第3話下僕の役目
「って!いきなりこんなのと戦うのかよ!」
アラシが悲鳴を上げるのも無理はない。ダンゴムシの大きさは牛ほどもあり。それが群れを作って襲い掛かって来るのである。
どうあがいても「針」しかもってないアラシは無力だった。
「アラシさん。あの。とりあえず、この輪の中に……」
スキールが腕輪を取り出そうとするが、間に合わずにダンゴムシたちが押し寄せてくる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
恐慌に駆られたアラシは、後ろを向いて一目散に逃げ出した。
「逃げるなんて、だらしない」
「しょうがないよ。平民の下僕だもん。僕たちも気合をいれないと」
少女たちの中にいたオンディーヌ姫は怒り、背の低い少女が呆れる。
逃げ出したアラシを放っておいて、伝説の武器の主人となった勇者の主人たちは戦いはじめた。
「あっはっは!汚らわしい機物たちめ!この正義の剣「レーヴァテイン」の前に滅びるがいい!」
女騎士スクルドは。嬉々として赤い剣を振るっている。赤い剣からは強烈な炎が吹き出していて、襲いかかってくるダンゴムシたちを焼き尽くしていた。
「……仕方ないですわね。これも帝国のためですもの。聖槍グングニ-ルよ。すべてを貫きなさい」
帝国の姫、オンディーヌが真っ白い槍を振るうと。何百もの光のビームが発せられ、その光があたったダンゴムシは破裂して死んでいく。
「姫!危ないですわ。『グレイプニルの鎖」」
オーディーヌ姫の傍にいた青髪ツインテールの少女がチェーンを振ると、近寄ってくたダンゴムシか拘束ざれる。その隙に、オンディーヌは次々と倒していった。
そこから少し離れたところは、小柄な少女が体に似つかわしくないほど大きなハンマーを振るっている。
「えーい。「ミョルニルの槌」だよ!みんなまとめてつぶれちゃえーーー!」
幼い声と共にハンマーが地面に叩き付けられる。次の瞬間、周囲にいたダンゴムシたちに強力な重力がかかり、潰れていった。
彼女たちの活躍で、巨大なダンゴムシの群れは駆逐されていく。
「す、すごい……これなら、安心できるかな」
遠くに逃げ出したアラシがほっと気を抜いた瞬間、後ろから巨大な影が迫る。
いつのまにか接近していたダンゴムシは、アラシに狙いを定めていた。
「ひ、ひえっ!あっちにいけ!」
そう叫んだが。機物は容赦なく襲いかかってくる。
「そ、そうだ。俺にもなんか能力があるかもしれない。えっと……「ミステルティンの針」」
渡されていた針を手に持って振ってみたが、何の反応もなかった。
「この!なんで何も起こらないんだよ!」
全く使えない針に絶望するアラシだったがどうしょうもなく、ダンゴムシに突き飛ばされてしまった。
「ぐえっ!」
血反吐を吐いて地面に転がるアラシに、さらに他のダンゴムシが突進してくる。
「もうだめだ!」
思わず眼をつぶるアラシだったが、、いきなりダンゴムシがとまる。
次の瞬間、いきなり吹いた竜巻によって、ダンゴムシは吹き飛ばされていった。
「……ギャラルホルンの角笛」
アラシに声をかけてきたのは、緑の髪をした15才くらいの少女である。
彼女は持っている角笛を吹くと、迫ってきたダンゴムシの体が錆びてボロボロになっていった。
「……大丈夫?」
腰を抜かしているアラシを見て、心配そうに聞いてくる。
「あ、ああ、助かったよ。ありがとう」
「……どういたしまして。でも、無理はしないで。あなたは人間。魔力がないから、機物とはまともに戦えないと思う」
緑髪の少女はそういうと、戦場に戻っていった・
「……なんなんだよ。もうやだよ。戦えないなら、日本に返してくれよ……」
その場に座り込んで愚痴をもらしていると、目の前に黒い輪が落ちてくる。
「アラシさん!ご無事でしたか?」
黒い輪から表れたのは、スキールだった。
「……大丈夫じゃないよ。本当に死に掛けたんだぞ」
「ごめんなさい。いきなり戦いがはじまってしまったので、アラシさんを見失ってしまったのです」
謝りながら、黒い輪を広げて結界を作る。アラシのいた場所は結界に囲まれた。
「その中にいれば安全です。では、私も戦いに戻りますので」
