが、年齢制限でアウトです。


       ☆  ☆  ☆


 そして、11月1日。


「ハロウィン終わったな」

「五月様、来年は完璧な仮装しますから、子供たちと一緒にご近所回っていいですか?」

「だめ! 町会長に怒られる」

「絶対バレないように仮装しますから」

「じゃあ、ピンポンしてからなんて言う?」

「トリック・オア・トリートでございますぅ〜」

「絶対だめ!」

「ぶー」



 おや、いいにおいがしてきましたよ。

 今夜のご飯はなんでしょうね。


「ジャックランタン!?」

「いえ、かぼちゃの器の野菜蒸しです」

「い、いえってお前…」

「ハロウィンはもともと収穫祭でございますからね、感謝していただきましょう」

「ジャックランタンを?」

「八百屋のおかみさんにお願いして、美味しいのを仕入れていただいたのです」

「でも、ジャックランタンだよ?」

「わかりました。お顔はわたくしのほうに向けますから」

「んー」

「お好きなもみじおろしと、ポン酢でどうぞ」

「んー、ん? うまい」

「でしょ?」

「うまうま」


 こうしてふたりはハロウィンを、目でも舌でも充分に楽しみましたとさ。

 おしまい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る