第四夜

ピチョン……ッ……

「……あ〜ぁ壊されちゃったかァ〜…………まァ良いや、まだまだあるしね♪ ……お、千年こぉうお話って何かなァ?」

「あぁレーヴ……貴方まァたちょっかい、かけてましたネ?♡ いい加減にしないと怒りますヨ?♡」

「……解ってるよ〜♪」

「だと良いんですガ♡ ……此処にある守護石アルヴストーン快楽ヴィルズと一緒にこわして来てくだサイ♡」

「ん〜? 何処何処ォ?」

レーヴは伯爵に差し出されたカードを受け取って眺め、目を細めた。

「…………千年公〜此処って前処刑場兼監獄だった所だよねェ?」

「そうですネェ?♡ 何々レーヴ、若しかして怖いんデスか?♡」

「いや別にィ? ただ凄く臭いよねぇって思ってね?」

「まァそうですネ……何百年も昔の場所ですカラ♡」

「うげぇ……」

レーヴと呼ばれた少年は顔を顰めて萌え袖状態の袖を口に当てる。伯爵はニコニコと笑顔を崩さずにレーヴを見ている。

「…………千年公さァ、その喋り方どうにかなんないのォ?」

少しイラッとする伯爵の言い方に飽きれながら、溜め息を吐きつつ疑問を投げ掛ける。

「無理ですネェ♡ 当分変えるつもりもありませんシ♡」

「マジか……まァ良いんだけどさ」

そのあまりにも気の抜けた質問に伯爵は芝居がかった動きで片手を顎に当て、大きく溜め息を吐く『夢幻レーヴ』と呼ばれた少年を見ながら微笑むと仕事へと促す。

「ホラホラいつまでもこんな所に居ないで、早く快楽ヴィルズと一緒にアレを毀して来てくださいナ♡」

「…………あんなの一人で毀せるしィ……」

「自信があるのは良い事ですケド、油断は禁物デスヨ?♡ それに今回は場所が場所デスし♡」

「解ってるしィ〜。それに自信があるんじゃなくてただ事実を述べただけです〜」

子供が拗ねた時に使うような口調になり、心做しか頬も少し紅く染まっている少年を見て何を言う訳でも無く、ニコニコと笑っている伯爵の所に頭を掻きながら歩いてくる男性が居た。

「公〜まだあの餓鬼んちょ、来ないんスかァ〜? 俺ァ、早く行きたいんスけど〜」

その妙に間延びして力の抜けた声が、彼が今の今まで寝ていた事を証明している。

「嗚呼やっと目が覚めたんデスか快楽ヴィルズ夢幻レーヴなら少し前からハコに居ましたヨ?♡」

「へぇ〜そうなんスかァ〜? すいません気が付きませんでしたァ〜……で、今何処に?」

「……」

その途端ブワッと背後で膨れ上がる殺気でやっと気付いたらしい快楽ヴィルズ

「おろ〜? 餓鬼んちょ、此処に居たんかァ〜。あんまり小っこいから気付かんかったな〜」

「だ・れ・が、チビだこの寝坊助ノロマ野郎ッ!」

「誰も『チビ』って言って無いし〜。俺はただ『小っこい』って言っただけだし〜」

「チビチビ言うなァ────────ッ!!」

「はァ……夢幻レーヴ、此処では静かにして下さいネ♡ 後快楽ヴィルズも面白いからって揶揄うのも、程々にして下さイ♡」

伯爵に注意されて顔を怒りで紅くし頬を膨らませているレーヴ少年と愉しそうに口元をニヤリと笑みの形に動かして肩を震わせているヴィルズ男性の対照的な姿を見て、伯爵は『ヤレヤレ』と首を横に振って促す。

「ホラホラ二人揃ったんですカラ、早く仕事に行ってらっしゃイ♡ 二人とも道中喧嘩しないで下さいネ?♡」

「クククッ……まぁ出来るだけ弄んないように善処します。じゃあ行ってくるスね、千年公」

「チッ…………行ってくるよ千年公」

「はいお気を付けて行って下さいネ♡」

「あ、そうだ。双子がまたなんかしてましたけどいいんスか?」

「またあの子達ハ……♡」

快楽ヴィルズの言葉に呆れながら『千年公』と呼ばれていた男性は、たぽたぽとお腹を揺らしながら扉の奥に消えた。

「千年公も変わんないねェ?」

「お前もな」

「じゃあ行きますか〜」

「だなァ?」

喧嘩していたとは思えない程朗らかに笑いながら、二人は夢幻レーヴの創り出した扉に消えていった──。

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