第三夜

扉の中に消えた青少年二人は、薄暗いもりを目的地に向けて歩いていた。

白髪の青年が傍らの少年に話し掛ける。

「シグレ、気ィ付いてた? ボク達がってるトコ、誰かに見られてたの……」

「だろうな、ってる最中に視線がビシバシ飛んできてたし」

「団長さんに一応報告しとく?」

「しなくても良いだろうが、一応保険として報告っておくか」

「ん、そだね〜……」

そうこう言ってるうちに、目的地である一軒の屋敷が見えてきた。

ボンヤリと淡い光を放つその屋敷からザワザワと騒がしい声が聴こえてくる。

その声を聴いて思わず笑みが零れた白竜パイロンと呼ばれていた青年が愉しそうに呟く。

「なぁんか騒々しいけど、皆何してんだろうね?」

「どうせまた下らない事やってんだろ。アイツら馬鹿共の事だし」

「あははッどうだろうねぇ。団長ツカサさんの事だから何もやらない、って事は無いだろうけど」

話しながらゲートをくぐって中に入る。

廊下を突っ切って大部屋まで行くと、其処には屋敷に居る殆どの人間が居るのでは無いかと錯覚する程の人間ヒトが集まっており、ザワザワガヤガヤと話していた。

任務仕事から帰ってきたばかりのシグレと白竜パイロンは暫し沈黙して、互いに顔を見合わせ、首を傾げる。

やっとシグレ達の存在に気付いたらしい目の下にクマを作った20代後半の男性がコチラに向かって手を振って近付いてくる。

「よぉ、任務お疲れ様ッ!!」

そう言いながら、白竜パイロンの背中をバンッと音を立てながら叩く。

それを「痛いですよ」と笑って、白竜パイロンも相手の背中を叩き返す。

シグレはソレを半眼で見ながら

「で? この集まりはなんな訳?」

と質問を男性にぶつける。

それに「嗚呼あぁ!」と自分のてのひらに拳をぶつけながら、頷いた。

「何かまた団長が仕組んだらしくて。それで何かこんなに集まってるみたいです」

その言葉を聴いてシグレの顳顬こめかみにピキピキッと幾筋もの青筋が浮かび上がる。

「そうか、やっぱりあの馬鹿バカの仕業かよ。コッチは疲れて帰ってきたって言うのにな……ッ!!」

と低い声で言う。背後には般若が浮かんでいるので普段よりも怖い事この上無い。

まァまァとシグレを宥めつつ白竜もまた、首を傾げる。

「けど此処に来てるのって明らかに武闘派連中ですよね?」

「ハイ。自分も疑問に思ったんで団長に訊いたら、『シグレさんが武術を見てくれるらしいよ』って武闘派連中にだけ▪▪伝えたらしいんですよね……だから武闘派連中しか来てないんです」

その返事を聴いて、シグレが更に青筋を立てながら噛み付く。

「はァ!? 誰もンな事云ってねェぞ!? 何嘘吐いてやがんだ、あの馬鹿団長ッ!!」

その怒鳴り声を聴いて、今まで話していた武闘派連中がシグレに気付く。

「あッシグレさんだ! 今日こそ今日も今日とて相手して貰おうぜ!!」

と一人が叫んだのを皮切りに自分も自分もと周りも叫び始める。

「シグレさん相手お願いします!」

「シグレさん今日だけで良いですから、お願いします!」

「誰がやるかァァァァァァァァァァッ!!!」

叫ぶと同時にシグレはダッと脱兎の如く部屋を出て、廊下を走って逃げる。ソレを武闘派連中が追い掛けながら必死に懇願する。

「シ〜グ〜レ〜さ〜〜んッ今日だけで良いですから相手して下さい〜ッ!!」

「誰がするか! お前らなんか弱過ぎて相手に何ねーよ!!」

とシグレが全力で逃げながら鋭い一言を放つ。

ソレを聴いた、武闘派連中メンバーは、ある者は落胆したりある者は意地でも相手して貰おうと、追い掛け回す。

白竜パイロンはその光景を見ながら苦笑して溜息を吐いた。

そしてシグレに向かって大声で叫ぶ。

団長ツカサさんにはボクから報告っておくから、充分遊んできて良〜よぉ〜」

「遊んでねーから! て言うかお前は此処でボケをかますなぁぁぁぁぁッ!?」

白竜のボケをシグレが大声で突っ込む。さっきから叫んでばかりなので声が枯れかけている。

そしてそのまま大勢の人間に追い掛けられながら廊下の奥に姿を消した。

それを見て青年パイロンがあはは〜と笑う。

「帰ってきて早々大変だねぇ〜人気モノは。僕人気モノじゃ無くて良かったなァ〜」

その呟きを聴いて、隣に居た男性がボソッと突っ込む。

「イヤイヤイヤ……お前も充分人気モノだからな白竜パイロン

突っ込みが聴こえなかったらしい白竜が

「じゃあ団長ツカサさんに報告書提出してきます」

と言ってサッと団長の居る司令室に向かって歩いて行った。

男性は色素の薄い茶色の髪をガシガシッと掻くとすっかり静かになった部屋を見回しながら、凝り固まった肩をゴキゴキッと鳴らして腕を動かす。

「さぁてと、仕事しなきゃな〜……後は班長に言われてた危険物アレを隠さないといけないんだったか……」

ブツブツとやる事を呟きながら研究室ラボに戻っていった。

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