スキールはぺこりと頭をさげて、仲間たちの元にもどる・
「ドラウプニルの輪」
スキールが円盤投げのように投げつけた輪は、何匹ものダンゴムシを切り裂いた。
「よし、一気に倒しますわよ!」
オーディヌの指揮に従って、六人の勇者は機物の群れを駆逐していく。彼女たちは死んだ機物たちから魔力を吸収して、どんどん強くなっていく。
アラシはそれを、安全な結界の中で見守ることしかできなかった。
機物を全滅させたあと、六人の少女とアラシはロンギヌスの街の城門の前にくる。
「グレートキャタプラーの群れは退治したぞ!開門!」
スクルドが声を張り上げると、街の中から歓声が沸きあがる。
「勇者様に救われた!」
「六人の勇者様、感謝します!」
たちまち城門が開かれて、六人の勇者が招き入れられる。彼女たちを褒めたたたえているのは、大部分が人間だった。
誰もが熱狂的に彼女たちを迎えるも、その後を従者のように従うアラシに感謝する街の者はいなかった。
スキールの輪で帝都に戻った勇者たちは、女帝と謁見する。
「わが娘オーディヌとその仲間たちよ。最果ての町ロンギヌスを守り、機物討伐ご苦労であった」
偉そうに玉座に座った女帝がねぎらうと、彼女たちは誇らしそうな顔になった。
「お母様、機物退治など簡単でしたわ」
「女騎士としての本分を果たさせていただきました」
オーディヌとスクルドが代表して返答する。
「うむ。我が帝国が誇る六勇者よ。これからも帝国を守るのじゃ」
女帝のその言葉で謁見は終わり、彼女たちとアラシは退出する。
「……って、あれだけ?」
何か褒美とかもらえると思っていたアラシは、期待はずれだった。
「帝国を守るのは、公女として当然ですわ」
アラシの隣にいたスキールは、何も報酬をもらえなかったことを別におかしいとおもっていないようだった。
「あっはっは。今日はじめて機物と戦ったけど、楽勝だったねーーー」
巨大な槌を担いだ少女が明るく笑う。
「でも、お気に入りの服が破れてしまいました。戦いのために誂えた、聖なる服なのに」
オーディヌは、不快そうに自分の服を見る。
「仕方ありませんわね……そこの下僕さん」
オーディヌはなんとなく一緒にいるアラシを呼んだ。
「は、はい」
「私の服を縫いなさい」
アラシの前で堂々と服を脱ぎながら、えらそうに命じた。
「ふ、服を縫うんですか?そんなの、やったことないというか……」
意外に豊かなオーディヌの下着姿にじきまぎしながら、アラシはつぶやく。
「つべこべ言わない。『針』の使い道といえば、服を繕うことでしょう。さっさとなさい」
オーディヌから責められ、しぶしぶ服を手に持つ。針を破れた箇所に当てて見ると、針の尻から黄金色の糸が出てきた。
同時に、今までやった事もない針仕事の知識が脳裏に浮かぶ
「ほら。やっばりあなたの仕事はそれなんですわ」
ちくちくと繕い始めたアラシを見て、オーディヌは勝ち誇ったようにいった。
アラシが縫い終わると同時に黄金の糸は消える。
しかし、服の破れたところは完全に修復されていた。
それを見て。スキルドが頷く。
「なるほど。『針』とはそういう役目なのか。確かに戦いを続けていれば。装備品が消耗していくだろう。その針は、壊れた物を修復できるのかもしれん。ならば……」
スクルドは持っていた赤い剣を手渡す。それはグレートキャタプラーの硬い金属の外殻を切り裂くという激しい戦いで、ところどころにヒビが入り、刃こぼれしていた。
「その「針」で剣を修復してみてくれ」
アラシが剣に『針』を当てると、まるで布のように刀身は柔らかくなり、縫い合わせることができた。ヒビがはいった部分を縫い合わせ、針で剣の刃を砥いでみると、きちんと修復されていく。
スクルドの剣「レーヴァテイン」は、新品同様に蘇った。
「ボクのミョルニルの鎚も直して!」
「……グレイプニルの鎖の修復もお願い。いくつか千切れたところがある」
ほかの少女からも、伝説の武器の修復を頼まれる。
こうして、アラシの役割は「修復役」と決まってしまうのだった。
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